初心者のための登山とキャンプ入門

赤ちゃんと子供と立山・雷鳥沢へ ④ 雷鳥沢からの帰り

さくちゃんででっちゃんを担いで登る北尾くん

雷鳥沢のアウトドアブームの程度

昨今のすごいアウトドアブームを考えると、かつて雷鳥沢に行ったことのある人なら心配するんじゃないだろうか。あそこももう最近のハヤリグッズでいっぱいのキャンパーでいっぱいなんじゃないだろうか、と。マイカーが入れないとはいえ、歩いて1時間だし、人で溢れても良いくらいの、それくらい良いテンバだし。
結果どうだったかというと、ほとんど昔と変わりませんでした。みんな、2-6人用の山岳テントばかり。ここで派手にキャンプを楽しもうという人はまだまだ少ないようです。テンバも静かでした。確かに、立山駅には派手なスタイルの山ガール山ボーイもたくさんいるのですが、彼らはみんな雄山を目指すようです。帰りのケーブルカーで雄山神社の鈴をつけた人がたくさん居ましたが、立山には来てもここでテントに泊まろうという人は少ないのかな?もしくは山小屋に泊まっているのかもしれません。そんなわけで周りに引けをとることもなく昔の装備で安心して癒やされる空間がまだ残っている雷鳥沢でした。トイレは水洗で綺麗で、水も十分。また、観光客はみくりが池までで、ここを越すと普通の見慣れた登山客ばかりだった。むしろ子供も珍しく、小学生くらいの子はちらほら見かけたが幼稚園くらいの子は数人見ただけだった。「キャンプのテンバ」でなく、まだ「登山のテンバ」なのかもしれない。ということは私達子連れにとっては「アウェイ」なわけだ。はじめはテント泊も候補にあったけど、弟が下山後に語っていた、最近のテント場でのマナーを知らない人が多いという話を聞くにつれ、テント泊をやめて本当によかったと思った。サクちゃんの大声、でっちゃんの鳴き声。想像するだけでおそろしい。こういう、まだ賑やかなキャンパーたちが進出していない良いテンバに好んで泊まりたいと思ってしまう反面、それは同時に静けさを壊す側にもなる危険がある。当面は多少味気なくともファミリーウェルカムな場所でがまんして、山や山の静けさを愛する人たちとの住み分けに協力して行きたいと思った。

室堂への帰り、恐れていたことが!

さあ気合を入れて帰るぞとザックを背負ったあたりから、サクちゃんの様子がおかしい。なんかグダグダ。あれ、さっき食べようと思って河原に持って行ったかまぼこがない!と私が言ったら「タマボコータマボコー」と号泣しだした。それは昨日富山での食事の時におみやげ屋さんで買ったもので、ひまわりの絵が書いてある400円くらいしたものだった。今日のサクちゃんのメイン行動食にと私も考えていた。感動の別れをした後なのにキタオくんがもう一度河原に戻って探しに行ったが、なかったという。無いのは良いけど、河原にゴミで残ったらまずい、それを縦走してきた後輩たちに持って帰らせるのもまずい、ということでもう一度探しに行ったけどやぱり見つから無くて、特別にそこまでカマボコ好きでもないのに泣きわめきながら歩き始めた。すぐにトイレの分かれ道が来て、案の定トイレに行くのを拒んだのを何とか説得して済ませたものの、私が出てきた頃にはどこかで転んだらしく手がイタイイタイとさらに大号泣。見ると全然なんともない。

とりあえず絆創膏を貼ってとりなす
絆創膏はなぜか子供に人気

そのころになってやっと気づいた。眠いのだ。まさかの眠気がやってきた。時間は15:15。朝6時半に起きたもんなぁ、眠いはずだ。残り時間は…大丈夫。最終バスまであと2時間ある。しかし眠いサクちゃんを説得しながら歩く、これはきっととても時間がかかることだ。できればダッコは避けたい。私は大学2年生の時の雷鳥沢からの帰りを思い出した。道は整備されていて雰囲気はもう観光地なのに、バスターミナルになかなかつかない。室堂というと、いつもそういう目にあう。
幸い持っていた大きな絆創膏を貼ってあげると、気分が落ち着いたのか歩き出した。絆創膏は子供のマストアイテムだ。今度こっそりプリキュアのを仕入れて隠し持っておこう、と心に決めた。あと毎回思うのだが小さな指あき手袋のようなものを用意しておこうと思いつつ忘れていたのは反省だ。

フラフラするサクちゃんの手を引いてテンバの真ん中を通る道を過ぎ、雷鳥荘への上り階段に差し掛かり、なんとかおしゃべりと歌を歌ってあげて階段を一歩一歩登る。本人は全く無口だが多分がんばっている。引っ張る手が疲れるけど、がんばってるので嫌な気はしない。でも次第にサクちゃんの足がフラフラしてる気がして下から顔を見てみたら、じぇじぇじぇ!!白目を向いている。完全に寝とるやんけー!!まだ20分しか歩いてないし、雷鳥荘にすら着いていない。キタオくんがダッコする、といってサクちゃんを抱えて歩きだした。どこまでその体制でいくつもりなのか。

さくちゃんをダッコしてあるくキタオくん

3分くらいは歩いたか。私はちょっと休憩を取って、寝かせようと提案した。キタオくんはこのまま広いところまで行く、という。広いところは風が強いんだよ、この斜面が風よけになっているからここで休もうと強く言ってザックを下ろした。そして私はサクちゃんを奪いかえしてダッコして、近くの大きな石に腰を下ろした。通る人々が、たいへんねぇ、寝ちゃったの、と声を掛けてくれる。でっちゃんは元気でみんなに愛想を振りまいていた。風は当たらなく、サクちゃんは深い眠りについた。15分くらいが経過して16時になった。よしもういいだろうとサクちゃんを地面に立たせてみた。少し歩いてみて、またどうしても歩けなかったらその時はまた10分寝ればいい。最悪のパターンとして、私が抱っこ紐ででっちゃんを前ダッコしてザックを背負い、キタオくんがキッドコンフォートでサクちゃんを背負う、という奥の手があるが、できればそれは使いたくない。今後のためにも。地面に足を着いたサクちゃんは我に返り、少しもぐずることなく、急にゴキゲンでおしゃべりしだした。すごすぎる!15分睡眠。私は自分の判断が冴えていたことに満足した。 少ししてエンマ台という地獄谷が見渡せるところでは、木の杭に腰掛けて顔面をピースで挟むポーズで写真を撮ってくれといってゴキゲンだった。このポーズ、どこで習ってきたんだろう。

エンマ台でごきげんのサクちゃん

それにしてもここまでくればもう安心、あとはゆっくり歩みを続けよう、というふうになってきてからけっこう冷たい風が気になり始めた。キタオくんがでっちゃんにザックカバーをつけて居たけど時すでに遅くでっちゃんの手足と顔面は超冷たかった。そんな感じで寝ているのでふと生きているんだろうかと気になって鼻に手をかざしてしまうのだった。

室堂バスターミナルの建物が見えてからは安心感は増し、私はいまさら高山植物の写真を撮り始めた。15種類くらいしか見つけられなかったけど、立山のHPによると最大で130種類くらいの高山植物が咲くらしい。かなり見つけたと思っていたのに。サクちゃんはゴキゲンで岩の上を歩いたり、側溝を歩いたり虫を見つけては屈んだししている。午後になって一度はガスの中に入った立山がまた雄大な姿を現していた。それをバックに、子供を背負った大荷物のキタオくんが若者グループにシャッター押しを依頼されていた。おしゃれ山ルックに身を包んだ男女4人の若者グループ。オレラ仲良し、テンションマックス!って感じでポーズを変え被写体となる。手ぶらな人に頼んだらどうだー。

高山植物は130種あまり
高山植物は130種類以上が見られるとある

帰りはもう湧水はいいだろうと思ってスルーすると、サクちゃんは一人で湧水に向かった。数人の大人の後ろを、ひしゃくを取れないもんかと遠巻きにウロウロしている。餌を待っている猫のようだ。「お嬢ちゃん、お水飲みたいの?」と洗ったひしゃくに水を汲んで渡してくれる人も居るわけもなく、さくちゃんはしばらくしてトボトボと帰ってきた。「かわいそうに」と言いながらキタオくんと私は遠巻きにそれを見ていた。17:10。2時間弱で室堂へ戻ってきた。

チケット紛失、そして名古屋へ

名古屋への道のりが長いから気を抜けないことの他に、少し憂鬱なことがあった。たぶんバスとケーブルカーの往復チケットを無くしたのだ。そんなによく探していない。でもきっとない。そんな確信があった。「これじゃあダメかな?」キタオくんが珍しく取っておいたクレジットカードの控えを出した。キタオくんの分の往復チケットも取り出して、「控えを見せて、これと同じものを2枚買っていっしょに来たんですけど、って言おう」と。よし、それでいこう、あとはキタオくんの営業トークに期待しよう。とおもったけど、普通にダメだった。再購入しかない、という。ただ救済措置として、万が一あとで荷物の中からとか見つかった場合に郵送すれば返金してくれるという再購入の書類を書いてもらった。「これはイイ!」と思った。おそらく見つかる人も少ないだろうし、見つかっても返金を要求してくる人はそんなに多くないだろう。二千円程度の返金だし、手数料も引かれるという。でも「無くしたんならまた買わないとダメです」と言われるだけより、よっぽどいい。観光地でそんなガッカリな気分になるのもお互い残念だし。「後で見つかることも多いんですよ~」そう希望を託されて帰路につく。実際私も、救われた気分になった。私はかなりの確率で、バスで隣に座っていた弟のエアリアに挟まっているのではないかと、勝手に予測した。たぶんそこには2枚挟まっているはずだ。たしか弟もバスを降りてすぐに「チケットがない」とつぶやいていた。私は弟にLINEした。万が一チケットが二枚あったら捨てないで持って帰ってきてくれと、もしくは1枚も見つからなかったら普通に買ってはいけないよ、窓口に申し出て再購入の書類を書いてもらうのだよ、と。翌日剣岳をピストンして午後には降りてきた弟はふつうに自分のチケットを使って帰ってきた。

バスの最終のころの乗り場は大混雑かとおもいきや、全然人が居なかった。臨時便が何便も出るくらいの混雑かと思っていた。17:10に着いて、17:40の最終バスに乗ることになった。チラホラ人も集まってきて、30分には乗車が開始されて、バスはギリギリ補助席を使わないくらいの混み具合となった。私は、でっちゃんを膝の上に乗せないといけないだろうかと悩み、それも覚悟していたが、前の方の人は荷物をヒザ上でなく隣の席に乗せて二人がけシートに一人で座っている人もけっこう居たのでしばらく様子を見ることにした。後部座席に歩いて行った人はみなどこかしらの席に座れたようで、バスは出発した。疲れていたのでありがたかった。帰りのバスはやはり結構酔った。「滝は結構です、はやく下ろしてー」「材木石も見なくていですー」そんな気分だった。でっちゃんは頂いた風車の棒をブンブン振り回して50分間ゴキゲンですごし、サクちゃんは気持ち悪くなるかどうかの瀬戸際で寝たのでなんとか持ちこたえて、無事立山駅についた。

静けさを取り戻した立山駅

最終ケーブルカーも終わった立山駅は人気もなく、おみやげ屋さんもしまろうとしていた。そこで買った塩ソフトクリームが、酔った体にすごく効いた。サクちゃんやキタオくんはそんなに欲しくなかった様子でがっついても来なかったが、できるなら隠れてコッソリぜんぶ食べたいくらいだった。バスの途中まで冷たいままだったでっちゃんの手足は、今や通常通りの温度になって完全に復活したようだ。ただ、背負子で揺られている間ほどんど寝ていたでっちゃんは、顔面をかなり日焼けしてむくんでいた。背負子に日除けは付いているもののの、前からの陽は遮れない。日焼け止めを塗ってあげるべきだった。

顔面が陽に当たるでっちゃん
顔面がバッチリ日にあたっていた

人気の無くなった駅のベンチで二人の洋服を着替えさせたら、慌ただしかった旅は終わったような気がして気が抜けた。ここへきてキタオくんがなぜかガゼン元気で、走って車を取りに行った。途中のコンビニで夜ご飯を食べ、ガソリンを入れ、休憩なしに3時間半の運転をし続けた。19時頃に立山駅を出発して、23時には名古屋の家に着いた。なかなかがんばった旅であった。