赤ちゃんと子供と晩秋登山 -二ッ森山-
3歳6ヶ月になる子供を連れて、ちょうど1歳1ヶ月になった赤ちゃんをキッドコンフォートⅡ(背負子)に乗せて岐阜県の二ツ森山というところを登ってきました。といっても寒い待ち時間と展望のなさに心が折れ敗退。子連れ登山の意味を再び問うてしまう結果となりました。
名古屋周辺の山選び
みなさんは山を選ぶ時、何を参考に選んでいるのだろうか。私はテレビの旅番組で見る有名な山のほかは、名古屋から登りにいく山ってぜんぜん思い浮かばない。こういうときにやはり、近所にこのあたりの山に登る人がいると有難いんだろうと思う。
そんなことで今回も”名古屋周辺の山”という本から適当に山を選ぶ。キタオくんは初め”金華山”を選んだ。328m、長良川が作る平野を見下ろす山で、街のすぐ近くにある。きっとこないだ行った三方山と同じ感じだ、と直感的に思った。東京にはこういう山はなかったけど、とにかく木曽三川が作る濃尾平野ってめちゃくちゃ広くって、すぐ横にぽっこりと山があるんだ。その山の麓まで街や道路が普通にあって、急に山になるの。奥多摩や高尾山とかだと、もうかなり村も山でしょう?八王子でさえ、都心とは気温が1℃違うというし、山の空気感が半分ある。ともかく金華山はテレビでも観光地という雰囲気でやっていたし、せっかくの晴天が約束された日なのでもっと高度感のある山に行きたいと思って却下した。
私達の家の近くにある名古屋ICからは御在所岳などの鈴鹿山脈、それよりちょっと上に養老山地、そして伊吹山などの近江方面、もっと東に行けば御嶽山などの飛騨の山、恵那山トンネルを抜ければ中央アルプス、東に行けば三河方面と、とにかく山が多い。その中で、私は恵那山地の富士見台に行って以来、恵那山方面が気に入っていた。東名高速で1時間のった中津川ICで降りると、もうかなり田舎の雰囲気が楽しめるのだ。そこから東名をおりずに恵那山トンネルを抜ければ中央アルプスへと続き、一気にアルプスムードとなる。だけど、そこまで行ってしまうと少し遠い。また紅葉を見に来た人で帰りが大渋滞になるだろう。そんなわけで、中津川ICからそんなに遠くなくある程度標高もある二ツ森山が選ばれた。標高1223m。標高差340m、登りコースタイム1時間35分、下りコースタイム1時間10分、合計2時間45分。どうなんだろう、良い山なんだろうか。珍しく前日に2人の合意で選んだ山だけど、前日眠る時一抹の不安があった。不安というか、なんともテンションが上がり切らないところがあった。
二ツ森山へ出発
朝起きた時には考えすぎてもうめんどくさかった。なんか、どんな登山なら自分が楽しいのか、検討がつかなかった。だけど昨夜のうちに用意した防寒グッズやら大量の衣類と背負子、そして約束通りの快晴が待っていたのでとにかく起きて準備を始めた。二ツ森山かぁ・・・。標高が高い割に、名前がしょぼいっていったら申し訳ないけど、”中山””盛山””丸山”レベルの、なんてことない里山だったりして。でも混雑している有名な山もいやだ。今更調べるのもめんどくさい。ファミリー向きって書いてあるし、まぁいいか。
家にあった柿を剥いて、冷凍庫のオニギリをチンして買っておいたパンを入れて出発した。8時。
今回私達のエラかった点といえば、前日までに山を決めたこと、防寒グッズを念入りに準備したこと、そして高速を降りて最終段階でコンビニに入ったことだ。いつもは家を出てすぐに缶コーヒーを買いたがるキタオくんの希望でコンビニに入る。「なんかいる?」「いらない」そういってキタオくんの缶コーヒーだけを買って高速に乗る。なんか最近人数が増えたから、行きの道中に車内で消費する食べ物の量がわからないのと寝起きで昼ごはんを食べることがイメージできなかったりで。私は子どもたちに朝ごはんのおにぎりやお菓子をあげるんだけどそのうち寝て、気がついたら登山口。出発するときになって、あれ、食べ物少ないね、または偏ってるね、みたいな会話をする。しかし、今回は道中の最後でコンビニに入った。するとお昼ごはんをイメージして今残っている食べ物を確認して足りないものを買い足す、というごく当たり前の事がスムーズに出来てとってもなんだかラクだったんだ。だって自分一人の分でさえ、「このジュース、置いていこうか、持って行こうか・・・いや、気温も高いし”持ってくればよかった!”って後悔するかもしれないしなぁ・・・」って思うでしょう。そこを、子どもたちの分もいれて3人分予測して考えるっていうのは結構めんどくさいんですよ。それが車内でひと通り食べて山の中でのことだけを考えればいいって言うと、意外にかんたんで。
まぁ思い出せば昔は普通にやっていたことなんだけれども。主婦のなかには1週間分の晩御飯を決めて週に一度買い出しするという人も居るらしい。昨日話したおとなりさんなんて、旅行に行くのに4日分の子供の服をセットして写真に撮って持って行くらしい。そういう準備能力が冴えてる人っているよね。すばらしいことです。
東名高速からはいろんな方面に白雪を抱いた険しい山が見えた。残念なことにどれが何山かハッキリわからないけど、真っ白でゴツゴツした山を見ると本当にテンションが上がる。登りたいわけではないんだけど。得した気分になり、なるべくいっぱい見たいと思う。みんなそうなんだろうか。そんななか、高速で1時間というとなかなか遠出なのに目指すところが二ツ森山で正解なのかどうなのかとモヤモヤしつつ、確実に展望が良く高度感もある富士見台にも変更が可能だ、いや、でも違う山に行くべきなのだろうと否定しつつ登山口に向かった。
ナビではグングン登山口に近づいて標高も上がっているにもかかわらず、あたりは道路が整備され家がチラホラある。畑や周辺の草もキレイに狩られ、整然としている。遠くに見える低い山の山肌は赤く紅葉し、頂上までもが樹林に覆われているようななだらかな山がいくつも見えた。道に生えているもみじは真っ赤で、ススキは背が高く空を背景にして絵のようだ。あぁいい景色だ。そしてそのままの良い道のまま登山口に着いた。どうやらここは県道でこの先の大きな道路につながっており、登山や限られた人のための林道とは違うようだ。というより二ツ森山自体が、そういう普通の生活のための道路の間にあるなだらかな裏山という感じのようだ。標高が1223mもあるのに、だ。やはり、標高だけではわからないものなのだ。
赤ちゃんと子供の防寒着
今日は11月24日。最終の日曜日だ。とにかく気をつけなければいけないことは、”極寒”をイメージして防寒着を用意する、ということだ。一番は背負子に乗ったっきりされるカエデちゃん(1歳1ヶ月)の防寒だ。じっとしていると寒いのはもちろんのこと、そのまま寝るのでもっと注意が必要だ。
そこでカエデちゃん用には、ヒートテックのロングTシャツ、トレーナー、厚手のフリースズボン、つなぎの内側がフリース地でワタが入っていて外側がビニールのものを着せて、さらにその上にフリースのかいまき(寝るときに着るチョッキ)。そして帽子と靴下二枚、その上からペットボトルカバー、さらに手袋。
サクちゃん(3歳6ヶ月)用には、キャミソール、スキー用のハイネックで薄手のフリースシャツ、厚手のシャツ、薄いダウン。下には普段履きのアクリルのレギンスの上にナイキの薄手だけど風を通さなそうなズボン。そして帽子と新入荷した100円ショップの伸びる手袋。
実際、前日の土曜日は晴天で暖かく、日中ロングTシャツ一枚で過ごしてもいいくらいだった。しかし春山と秋山では「天気が良いと初夏、荒れると真冬」という、登山の掟を忘れないよう心がけて準備した。昔、遭難対策で学んだんだ。ここ数年では忘れていたけど、今年行った富士見台で思い出したんだった。昨日や今日の下界の天気で左右される必要はない、いやされてはいけない。とにかく山では「荒れたら極寒」のルールで、使っても使わなくても必要な防寒着を持っていけばいいのだ。だって風が強いかもしれないし、そうでないかもしれない。それは行ってみないとわからないんだし、その時どんな天気でも予定の行動を遂行するためには万全の準備をしないと。
1歳1ヶ月と3歳6ヶ月の子供
子供というのは数ヶ月違うだけで全然できることが違ってくる。この日記を読み進めるにあたって、この登場人物2人が現在どの程度の発達具合なのか、記してみようとおもう。こういう状態がもっと前だったり後だったりと個人によって差はあるが、いつかの時に通過する”状態”だとおもう。
まず1歳1ヶ月のカエデちゃん。歩き始めたのは10ヶ月位で、最近はバイバイもする。玄関のチャイムも押す。カゴを腕にかけて、やってきてバイバイをして去っていく。保育園に行っているしお姉ちゃんがいるのでいろいろ早いほうだと思う。保育園で離乳食を食べている一方、うちでは唐揚げとかオニギリを普通に食べている。2個くらい一気に食べる。なんだかよくわらからない言葉を一人でいっぱいしゃべっているが「バイバイ」「マンマ」「ネンネ」は区別して言っているようにも、聞こえる。ダメだよ、という物をニヤっとしながら持ち去ったり意図的にイタズラもする。食べるのが好きでスプーン運びが遅いと鼻を鳴らして催促し、かまないでガンガン飲み込む。隙があれば人の上に乗っかってきたり座ったり背中をこすりつけてきて、性格的にもふざけることが好きらしい。保育園で「チュー」を覚えたらしく「テュー」といって口をとんがらせて近づいて来たかと思ったら私の鼻を噛んだり不意打ちでメガネをガシっと奪ったりする。そんなところだ。体重は10キロちょうど。
次に3歳6ヶ月になるサクちゃん。お散歩は得意で2-3時間は出来る。同じくらいの子でダッコをせがみお散歩はできない子も多いが、サクちゃんはもともと大きめだったこととカエデちゃんが生まれて自動的に歩かざるを得ない環境になったことで長時間お散歩が出来るようになった。このことはもしかして登山をするのに良かったことかもしれない。知能的には過去のことをみんな「昨日」という。子供のことをみんな「オトモダチ」という。プリキュアが好きでめちゃくちゃな歌詞でリズムとメロディーはほぼ正確に歌う。靴はもう右と左を反対には履かないがパンツは前と後ろは反対に履く。鼻水はかめるが人に拭いてもらいたい。洋服は着たい服と着たくない服がハッキリしており、かなり合理的な説明をしないと着せたい服を着てくれない。ちなみに昔のことは、ここ一年のことしか覚えておらず、もちろん背負子で八ヶ岳の横岳に登ったことも覚えていない。こんなところだ。「旅行に行きたい」「東京に行きたい」「ディズニーランドに行きたい」と良く言っている。
延々と続く木の根道
よく整備された県道の脇に、ちゃんとしたそれとわかる駐車スペースがあった。登山口には大きな地図付きの看板がある。用意してきた服を装着してさっそく登り始めた。10時。まだ寒いが、霜は無いので少なからず0℃では無いんだろう。ただ杉の植林が覆っていて日が届かないので寒い。看板によると登山道の左手には御岳、中央アルプス、恵那山が見えるという。
細い杉の植林の間を、細かな木の根がだんだんになった道を登っていく。根っこはほとんど乾いておりそんなに滑ることもない。レキが登山道上にガラガラとあった三方山よりも登りやすそうだ。サクちゃんはガンガン登っていく。ちなみに100円ショップで買った親指と人差指が切れている伸びる手袋はやはりサクちゃんには大きすぎて、カエデちゃん用に用意した手袋をサクちゃんが使った。木の根に手を着いたりするので有ったほうが良かったとは思うが、やはり指が分かれていないと葉っぱを拾ったりするのに不便なようで、また指が分かれていないので使いづらかったようだ。やはり100円ショップじゃなくてちゃんとした子ども用品売り場で指が出る手袋を購入すればよかった。キレイに晴れていて風もないんだけど、「手袋、要るね~」っていうような感じだった。ちなみに指が切れている伸びる手袋はキタオくんが使った。写真を撮るのに便利だったようだ。
長い杉と地面には熊笹。きのこも苔もそんなになかったし”植生が豊か”という印象はない。ただしばらく登ると楓だかもみじだかの葉や、クリのイガ、大きな葉っぱなどの枯れ葉が増え、それが秋の山を感じさせてくれた。サクちゃんは今にもきのこが生えそうな湿った枝を小脇にかかえ、いいもんみっけたとばかりのテンションで「これを家に持って帰ってバーベキューする」という。この行動はきっと、先日近所の公園で小枝拾いをしたことに由来する。かねてより入手していたソロストーブ(小枝とかを燃料にするストーブ)を試してみるためだ。そういえばこないだ保育園でも先生から枝を渡された。「これ、サクちゃんがお散歩の途中で公園で拾ってお家に持って帰るっていうんです。バーベキューするって言うんですけど。」と言われた。実際そうやって拾って溜めてある枝を、焼き芋を作った時に炭が足りなくなったので足して燃やしたりもした。先生はきっとサクちゃんが勝手に言っているんだろうと思っているだろうけど、そういうことなんだな。先生に説明をしようと思ったけどめんどくさいので止めた。そして私は、これから登るのにそんなにたくさん持っていたら登れないよ、帰りにまたここを通るからその時に持って行こうよ、とサクちゃんを説得する。「誰かがもっていっちゃうかもしれないよ」そういったサクちゃんはかわいかったけど、一応湿った木にはなかなか火はつかない事を教えておいた。
木の根道は登り続けるぶんにはそう歩きづらそうではなかった。だけどそんなふうにしゃがんで葉っぱを拾ったり枝を拾ったりしているので進みはだいぶ遅かった。展望はなく変化のあまりない道で、日が届かなくて寒い。危険がないぶん、飽きる。なんか急速にテンションが下がってきた。「休憩所はまだだろうか」途中からずっとそう考えていた。同じように待ち飽きたキタオくんが先に行って休憩所を探しに行った。「ベンチ有ったよー」と言う声に励まされて辿り着いた休憩所には朽ちた木製のベンチがあり、横にマットを広げた。ここは木々の合間から少し日が入って暖かかった。カエデちゃんも山に入った当時は興奮してブーブーとつばを飛ばしたり足をバタバタさせて喜んでいたのに、変わらぬ景色に飽きて寝ていた。
ドイターのキッドコンフォートにはいくつか種類があるけど、このチンパッド(あご)は良いと思う。外して洗えるようになっていて、実際洗ったことはまだないんだけど、このクッションの厚みが顔を乗せて寝るのに調度良いように思える。普段なら「寝た子を起こすな」が常識だけど山では背負いさえすればおとなしくすぐ寝てくれるので、せっかく寝ていても起こしてしまおう。体も動かしたいだろうし、オムツのチェックもしないといけない。目覚めたカエデちゃんは厚着の効果があってかとても元気そうで安心した。
しかし、厚手のマットは必須だ。ベンチは朽ちているし湿っているしとても休憩できるものではない。 マットがないとオニギリを落とした場合にアウトだ。それに靴を脱いで休憩するということは靴ずれを防ぐ意味でも良いと思う。また、普段は歩くカエデちゃんでもやはり枝や石を踏むと転んでしまうし、転んだ先に尖った枝なんかが有ったりすると危ない。熊笹の切られた枝が伸びると、固くて鋭利な槍のようになって、それはまるで城の周囲に掘った落とし穴の底に設置された槍の歯みたいな感じだ。だから歩き回られるよりも座っていてくれたほうが気を使わなくていいから助かるんだ。
休憩ではさっそくコンビニで買った肉まんを食べた。1時間前くらいに買ってザックに入れておいたのに、ずっと冷蔵庫に入れていたかのように冷たかった。やっぱり結構寒いんだと思う。カエデちゃんとサクちゃんにはチンしてきたオニギリ型のご飯入れに入った白米にノリタマのふりかけをかけて食べさせてあげた。朝ごはんをろくに食べていないサクちゃんはモリモリ食べていた。たぶんパワー不足だったんだろうと予測し、やたら食べ物を食べさせる。いっぱい食べて元気になって、ガシガシ歩いてくれ~。 ただいま10:50。木の根道の下りはちょっと時間掛かるかもしれない。頂上までは厳しいかもしれないけど、どこまでいけるだろうか。
ツラすぎた待ち時間
11時頃、再び歩き出す。途中大きな岩が左右に出てきてちょっとした変化があった部分が少しあったけど、相変わらず同じ雰囲気の道を歩く。空は雲ひとつ無く晴れ渡って、左手の樹林の向こうにはなんだかとってもいい景色が広がっていそうな雰囲気がしているのに全く見えない。
木の根道の登りは一旦落ち着いて、ゆるやかな道になると私は道草ばかりくっているサクチャンをおいて先に行くことにした。うしろにピッタリくっついているとずーっとおしゃべりばっかりして進まないからだ。どんなおしゃべりをしているかというと、葉っぱの穴がハート型をしているとか木で出来た段差がベンチみたいだから座ろうとか、あとは熊笹をむしったり棒を拾ったり・・・を延々とちょこちょこ進みながら繰り返している。先に行くとすぐに歩いてついてくるかとおもいきや、プリキュアの歌を歌いながら拾った長い枝をバシバシ振りかざしながらハイマツを叩いている。山を歩くのに急かすのもどうかと思い「早く歩いて」とか「がんばって歩いて」とかはあまり言わないようにしているんだけど、さすがに何回か言いかけた。キタオくんは完全に待ちくたびれた顔をしている。体力自慢のキタオくんが「肩が痛い」といった。そうだろうと思う。10キロのカエデちゃんを背負って、歩く時間よりも待っている時間の方が長いんだもん。カエデちゃんは真ん中に座らせても左に寄って身を乗り出すようにしているから重心も偏っていると思うし、ザックの重さも入れたら15キロはあるだろう。食べ物ばかりしか背負っていない私でも待ちすぎてイラっと来た。本当は散歩と同じように寄り道しながら歩けば良いと思っているんだけど。なんせ寒い。いや、それほど寒くないのかもしれない。ただ待ち疲れた。
キタオくんが「完全に集中力が無くなってるな」とつぶやいた。登山に”集中力”って・・・。ちょっと意外な感じだけど、サクチャンの様子を見ていると本当にそんな感じだった。宿題やりたくない子が、関係ない話ばかりしたり、よけないことやったり。「パーパー!ここ、どうやって登ったのぉ?」そんなことを後ろのほうからよく言っている。やたら「お手てつなごう」と言ったりラムネを食べたりしまったりしている。「お家に帰りたーい」も出た。そんななかこの寒い樹林帯の景色は一向に変わらない。今日が曇だったらちがったかもしれない。しかし樹林の向こうは晴れていて、白雪の山々が見えることを予測させている。
「とりあえずこの”第二展望台”っていうところまで行こう。」
私とキタオくんの心はもう萎えていた。もういいや、頂上はもちろん諦めて、どこかのピークまでと思ったけど、もういい。日が射して暖かくて景色がいいところで休憩できれば、それでいいや。
12時30分に「第二展望台」の看板が見えた。そこは景色が良さそうな尾根の左側ではなく、右側に少し広く尾根が広がり、木々の間から少し景色が見えるような気がする、という位のものであった。日も射していない。もうちょっと登って、どこでも良いから日が射して明るい所で休もうと一旦は歩きだしたものの、明るくなっていると思われた先にはまた延々と樹林が続いていた。なので引き返して第二展望台のスペースで休むことに決めた。
ガイドブックのコピーを見てキタオくんが言った。
「そうだよ、”だなのしゃくなげ”っていうところまで行ったところで、よく見れば”展望が良い”なんてどこにも書いていないよ、頂上は良さそうだけど」
私が付け加えた。
「そうだよ、この程度の展望とスペースで”展望台”って言っちゃうんだから、道上にはそういうところは無いんだよ」
「そうだそうだ」
「そうなんだそうなんだ、とっとと休んで帰ろう。」
そんな感じで休憩した。本来登山に「なんのため」もなにもないけど「なんのためにきたんだろうね」、とキタオくんが言った。
休憩にフリーズドライスープ
12:40。またマットを敷いて、お弁当を広げた。相変わらずカエデちゃんはゴキゲンでよかった。今回はフリーズドライのおしることけんちん汁、牛めしとおもちを持ってきた。サクちゃんにおしるこを食べるかと聞いたら、食べるというので早速作ってあげた。テルモスに入れてきた熱湯と、コップと、コンビニでもらったデザートスプーン。出掛けにスライス餅がどうしても見当たらなかったけど、本当はお餅を入れてあげたかったんだ。それでも猫舌のサクちゃんは「おいしい」と大きな声でいって大事そうにおしるこを飲んだ。あんまり美味しそうに飲むのでけんちん汁も飲むかと聞くと「飲む」と言うので作ってあげた。寒い時の登山にフリーズドライスープはやっぱり良い!私はそれを改めて確信した。
と、けんちん汁を飲んでいたはずのサクちゃんが前屈状態で前に折りたたまれて、真下を向いて止まっていた。ちょこっと揺れている気もする。1分前まで楽しくお話をしていたと思ったけど、呼びかけても返事がない。また吐き気でも催したかと心配になった。
「サクチャン!サクチャン!!」キタオくんも叫ぶ。
ダウンのフードが顔まで覆って、どんな表情なのかもまったく分からない。
私が顔を起こそうとした手をサクちゃんが振り払ったから意識があるとわかったものの、一瞬のことながらびっくりした。「サクチャン、大丈夫?気持ち悪い?」と聞くとやがてサクちゃんはゆっくりと顔を上げた。
エヘっと笑って「寝ちゃったぁ―」だって。そっかー。だからさっきからあんなにグダグダだったんだね。思えば今日7:30に起きて昼寝してないもんね。立山の時も昼寝の事を忘れていてやられたにもかかわらず、また忘れていた。もしあぐらをかいていたなら寝ているとわかって驚かなかったんだけどさ、足を真っ直ぐに伸ばしてスープ食べてたのに急に折りたたんだみたいになってたからおろどいたよ。でも1分寝たサクちゃんはちょっと元気を取り戻していた。
つなぎの服だとオムツ替えが面倒っていうのがあるんだけど、おむつかぶれしたらかわいそうなので速攻でカエデちゃんのオムツを変えた。カエデちゃんの足には鳥肌が立っていた。
寒いながら40分も休憩した。子連れ登山の場合、エアライズのテントの1-2人用の本体くらいあってもいいかもしれない。風が防げるだけでだいぶ暖かいし、もしあと15分位昼寝させようと思ったら、寝袋が無くてもテントがあれば可能だと思う。さすがにマットだけだと風吹いていなくても冷えないか心配になってしまう。大人だけならツエルトとかでもいいのだけど。
怒涛の下山
13:25に下山を開始した。眠気の山を超えたサクちゃんはゴキゲンで、キタオくんと創作の歌を歌いながら下っている。「サクころりん、パパころりん」というかんじの歌だ。下山中にころりんとコケる、ということだ。絶妙に音程を変えながらアレンジして歌っている。こうなるとサクチャンの持ち味全開でトークも軽快。いっしょに遊んでいてとってもたのしい人になるのだ。
荷物の撤収が終わった私が追いついて、代わりに手をつないで下る。枯れ葉の下に隠された木の根や石は本来滑ったり転んだりするけど、うまい具合によろけながら普通の大人の早さとはいかないまでも、けっこうな早さだ。こんなときにトレッキングポールは役に立つ。手をつないで下る時はもう必須かもしれない。
途中大きな切り株で遊んだり熊笹をちぎって遊んだり二回目のおトイレをしたりしながら、急ぐ理由もないのにそこそこ急いで下った。カエデちゃんにも熊笹をあげると、それでキタオくんの顔をガサガサ突っついたりしてたいそうゴキゲンっぽかった。サクちゃんはカエデちゃんのために青々しく小さい熊笹の葉を選んであげていた。
上の写真にある、カエデちゃんの足にはまっている銀色のものはペットボトルホルダーでサクチャンが小さい時から使っているものだ。靴より空間があって暖かく足首まで覆われて風を防ぐものを、と思って100円ショップで探した。我ながらいいアイデアではないかと思う。それを、100円ショップで売っている帽子が飛ばないように襟元につける帽子バンドで留めている。子ども用のルームシューズとかがあればそういうのでも良いと思う。
そんなこんなで14:25に登山口に到着した。なにげに行動時間は4時間30分。休憩2回で1時間30分、歩きで3時間というところだろうか。
親子登山の意味
一昼夜経った今ではちょっと良い思い出に変わりつつあるが、下山した時点では「1時間半かけてこんな寒い所にがんばって用意して来て、うんしょ、うんしょと樹林を登ってサムイサムイと言って引き返してくる、これになんの意味があるのか」と深く考えてしまった。とりあえずは「家でダラダラとすごすよりかはマシ」という答えが出たに過ぎない。「寒い公園で4時間半過ごすよりかはマシ」とも、言えるかもしれない。
人気のない登山道ではあったが、途中私達を追い抜いていった1組の家族がいた。そして偶然にも再会した。登山口から30分ほど離れたところにあるシーズンオフで閉鎖してあるオートキャンプ場の駐車場でだ。聞いてみると、その後その家族は普通に頂上まで行き、私達のすぐ後に下山してきたようだ。2人の子供が居て下の子が年中さん、上の子が小学生中学年。子どもたちは小さいながらも一人ひとつ、リュックを背負っていた。お父さんいわく、本当はこれまでずっと山に行きたいと思っていたけど子どもたちが充分に大きくなるのを待っていたのだという。「賢明だ!」言葉にしなかったけど心からそう思った。私達のように苦労してヒマつぶしに来ているのがなんかアホに思えた。ただ救われたのが、「頂上までは全く展望はなかった」ということだった。「あー、あと5分歩けばすごい眺めのところがあったんですよ。御岳とねえ、中央アルプスがこうずらーっと見えてねぇ・・・惜しかったですね!」。仮にそう聞いていたら残念だったにちがいない。私はその事実を喜んでキタオくんに報告した。頂上まではどうしたってムリだったもん、しかたない。「やっぱり金華山がよかったかもね」キタオくんがいった。同意はしなかったけど後でガイドブックを見たら「抜群の展望」と書いてあった。
とにかくよくわからないけど「がんばった感だけはあるよね」と膨大な片付けを終えた後に私が言うと、キタオくんは「体が動かせればそれでいい」と言った。とにかく彼は汗をかきたいらしい。テニスでもみんなでできれば良いけどそれも出来ないから、それなら山に行くというのが今のところ良い選択肢らしい。なるほど、それだけの理由でいいのか。それなら、まぁいいかと思った。