初心者のための登山とキャンプ入門

クライミングロープでお引越し

荷物を降ろす北尾くん

あらすじ
マンションの2階に住んでいた姉夫婦は、庭のある1階にお引越し。
俺と親父は東京から名古屋へ、引越しのお手伝いに行きました。

アネの日記 :「作戦を成功させなければ、というプレッシャーを感じた。」

二階のベランダから下を覗き込んで、北尾くんが言った。

「これ、なんとかしてベランダから荷物下ろせないかね、ポイポイって。」

「ばかじゃないの」そういって終わったけど、そのあとずっと考えていた。
ふと、大学祭の時に山登りサークルのアピールのために、
体育館の天井から懸垂下降をしたことがあったことを思い出した。(私じゃないけど)
「支点さえいい場所に取れれば、出来るかも。
だって60キロの人間がスススーって降りることが出来るんだから、
たかだか20キロのダンボールが下ろせない訳はない。」

ちょうどそんな日、名門名古屋大学の建築学科を卒業した二人が遊びに来てくれた。
二人にアイデアを求めた所、さすが建築学科らしく
「滑車を作成する」という方向であーだこーだと考えていてくれた。
しかしその時説明をしながら私の考えは確信に変わっていた。「できる」。

それから度々イメージした。問題の1つは荷物を包むもの。
ホームセンターに見に行った。引越し後のダンボールを大量に処分するのは嫌だから、
本当は取っ手がついた大きなかごに物を入れて下ろしたい。
でも、当日モノをカゴに入れる作業、
カゴからモノを出す作業が同時に発生すると時間をたくさんくってしまう。
ちょうど一年前、転勤でここに来た時のダンボールの開梱作業と
箱の処分のウンザリさは記憶に鮮明だ。
考えた挙句、私はドラッグストアでトイレットペーパーの大きなダンボールを沢山もらってきた。
小さくいダンボールは形も揃って持ちやすいけど、箱の数が膨大になる。
それに大きな箱だとぽいぽいと何でも入ってしまう。
北尾くんは、次々と梱包されていく大きな箱を見て、
「持ちにくいよ。底が抜けちゃう。引越しは二人で運ぶより一人のほうが断然ラクなんだよ」
「しっかりした小さいやつをホームセンターで買ってきなよ、
そこはケチケチしなくてもいいじゃん」と何度もいった。
「わかったよ」といって、私は無視した。私には明確なイメージがあった。

では、その大きいダンボールはどうするのか。
運ぶイメージは、北アルプスの山小屋にヘリコプターで搬送されてくる、
あの網に包まれたダンボ-ルのイメージだ。網の四隅をカラビナで留めればいい。
それから家の近くのホームセンターに行って網をさがした。
ちょうどいい感じのしっかりしたのものはなかなか見つからなかった。
相場は1mで500円。試しに買ってみるには、高い。
漁師をやっているおじさんに使っていない網を借りたかった。
しかし、網は重要な商売道具だ。頼むことはできなかった。
そしてとうとう見つけたのが、ゴミに掛けるカラス避けのネットだ。
タテヨコ1.5mの正方形で1500円程度。
しかも風で飛ばないように、ふちは重めにしっかりとした作りになっている。
これなら、カラビナをかけて負荷がかかっても破れないだろう。

荷を包むネット

鳥害対策用のネット。四カ所のスリングにカラビナを通して荷物をくるみます。

あと、東京にいる弟に幾度と無く相談したのは使うロープだった。
一般的な黒と黄色の虎ロープは、100mで1000円と安い。
ちょっと頑丈そうなロープは切り売りで1m200~300円と、使い捨てにするには安くはない。
ヘンなロープを使って、東京から持参してくれるビレイ機を痛めてしまっても申し訳ない。
ホームセンターのではなく、クライミング用のロープを買ってしまうか、借りるか。
「誰か、ボロボロになって捨ててもいいザイル持ってる人、いないかな」
何人か頭に浮かんだけど、どうも「二階のベランダから荷物を降ろす」
っていう説明をするのがはばかられて頼めなかった。
ザイルって重いから、送料だってかかるだろうしね。
「あの人いらないザイルいくつか持ってそうだ」と頭によぎった人が、
頭の中でしゃべった。「買えば?」。
そうだね、若かったら何も考えずお願いしていたけど、
最近では人の手をわずらわせることのロスも考えるようになった。
といいつつ、ネットでのお買い物上手な弟に、
ネット上で買えるロープの値段を調べてもらった。
では、何ミリのものを、何メートル買うか。
うちのベランダの手すりから一階の地面までが4.2m。
ロープは往復だから9mで、あとは先端の結び目とビレイに必要な部分で、
合わせて13mあれば間に合う。ロープは、その後弟が使うなら、
使いそうなやつを買えばいいと思った。 計り売りもある。
すごく迷ったけど、結局、値段が安めの8mmの20mを買うことにした。4600円だ
。8mmでは日本の基準では人体確保用には使わないで、
沢登り用の補助ロープとかそんな風に使うらしい。
まぁ、この作戦ではロープの具合がすごく重要になるから、これは必要な投資だ。
届いたものを見たら、8mmというのは思ったよりもとても太く、しっかりしていた。
しかもホームセンターで売られていた大して値段が変わらないロープとは比べ物にならないくらい、
つかい易そうだ。かわいい袋にも入ってたし、大満足だ。

ベアールのクライミングロープ
【ベアール補助ロープ】ランド8mm 20mゴールデンドライ

引越し当日が近づいてきて北尾くんが度々言った。

「どうして引越し業者に頼むってことをしなかったんだろう」
「もしかして、業者に頼んだほうが安かったりして」。
数日大雨が続いて、「まさか当日雨が降ったりして」と考え始めてからは、
さらにそんな事を度々口にした。
そのたびに計画が否定されているような気がしてむかつきながらも
作戦を成功させなければ、というプレッシャーを感じた。

引越しの前々日、ドラッグストアからもらってきたダンボールを二階に上げるのに、
階段を3往復したら太とももの筋肉が痛くなった。 一気に暗雲が立ち込めて来た。
そんな時、もう一人お願いしていた親戚のたけちゃんからメールがあった。
「仕事が入ってしまって、お手伝いいけなくなりました」。
「了解!今度遊ぼうね」と返信しながら思った。
たけちゃん、お手伝いじゃないんだよ。
たけちゃんは、北尾くんに次ぐ2番目の力持ち要員なんだよ・・・本当は言いたかった。
だって、一階のカギが10時に貰えて、
16時には掃除を済ませて二階のカギを返すんだよ、だれが冷蔵庫運ぶのさぁ~。。。

便利屋さんを一人頼もうかとも考えた。でも、間に合う気もした。
さすがに北尾くんには言い出しづらかった。
だけどそうなってしまえば、北尾くんも文句は言わなかった。
再びベランダに乗り出して、ヤル気で検討し始めた。
私はちょっと心配していたけど黙っていた支点の場所について相談した。
本当は高いところにあればベストなんだけど、いい場所が見当たらなかった。
知恵を出し合ったら、窓と窓の間の壁で取れる、とひらめいた。
そして北尾くんはおもむろに、さくちゃんの子供用のジムをロープの先端につけて、
真っ暗闇の一階の庭へ、ススススーっと下ろした。
真夜中だった。「カタン」と音をたててジムは一階に着陸した。
「いざとなればこうやって普通にロープで降ろすだけでもできる」、
「だったら下から確保してたらもっと簡単にできるね」。
北尾くんはやっと「できる」と確信したようだ。調子に乗ってきた。
「あと、下に布団かなんか敷いて、ポイポイって投げちゃおうよ」。
大胆になってきた。この変わり身の早さは相変わらずすごいな。

あとは、シュリンゲ(スリング)という便利なグッズがあったことを思い出して、
余ってたロープでいっぱい作ってモノにくくりつけておいた。
網で包まなくても、その場でロープの先端につけたカラビナを引っ掛けて降ろすためだ。
あぁ、山の技術がこんな所で役に立つなんて。
やってて良かった~。

ハーブを降ろすカゴにスリング

ハーブもカゴに入れて降ろしています。わかりにくいですが、取っ手の先端にスリングがついています。

そして当日には時間のロスなく始められるようにあらゆる準備をすませておいて、
大船に乗った気持ちで弟と父を迎えた。前日のことだ。

なのに、到着するなり、「ベランダを見せてくれ」、
「おまえ、この人数で運ぶのはムリだぞ、いい方法考えたんだ。3時間考えたんだぞ、話を聞いてくれ。」
・・・ええ~今からなんか装置を作るんですか?!
もう夕方の6時半なんですけどー。

突然別の作戦に切り替えようという父。この先どうなってしまうんだろうか?!

オトウトの日記:「親父もずいぶん年をとったな。それとも俺が年をとったのかな。」

引越しの前日

名古屋に向かう高速バスの車内で俺は考えていた。
引越しを16時までに終える事はできるのだろうか。
「ロープ作戦」で間に合うのだろうか。俺が人一倍がんばるしかあるまいか。
俺は前回の姉の引越し作業にも参加しており、
ダンボールの開梱作業でぼろぼろになったのを記憶している。
悲惨な旅になりそうだ、なんて事をバスの中でぼんやりと考えていたりした。

ふと隣の席に座っている親父に相談してみようと思った。
親父に相談してしまうと必要以上にオオゴトになる、というのはわかっていたが、
少しだけでも良いアイデアがでないだろうか、
と軽い気持ちで相談したのだ。

俺 「引越しなんだけど、2階から1階へロープを使って荷物を降ろす予定なんだけど、
他になんかいいアイデアないかな」

●ハシゴ作戦

「なるほどな、だったらハシゴを使えハシゴを。
1階から2階まで長いハシゴを掛けて、そこに荷物を沿わせて降ろすんだ。
2階の人間がロープを持って降ろす、
ハシゴに沿わせれば荷物の重さは~%になるから持てない事はないだろう。
それしかない。」

●ハシゴ作る作戦

「長いハシゴは確かに値段が高いかもしれんな。だったらつくればいい。
角材長いのを買ってきてつなげて、ベニヤをひいたらスーっと行くだろう。
妙のところに工具あるかな。」

俺「妙ちゃんの車に入らないでしょそんな長いの。
それにホームセンター閉まってるっしょ。」

「いや、名古屋につくのは6時頃だから間に合う。
ホームセンターでトラックの貸出しもしてるだろ。
よし、それでいこう。」

●竹でハシゴを作る作戦

「そういえばあの辺に昔竹を売ってる店があったんだよなー。
今あるかなー。俺が高校の時文化祭で龍を作ったんだ。そこで竹買って・・・」

高速バスは名古屋に向けひたすら走り続けている。
空は雲が覆い、窓ガラスには雨の跡がポツポツとあった。

親父がハシゴのアイデアを大声で語っている間、俺はほとんど沈黙していた。
どうも親父のアイデアが現実的ではない気がしたのだ。
親父はアイデアを色々と出すがどれも大掛かり。
そのために金も時間もかかるし、終わったらゴミもでてしまう。
しかも、名古屋についてすぐホームセンターに行き、その後に作業なんて。
親父の元気そうな姿を見ていると嬉しくて「何かを作らしてやりたい」 とは思うのだが、
明日の引越しのため、今日くらいゆっくりしておきたい、と考えた。

そして俺は提案した。

●階段をすべらす作戦「ベニヤ」

俺 「だったら外の階段を滑らせば同じ事じゃないかな。
外の階段は確かまっすぐ1本だったから、ダンボールを階段に敷き詰めて
そこを滑らす。これなら何も買わなくて済むじゃん。
階段までの距離があるから現場をみないとわからんけど。」

「いや、階段がまっすぐならそれもいいかもしれないな。
でもダンボールよりはベニヤをひいた方がいいだろ。
ダンボールがへこんで途中でつっかえるかもしれん。」

●階段をすべらす作戦「レールと台車」

「いい事思いついた。ベニヤの上に長い角材を2本並べてレールを作って、
その上を作った台車を滑らす。これならすーっと行くだろう。」

俺 「そんなん作る時間ないっしょ。」

「なぁに言ってんだ、こんなん一瞬だ」

●階段をすべらす作戦「ソリ」

俺 「台車を作るんだったら、このレールいらないじゃん。
このまま台車を滑らせれば大丈夫っしょ。」

「だったら初めから台車にタイヤの代わりに角材をつけてさ、
ソリみたいに。そうだソリだ!ソリでいいんだよ。
でもどうやって固定するかな。半円形の木材は。。。ないだろうなあ。」

そうやって、どれくらいだろうか、3時間くらいだろうか、
俺と親父はバスの車内で、ノートに絵をかきながら、
「階段作戦」、について語りあった。
そして最終的にはこの様な形になった。

階段作戦のイメージ

確かに、このような台車を作るのが「階段作戦」としてはベストだ。
使用している材料も少ないし、台車を作る時間も少なくて済む。
そしてこの案が決まってからは、俺と親父も無言になった。
これ以上はもうアイデアが出ないところまでお互い考えつくしたのだ。
それに本格的に考えるのは実際に現場を見てからの方が良い。

しかし俺の引越し作業への不安は解消されなかった。
いずれにせよ16時までに引越し作業は終わらないのでは、
「階段作戦」が「ロープ作戦」より早いとは思えないな、と考えていた。
また姉がこの「階段作戦」を採用するとは思えなかった。

そして俺と親父は姉の家へと到着した。

姉の家に到着

姉の家を正面から見て俺は愕然とした。
階段の構造が記憶と違っていたのだ。
まっすぐだと思っていた階段には途中に広い階段があるし、
おまけに一階の家のドアまでは6段ほどの上りの階段がある。
これじゃあ階段から荷物をスムーズに滑らす事なんてできないじゃないか。
俺は心の中で「階段作戦」を諦め「ロープ作戦」をとる事を心に決めた。

姉の家に入ると部屋にはダンボールが積まれ騒然としており、
まさに引越し前夜と言った感じだった。
早速姉にロープでの荷降ろしの手順を聞くと、
ロープの支点は窓と窓の間の頑丈な柱を使うようだった。
また2階から1階を覗いてみると、俺が記憶していたよりも庭は広く、
段差などもなくロープで荷物を降ろすのに適していた。
しかもすでにスリングは荷物に取り付けられている。
これらを見て、案外大丈夫かもしれないな、と思った。
不安だった支点も充分に頑丈そうな柱だし、
たとえ重い荷物をロープで降ろすことができなくても階段で降ろせばなんとかなるだろう。
という気がしてきたのだ。
しかし親父はそうではなかった。

「いい案を考えてきたぞ!聞いてくれ!」

と姉にものすごい勢いで「階段作戦」をプレゼンしている。
脳みそが興奮しきっているのだろうか、作業をたくて仕方がないのだろうか。
ひたすら姉にまくし立てている。
姉はその話を聞いているのかいないのか、
「階段作戦」を一蹴するかと思っていたが、静かに話を聞いていた。
俺は心の中でその案を受け入れてくれるな、と思っていた。
しかし姉はやさしさからだろうか好奇心からだろうかその案を受け入れた。
(ちなみに俺は親父がこんだけ作りたいなら作らしてあげてもいいかもしれない、
という優しい考えを少し持っていた。)
その案を受け入れ、俺らは名古屋に到着して間もないと言うのに、
ホームセンターへ向かう事になった。

ホームセンターでは親父と姉が階段をすべらすための台車の材料を検討したり、
店員に材木を切ってもらっていた。
その間「いち抜けたぜ」と考えてた俺はメイのサクちゃんと遊んでいた。
「階段をすべらす案」にはもはや興味がなかった。
それよりも、もうこんなのやめて夜飯を食べようじゃないか、と思っていた。

ホームセンターで楽しむサクちゃん

ホームセンターで遊ぶサクちゃん。

食事をして姉の家に帰ると、早速台車を作る作業を開始。
そして引越し当日を迎えた。

引越しの荷降ろし「ロープ作戦」

ビレイヤー

1階で荷物の確保している様子。朝8時ころ。

10月1日。朝7時30。ロープによる引越作業はじまった。
俺は一階で荷物の確保を、北尾くんが2階から荷物を降ろした。

手始めに子供用のジムを降ろす。緊張の第一回目。

すーっと、静かにジムは地面に着陸。
途中でぶれることもなくまっすぐと地面に降りた。
カラビナを荷物から外すことも、ロープを上げて北尾くんに渡すのも
思っていたより手間がかからず悪くない。
続いてイスや扇風機、物干しなどを続けざまに降ろす。
あっけないくらいスムーズに荷物は降りてゆく。

支点1

窓と窓の間の柱で支点をとっています。

支点2

ベランダ側から見るとこんな感じ。

そしてたんたんと荷物を降ろす作業は進んだ。
重たい荷物を降ろす時北尾くんは大変そうだったが、
まあ彼は力持ちだから大丈夫だろう。
遠くで養生テープを伸ばす「ビーッ」という音が聞こえる。
親父が階段の養生をしているに違いない。

荷降ろし中の北尾くん

荷物を適当な位置まで降ろす北尾くん。このポジションが一番きつそうだけど、彼はマッチョなので大丈夫。

ビレイ機を使いゆっくりと荷物を降ろす

楽しいと思っていた荷降ろしも、実際10分で飽きました。

ネットの四カ所をカラビナにかける

ネットで荷物を包んだ状態。

荷降ろしに加わった親父

重たい荷物には親父も一緒に降ろします。糖尿病、大丈夫だろうか。

ロープをコントロールしながら荷降ろし

ロープをコントロールすれば荷物を降ろす場所を選べます。

階段の養生を終えた親父が北尾くんのポジションに加わり、
さらに「ロープ作戦」は加速していった。
「ハレヨ~!」と大声を出す親父のテンションは高めだった。
倒れるのではないだろうか、と心配するくらいだった。

それと同時に「ポイポイ作戦」も進行した。
「ポイポイ作戦」とは2階から1階のベッドのマットレスへと向け、
荷物をポイポイと投げるのだ。
はじめは軽いものを北尾くんはポイポイしていたけれど、
いけるとふんだのか、本のかたまりとかカラーボックスまでポイポイしていた。
マットレスに落ちて1mくらいバウンドしている荷物を見るのは楽しかった。

昼前くらいからヘルプに来た親戚のマリコさんとワタルも作業に参加。
荷降ろしチームとセッティングチームに別れ作業はちゃくちゃくと進んでいった。

昼休憩

昼ごはんの様子。マリコさんが名古屋のお弁当を買ってきてくれました。とても美味しかった。

荷降ろしはたんたんとした作業ですぐに飽きてしまったが、
「次は何が降りてくるんだろう」という楽しみがあった。
赤ちゃん用のベットが降りてきたり、
巨大なテーブルの天板が降りてきたり、
頼んだポカリスエットと紙コップが降りてきたり、
エレクターの巨大なステンレスの棚や、
しまいには20キロ以上はありそうな巨大なソファーが降りてきた。

2階からほとんどの荷物が降りてきた。

庭に溜まった荷物の様子。日にあたり続けて頭が痛くなる。

そんなこんなで
14時頃にはあっけなく2階のあらかたの荷物は降ろし終わった。
「ポイポイ作戦」が案外効いていたのかもしれない。
気がつけば降ろしていない荷物は仏壇と冷蔵庫と洗濯機だけ。
というか、この3つだけのためにあの作戦を実行することになるのか。

「階段作戦」を実行する時は来た。

引越しの荷降ろし「階段作戦」

階段を滑らしている様子

階段で冷蔵庫を滑らしています。階段の保護と滑りを良くするためダンボールで養生しています。

もうこうなってしまったら、「階段作戦」はただの余興でしかない、
お祭り的な、引越しをちょっと盛り上げるイベント的な。
そんな風に俺は考えていた。。
冷蔵庫を手で持って階段を降りる作業はいささか大変だとは思うが、
ほとんどの荷物はロープで降ろすことができたので体は全然疲れてない。
そう、あとはこのイベントを無事終了させるだけ。
時間をかけて考えたアイデアがどこまで通用するのか、
ということを確認するだけだ。

俺と親父と北尾くんで冷蔵庫を台車に乗っけて玄関まで運ぶ。
親父が「アゲロ~」「ヨシッイイゾ!」とか指揮をとった。
階段の手前で台車を傾け冷蔵庫を滑らし、
俺と北尾くんはそれを支えながら慎重に階段を降りてゆく。
階段のエッジ部分を段ボールで養生しているので荷物はすーっと降りた。
階段に引っかかることもなく順調に滑り降りる。
二人で支えているので重さはほとんど感じない。

親父は台車に取り付けたロープを上から引っ張り
台車をコントロールしているようだった。
しかしそれは役に立っているのだろうか、
とふと疑問に思った。

台車の下で二人が支える

二人で荷物を支える・・・

台車をロープでコントロールする親父

それを親父がロープでコントロール・・・。

うーん昨日もそうだけど、親父のキレがない気がする。
バスの中でのアイデアも現実性に欠けてたし、
台車のクオリティも低すぎじゃないか。ネジがその辺に何個も落ちてるし。
久しぶりの外出でテンションが上がりすぎたのだろうか。
そういえば昨日の朝バス停で、
糖尿病の薬を忘れたって家まで走ってたっけ。
親父もずいぶん年をとったな。
それとも俺が年をとったのかな。

と、冷蔵庫を支えながら、親父のロープを持つポジションを見ながら、
そんな風に思った。

冷蔵庫が無事階段に着陸すると冷蔵庫を立て、
台車を押して1階の部屋の門の前まで押した。
そこからはもう力仕事。姉を加えた4人で冷蔵庫を運び、
1階の部屋へと設置した。
こんな感じで、仏壇も洗濯機も運び、そして全ての荷降ろし作業は完了した。
あっという間に「階段作戦」は終了した。
そして15時には2階の部屋をカラにすることができた。

階段が終われば台車を立てて運ぶ

階段が終われば台車を立てて押して移動させます。

最後は力技で冷蔵庫を運ぶ

「妙!もうお前じゃまだから手を離せ!」と親父は元気でした。

引越しを終えて

今回の引越しは大成功だった、と個人的には思っている。
これだけの人数と人材で、良くあれだけの荷物を時間内に降ろせたと思う。
全ては姉の下準備がしっかりとしていたからではないだろうか、と思う。

「ロープ作戦」は想像より遥かにはかどった。
下準備さえしっかりとしておけば、引越しに充分役立つ事がわかった。
しかし荷物をベランダから降ろす作業と、
ネットを荷物から取り外す作業はまだまだ改良の余地がありそうではある。

「階段作戦」の事について考えてみようと思う。

引越し作業の終了後、「階段作戦」が成功したとかしないとか、
俺らの中でそんな話はあがらなかった。
みんなどう思っているのだろうか。
台車を作るための材料費は4500円くらいだっただろう。
それと合計4時間以上は下準備に費やした。
安全に確実に重たい荷物を降ろせたとは思うのだが、
4500円はいささか高い気がする。

しかしこうも思う。
ロープでソファーやその他の重たいものを降ろせなかったら、
多分「階段作戦」を使って降ろしたに違いない。
「作戦が2つあってよかったなあ」と親父が最後にまとめたが、
そういうことかもしれないな、と今は思っている。