初心者、秋の金峰山登山
金峰山登山 概要
期間:2009の10月11日、12日
日付 | 10/11(日) | 10/12(月) |
---|---|---|
コース | 瑞牆山荘→金峰山→大弛小屋 | 大弛小屋→金峰山→瑞牆山荘 |
天気 | 晴れ | 晴れ |
標高差 | 1085m(登山口からの登りのみ) | - |
行動時間 | 9時間05分 | 7時間05分 |
宿泊 | テント泊 | |
食事 | 自炊とコンビニのパン | |
メンバー | アラタ(28)、リュウイチ(25) |
コースの紹介
リュウイチ氏が用意してくれたコースは、瑞牆山荘から富士見平小屋へ行き、大日小屋を通り金峰山へ。そしてそのまま東へ向かい、朝日岳、朝日峠を越え大弛峠の大弛小屋で宿泊すると言うロングコース。帰路も同様のコースをたどる。
金峰山一泊の登山を考えるとき迷うのが、どこにテントを張るかと言うことだ。そのまま進んで大弛峠か、戻って大日小屋か。金峰山小屋にテント場があれば一番しっくりと来るのだが、今回は大弛へと向かうことに。
一日目は金峰山に登り、その後大日小屋までひいて一泊。翌日瑞牆山に登って帰ってくる、と言うのも良いコースだろう。ちなみに2日目は国師ヶ岳をピストンする予定だったが、1日目に歩き過ぎたためピストンはせず帰路へとついた。
瑞牆山荘から富士見平
瑞牆山荘からの道は、初めの五分くらいは緩いがそれから急になる。すぐに暑くなるので上着を脱いでしまうだろう。わりと開けた道を進むのですがすがしいが、階段状の登り道はなかなか厳しい。しばらく登ると富士見平に到着し、瑞牆山の絶壁や富士山を望むことができる。
富士見平から砂払ノ頭
富士見平からは木々に囲まれた暗い道を行く。特に朝は日があたらないので暗く、調度北八ヶ岳を思わせるようなじめっとした感じだ。また前日の雪もあり、地面はひどくぬかるんでいた。
大日岩を越えると道は急になる。暗い道を、木の根っこと岩を回避しながら登ってゆく。残雪と氷に滑り危険だった。
しかしこの暗い道も2日目には素敵な道に変わった。1日目は東からの太陽が木と山に遮られていたが、2日目の帰路では、西日があたって気持ちのいい道になったのだ。「この道ってこんなに気持ちよかったっけ?」と2人で言っていたほどだ。
砂払ノ頭から金峰山山頂
砂払ノ頭に到着するとそこは稜線上。眺望が心地良いが、東に見える五丈石はまだまだ遠く上の方に。ここから山頂までは大きな岩の道をぐいぐいと登っていく。かなり傾斜のきつい一枚岩などもあるので、登山靴のグリップ力が頼りだ。またこの季節岩が凍っている場合もあるので、滑らないよう岩を良く見ながら登ると安全だと思う。がんばって登り切ったら五丈石に到着。
金峰山山頂から大弛峠
金峰山の山頂から少しの間、稜線上を眺望を楽しみながら歩くことができる。しかし鉄山に向け下りだすと眺望のきかない道へと変わる。同じ様な景色の土と木の根っこの道を登ったり降りたり、約2時間続けなければならない。我慢が必要な道だ。
コースとポイントの情報
瑞牆山荘の駐車場
瑞牆山荘の駐車場を離れた場所で撮った写真。この奥に整備された駐車場があるのだが、朝7時の時点ですでに満車で路上に車が溢れている。ピーク時にはもっと車が路上に並び、瑞牆山荘横の駐車場も使用される。山荘付近には市営トイレがありチップ制。登山者名簿保管箱は駐車場にある。
富士見平小屋の水場
富士見平小屋にたどり着く手前にある水場。登山道の途中に看板があるのでわかりやすい。登山道が水でぬかるんできたら富士見平小屋は近い。
鷹見岩への登山道
富士見平から大日小屋の間に鷹見岩と言うのがある。標高2092メートルで「山と高原地図」上の登山道は点線で記されている。分岐には道標もあり、そこから鷹見岩までの距離は15分ほど。しかし、さすがに点線の道だけあって非常に道が細い。左右の草を掻き分けながら進み、また途中で大木が登山道をさえぎっていたりする。とてもワイルドな道だが行けないことはない。
到着した鷹見岩はすごく良いところだ。こじんまりとした岩場のピークだが、人もいなく、また人が歩いているのも見えない。この場と山を独占した気分に浸ることができる。富士山、南アルプス、八ヶ岳が望め、後方には五丈石も見ることができる。静かにゆっくりとしたい人にはおすすめだ。
大日小屋と水場
写真は大日小屋。登山道より右手に少し下ったところにある。水場は小屋の横にある。
五丈石
金峰山のシンボルの五丈石。金峰山の山頂の少し手前にある巨大な石だ。五丈石の頂上からの眺めは素晴らしいが、なかなか頂上に登るのは難しい、と言うか怖い。落ちるとかなり危険なので岩に自信のない人は挑戦しない方が無難だろう(俺は自信はなかったが、無理をして挑戦)。ちなみにここには沢山の登山者がいたが、この五丈石に登った人を見たのは俺達以外にたった一人だけだった。多くの人は上の写真の赤い人の位置で登る事を断念してしまっていた。それくらい、ちょっと躊躇してしまいたくなる岩なのだ。
また五丈石に登る季節も重要。俺達が登山をした前日(10月中頃)には雪が降っていたので、五丈石には所々氷が張り危険だった。また手も冷えるので岩を掴むのも難しくなり、岩に張り付いている間に体が凍えてしまった。暖かい季節だとより安全に登ることができるだろう。
五丈石の攻略
汚いですが五丈石に登るルートを書いてみました。確かこんな感じだったと思います。登りよりも下りの方が難しかった印象があります。ルートさえ決まっていればあわてる事もなくなりますので、五丈石に登る予定の人はこのルートを参考にすると良いかもしれません。赤が登りで青が下り。
五丈石の登り
おじさんが2人いるところは大きな段差で、ここは力でぐっと登る。そして最初の問題が①の部分。ここは手がかりもないので登りづらい。しかし良く見ると右下に3~5cmほどの斜めに走った段差があるので、そこに右足を乗せ体を持ち上げて登る。登り切ったら上部(一番上のおじさんがいる位置)の岩の境目を掴んで体を安定させる。
次に②だが、ここを登れば50cmほどのしっかりとしたスペースがある。手を引っ掛ける窪みがあるのでそこに手をかけ、小さな岩のでっぱりに右足を乗せて体を上げる。(俺達が登った時はこのくぼみに氷が張ってしまい使うことが出来なかった。使えない場合は手のひらを岩に押し付け力で登る)。登り切ったら右へ移動。
③。最後の登りになるがここは意外と簡単。一番右はコーナーになっているが、そのコーナーに右足を乗せる場所が削られているのでそこに右足をかける。右手を岩と岩の間に突っ込んで支え、右足で体を持ち上げる。そうするとトップに手が届く様になる。岩のトップには両手をひっかける場所が用意されているので、そこを利用して体を持ち上げれば頂上に到着!
五丈石の下り
①は登りと同様に手がかりを利用し降りる。その後壁を伝いながら慎重に一番左へと移動する。
②にも手がかりが用意されているので、体を岩に向け、その手がかりをしっかりと掴み慎重に足を降ろす。
③はあまり覚えていないのだが、体の向きは岩に向いて右足から降りていく。手がかりがほとんどないので不安だが、岩と岩の境目に掴める場所があるので、そこをしっかりと掴み徐々に体を降ろしていけば右足が着地できる。
五丈石から金峰山山頂を眺める。五丈石の前は広いスペースになっており休憩にも適している。
金峰山から朝日岳・大弛峠への道
金峰山山頂からしばらくの間眺望が素晴らしい稜線上を歩いていく。しかし鉄山に向けて下りはじめると、道は木に囲まれ視界は一気に悪くなる。高い木と土と木の根の張った道が大弛峠まで永遠と続いた。登ったり降りたりを繰り返す、なかなかきびしい道だ。
大弛峠駐車場と大弛小屋
やっとの思いで朝日だけを降りきると大弛峠の駐車場にぶつかる。何台車が停められるか確認はしなかったが、タクシーやキャンピングカー、バイクなど沢山の車が駐車していた。またこの道路沿いにトイレがある。
大弛小屋は駐車場から少し東に入ったところにある。テント場の料金は一人600円。小屋の裏手に無料の水場がある。道路が近いので就寝時の騒音が気になったが、ほとんど車は通る事がなく静かに眠ることができた。
コースタイム
10/11(日) | 時間 | 10/12(月) | 時間 |
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瑞牆山荘駐車場 出発 | 7:15 | 大弛小屋 発 | 7:40 |
富士見平 | 8:15 | 瑞牆山荘駐車場 | 14:45 |
大日小屋 | 10:15 | ||
大日岩 | 10:35 | ||
五丈石 | 13:00? | ||
朝日岳 | 15:22 | ||
朝日峠 | 15:50 | ||
大弛小屋 | 16:20 |
1日目は行動時間9時間と長くなったが、途中で鷹見岩に行ったり、大日岩にクライミングしてみたり、五丈石に登ったりなど散々寄り道をしたためだ。それを除いた時間は「山と高原地図」の参考タイムとだいたい同じだろうと思う。
10月半ば、金峰山テント泊の装備
9月半ばに行った北アルプスとほぼ同じ内容だが、標高もそれより低いと言うことで装備や服を削ったのがあだとなった。めちゃくちゃ寒かった。登山前日も雪が降り、泊まった日の朝の気温は-3℃だった。4時頃に余裕で目が覚めていたのだが、寒すぎてテントの外にでることが出来なかった。秋山の厳しさを知る良い機会を得た。
今後はシュラフカバーを持ってくること。そしてこの季節は地面からの冷気をどのように防ぐか、と言う事をちょっとは考えなければならない。
前回購入したイスカのエア450
前回の北アルプスで思い切って購入したイスカの寝袋「エア450ショート」。偶然にもリュウイチ氏とかぶった。秋のこれくらいの寒さでもエア450は通用する事がわかったが、それでも地面からの冷気はすごかった。寝袋はエア450で充分だが、地面からの冷気対策を今後は考えなければならない。あとは今回調子にのって置いてきたシュラフカバーも次回はちゃんと持ってこよう。
登山靴について
登山靴はキャラバンのGK-57で充分だ。しかし五丈石に登る場合はもうちょっとソールの固い靴があると嬉しい。五丈石はしっかりとした足がかりが少なく、細かいでっぱりに足を乗せる事も多い。そんな場所では、やはりソールの先でも立てる固さを持った靴があれば良いのではないだろうか。
今回の装備一欄
項目 | 重量 | メーカー | コメント |
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登山靴 | 630g(片足) | Caravan(キャラバン) GK-57 | だんだんアッパーがやわくなってきた気がする。 |
ザック | 2400g | GREGORY(グレゴリー) トリコニ 60 | 使用3回目。各ベルトをSサイズに変更したいなあ。 |
テント | 1650g | アライテント エアライズ(2) | 姉のだが、自分のテントの様に愛着が沸いている。 |
シュラフ | 780g | エア 450 Xショート | やっぱり暖かい。秋は半袖で寝るのはよそう。 |
マット | 260g | リッジレスト スモール | シート代わりにも活用。秋にスモールは厳しいか。 |
時計 | 80g | 昔のカシオのプロトレック | コンパス代わりに。高度、気圧、温度が測れる。 |
水筒 | 48g | プラティパス・プラティパス 2 | いらない時は小さくできる、形が変わるのが良い。 |
ヘッドランプ | 81g | 不明 | 姉の。充分。 |
山と高原地図 | 金峰山・甲武信(2012年版) | ||
手ぬぐい | 26g | タオル代わりや鍋つかみのため | |
コンビニごはん1食分 | - | 菓子パン×2 | 甘いパンは美味しい。 |
非常食 | 150g | カロリーメイトチョコ味×1 | 昼食を買い忘れ昼食になった。 |
コッヘル | 155g | スノーピーク チタントレック900 | 炊飯用に。 |
ストーブ | 85g | REVO-3700ストーブ | 軽くてコンパクト。ベスト。 |
ガスカートリッジ | 243g | EPI | |
米 | 164g | 無洗米がなく普通の米に。夜飯に炊いた。 | |
あさげ | 13g | ごはんのお供に。 | |
焼肉 | - | 真空パックのタレに漬け込まれたカルビ。うまい。 | |
わかめごはん | 118g | 尾西のわかめごはん | やっぱり簡単。でも味は後一歩! |
ランタン | 180g | ユーコ キャンドルランタン | 今回は全く出番なし。 |
インナーダウン | 177g | mont-bell/モンベル U.L.ダウンインナージャケット | 防寒着のメインに使用。 |
カッパ上 | 411g | マーモットのアルパインジャケット | カッパと防寒着兼。焼肉の油が飛ぶ |
カッパ下 | 255g | ハミックスのハミングバード | 姉のもの。焼肉の油が飛ぶ |
ザックカバー | 142g | グレゴリー レインカバー 60 | 今回は未使用。 |
行動食 | 213g | 良くあるメイジの台形のナッツ入りチョコレート | 溶けるか心配したが溶けなかった。 |
コーヒー | 20g | インスタントコーヒー | 寒い日は特に嬉しい。 |
ペットボトル | 550g | 富士山のバナジウムなんたら500ml | 350から500mlに変更したが大正解。 |
トイレットペーパーセット | 35g | トイレットペーパーとビニール袋 | |
えんぴつ | 4g | やはりえんぴつが安心 | |
タオル | 104g | 凍らした肉を包むために。 | |
日焼けどめ | 45g | 前回ひどい日焼けをしたため | |
UVリップクリーム | 11g | 前回ひどいヘルペスになったため | |
いろいろセット | 200g | 薬、予備のライター、テーピング、ロープ、ウェットティッシュ、スプーン、糸と針など | |
合計 | 8600g + 水1000gとコンビニの食事と防寒着で10キロちょっとくらい |
秋山2500m前後の服装
寒い季節の登山経験のない俺は、前回の北アルプス登山から服を少なくしてしまった。減らしたと言うよりフリースを薄手のナイロンジャケットに変更してしまったのだ。出発ぎりぎりまで悩んでの結果だったが、これがあだとなった。やっぱり山の夜は寒い。そしてぱっと着てぱっと脱げるぼろいフリースは登山には最適。しかも寝るときは柔らかい枕にもなってくれるのだ。あとは行動中に羽織る、極めて薄めのシャツが一枚あるといいのだが。
一応今回の服装でも大丈夫だったが、もう一枚暖かい服があれば余裕があるし、何かあった時にも安心だろう。
- 行動中 / シャツ一枚orナイロンジャケット
- 休憩中 / シャツ+インナーダウン+ナイロンジャケット
- テント場 / シャツ+インナーダウン+ナイロンジャケット+カッパ上下ネックウォーマー+手袋
- 夜 / シャツ+予備のシャツ+インナーダウン+ナイロンジャケット+カッパ上下ネックウォーマー+手袋
- 朝 / シャツ+予備のシャツ+インナーダウン+ナイロンジャケット+カッパ上下ネックウォーマー+手袋
項目 | メーカー・特徴 | コメント |
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ソックス | サーモヘアのレギュラーソックス | アンゴラ山羊のキッドモヘアを使ったソックス。蒸れにくく、クッション性が良い。 |
タイツ | ワコール CW-X<スタビライクスモデル>メンズ | 最近思い始めたのだが、もしかして疲れにくいかも。 |
Tシャツ | イリオモテヤマネコTシャツ | ポリエステル100%。 |
ロンT | パタゴニアのベースレイヤー | ジッパーで温度調節ができる。が派手すぎる。 |
パンツ | パタゴニアのランブリングパンツ | 形よし、伸縮性よし。柔らかいので頑丈さにはかけるが、今のところベスト。 |
帽子 | KAVUのシンセティックストラップキャップ | ナイロンなので乾きやすい。雨にも強い。風で飛ばない。 |
アウター1 | パタゴニアのキッズ用のジャケット | もらいもの。タバコの穴があいている。 |
アウター2 | マーモットのアルパインジャケット | カッパと兼用 |
インナーダウン | mont-bell/モンベル U.L.ダウンインナージャケット | 小さいインナーダウンは1つもっておくと本当に便利。 |
ネックウォーマー | モンベルの安いやつ。フリース。 | やっぱりネックウォーマーは楽チン。寝るときは枕カバーに。 |
手袋 | ウールの分厚い手袋 | 暖かかった |
秋の金峰山登山日記
リュウイチ氏と出会ったのは都内のボルダリングジムだ。
ジムは平日のためガラガラで、同じ壁を課題にしていた俺らは仲良くなったのだ。
帰り際にお互い登山をやっている事がわかり、
リュウイチ氏に関しては週末に金峰山に行くと言う。
その金峰山登山に、名前も知らない俺を誘ってくれたのだ。
景気の良い返事はしたものの、実際俺は迷っていた。
まだ良く知らない人間だし、とは全く考えていなかったが、
仲が良いわけではない人と行く登山と言うものはどうなのだろうか。
いつもの登山は、10年ほど付き合いのあるヤハケンと一緒なのだ。
楽しくない登山だけは絶対避けたいが、知らない人と行く登山も経験になるだろう。
またこの繋がりを大事にしたいから、ここは無理をしてでも行くべきだろう。
色々と考えたが、当初の予定通りリュウイチ氏と共に金峰山に行くことにした。
予想通りヤハケンは仕事で来れない。
10月11日AM4:00、リュウイチ氏が自宅近くのセブンに車で来てくれた。
良く知らない人間にここまでしてくれるので本当に嬉しいし、申し訳ない。
助手席では寝ないようにがんばろう。
葛西インターから首都高に乗り、中央道須玉インターへ。
そこから一般道を北東方面へしばらく走る。
そして予定通り7:00前に瑞牆山荘に到着した。
さほど大きくない瑞牆山荘の駐車場は、この時間でほぼ満車だった。
なんとか駐車場を確保できはしたが、あと数分遅れたら路肩に車を停めることになっただろう。
それにしても山と言うものは人気がある、といつも思う。
結構、特殊な事をしているなあと自分自身で思っているのだが、
そんな特殊な事をしている人が俺の想像より遥かに多い。
こんな寒いなか朝早くに、みんな何を思い山に来るのであろうか。
一人一人インタビューをしたくてたまらないのだ。
天気は雲ひとつない晴れ。
はっきり言ってくそ寒い。
早くも防寒着を着込み、7:15分登山開始だ。
「大日小屋までは緩めの登り」
とリュウイチ氏に聞いていて安心したが、全くそんな事はなかった。
しばらく歩くといきなり道は急な上り坂になった。
しかし先頭を行くリュウイチ氏はそんな事を意に介さずぐいぐいと登る。
「おいおい、ペースはえーよ!」と言いたいけどそんな事もいえない。
根性が無いとは思われたくないのだ。
そして道はさらに急勾配になったが、やっとここでリュウイチ氏のペースが落ち着いた。
ふう、助かった、と胸をなでおろした。
東から登る太陽が当たらないウッソウとした暗い斜面を登り、
ゴロゴロ転がった大きな岩を過ぎる。
丸太で作った階段状の道は膝とモモにくる。
もうすでにまわりにいるおっちゃん達は汗がだらだらでつらそうだ。
富士見平小屋からは名前の通り富士山が見えた。
小屋の前は木の少ないなだらかな傾斜の広いスペースで、テントを張るには適した場所だ。
落ち葉が敷き詰められた地面を見て、
ここでのんびりとするのも悪くないなと思った。
富士見平小屋の前でしばらく休憩し、大日小屋に向け出発すると、
リュウイチ氏が「ふとどきものがいる!」と言いながら落ちているゴミを拾った。
彼は理論派で口がカライ人なのだが、この後も何度もゴミを拾っていた。
ゴミを拾うことと性格とは全く関係のないことだが、
何となく感じたギャップが面白かった。
富士見平小屋からしばらく行くと鷹見岩への分岐があった。
鷹見岩への登山道は地図上で点線になっている。
不安だが距離は短い。
どうして行く事になったかは忘れたが、俺らは鷹見岩に向かって南下した。
しかしさすがに点線で記されている登山道。
道はかなりワイルドだ。
人がやっと一人通れるくらい狭い道を、左右の木をガサガサと音を立てながら強引に進んでゆく。
まさに登山!と言うような一寸先が見えない道だ。
登山道に倒れ込んだ大木を乗り越えたり、くぐったり、
そしてジャングルを抜けると素晴らしい青空が広がった。
鷹見岩からの眺めは最高だ。
西を向き、左手には富士、南アルプスと続いて八ヶ岳。
そして後方には五丈石が見える。
鷹見岩は周囲からにょきっと飛び出している岩場のピークなので、
周りを遮るものがほとんどないのだ。
そしてこの周りと切り離された静かな感じ。こじんまりとしたスペースは隠れ家的なおもむきがある。
晴れた静かな日に、ゆっくりと一日中ここで時間を潰すのも良い山の過ごし方だろう。
出来ればテントでも張って、西に沈む夕日を眺めるのも悪くない。
鷹見岩からのパノラマ写真。クリックすると拡大します。
鷹見岩で軽い朝食を摂ったら、またジャングルの道を抜け大日小屋への分岐を東へ。
そして大日小屋を抜けると道の傾斜はきつくなった。
大日岩は登山道左手に出てくる巨大な岩だ。
簡単に登れるかな、とザックを置き大日に岩に取り付いた。がしかし、
全然簡単ではなく、少し登ったところで登るのを断念。
ボルダリングをかじっているからと言っても、やはり本物の岩は全く違う。
ロープもないし落ちたら死んでしまうので、思い切った動きもできない。
本場の岩の怖さを味わい、降りている最中には指が切れて血がでた。
今度登山をするときには、クライミングシューズを持っていると面白いだろう、
なんて話をしながら先に進んだ。
大日岩からはまた日があたらない暗い道を登る。
傾斜もきつくなり、木の根っこと大きな岩が転がる登りにくい道だ。
残雪と凍った石でつるつるとすべりそうな道を慎重にゆっくりと進んだ。
頭上からは光がさし込む。そしてとうとう稜線にたどり着いた。
地図上で言うと砂払ノ頭らへんか。
風は吹きぬけ空は真っ青。東西南北全てを眺望できる素晴らしい眺めだ!
森の中を抜けてきた一発目の稜線は本当に気持ちが良い。
しかし東を見ると、五丈石らしきものは遥か遠い高いところに。
こんなところで満足していてはならない、進まなければならないのだ。
道はがらりと岩の道に変わった。
かなり傾斜のある巨大な岩を、登山靴を頼りにぐいぐいと登る。
そんな石がゴロゴロしているし、時には凍っているので危険だ。
ハアハアと息を切らせた下りの登山者を過ぎ、
何回かピークを登ったり、降りたり、
「もう岩いいや」って思ったころ、とうとう五丈石に到着した。
五丈石は不思議な岩だ。
誰かが積んだとしか思えないように、見事にそれは山頂にあった。
奈良の石舞台の巨大バージョン。
車の中から、色んなとこから見えていた山頂の不思議なオブジェは
こんな形をしていたのだ。
姉が「山頂に五丈石って言うでかい岩があるから登ってみたら」なんて言ってたけど、
タバコを吸いながら五丈石を眺めていると頂上に立っている人はいない。
途中までは登っている人がいるけど、
どうやらあきらめて降りてきているようだ。
さて、簡単に登れるのか。
やる気まんまんのリュウイチ氏を先頭に、俺達は五丈石に挑んだ。
大日岩の二の舞になるのではなかろうか。。。
まず五丈石のふもとで登るルートを考える。「オブザベーション」と言う奴だ。
そして登り始めたのだが、左腕や胸の筋肉が痛い。
どうやら大日岩で痛めてしまったようだ。
最近無駄に筋トレをしすぎたせいか、
体が冷えているのにいきなり筋肉を使ったからか、年のせいか。
先行きが不安になった。
先ほどまで人がいたポイントには簡単にたどり着いた。
しかしここからが問題。2つ段差があるので、これをどう登るか。
考察した結果ルートは1つしか見つからず、そこから登ることにした。
考えている間に体は冷え、手はかじかんで感覚がなくなってくる。
また低い場所なら簡単なのだがこの高度感では簡単な事が難しく感じる。
滑らなそうな岩も滑りそうで怖い。
慎重に1つ目の段差を登った。
登るより降りる方がつらそうだ。
2つ目の段差も安全に登れる場所はない。
指を引っ掛ける場所が用意されているのだが、
そこにはちょうど氷が張ってしまって使うことができない。
恐らく強引に登るしかないのであろう。
しかし登りきれば40~50センチ以上のスペースがあるので安心。
まずリュウイチ氏がトライ。安全に登りきった。
続いて俺が挑戦したが、なかなか怖い。
何て事のない段差で、手の平を石に押し付け、グっと体を持ち上げれば良いのだが、
指が滑りそうで怖い。
とにかくつるつるの岩なので滑りそうなのだ。
色々な方法を考えたが、どうやら力で登るしか無さそうだ。
覚悟を決め、体をグっと持ち上げる。
思ったよりも簡単に登ることができた。
そして最後は五丈石頂上への段差だが、
高さはあるけどコーナーから登るので非常に楽だ。
岩の割れ目や、足や手をかけられる窪みがあるので、
それらを利用して登るだけなのだ。
リュウイチ氏がパパっと登り、そして歓声が聞こえる。
それについで俺も登る。
おお、素晴らしい眺めだ!
富士山、南アルプス、八ヶ岳、そしてちょこっと北アルプス。
全て丸見えなのだ。
こんなに眺望の素晴らしいところはまずないだろう。
鷹見岩で見ていた景色を、さらに高いところから見渡すことができる。
周囲には眺望のじゃまをする山もないし、騒がしい人もいない。
ここには景色と俺とリュウイチ氏しかいないのだ。
下からはおばちゃんが「よくやったね」と手を振ってくれている。
五丈石前の広場はみんな俺らの方を見上げている。
ちょっと東の方には金峰山の頂上もあるが、俺らの位置の方が高い。
ここに登らないとこの素晴らしい景色は見れないだろうし、
多くの人が登れない場所に自分達がいることは、とても気持ちが良いものだった。
そしてとうとう降りるばんだ。
五丈石の頂上で冷え切った体でがんばって降りなければならない。
無事に生きて帰るぞ、と心に誓った。
登った時と同じ様に頂上の段差は降りることができた。
しかし2番目の段差は厳しい。なかなか降りれそうにもない。
しばらく悩んだ結果、登りのルートとは違う方から降りることになった。
五丈石は西からの太陽を遮り、東壁は息が白くなるほど寒い。
石を触るたび手もかなり冷たくなった。
登りも下りも、リュウイチ氏が先頭を行ってくれるので安心だ。
2番目の段差もリュウイチ氏は無事降りることができたので、
俺もそのルートで降りることができた。
そして1番目の段差。ここも安全に降りる手立てがない。
恐らくここが一番の難関だろう。
しばらく迷い、リュウイチ氏の出した答えはジャンプ!
着地点には雪があるのに、ジャンプして降りてしまったのだ。
すげえ!俺にはそんな事はできない。
早く降りて楽になっちゃいたいけど、それだけは怖い。
なので後ろを向いて安全に降りることにした。
手はしっかりと岩を掴み、徐々に徐々に足の位置を下げていく。
岩の割れ目に何とか掴めるポイントを探し、さらに足を下げる。
そうしていくと右足を地面につけることができた。
ふう、無事に帰ってくることができた。帰りは絶対登らないぞ!
(結局帰りも登ることになった)
登りきった五丈石を見ながら優雅に一服し、
今日は寄り道が多いなあ、なんて言いながら大弛峠へ向け出発・・・。
ここから大弛峠までは約2時間かかった。
金峰山の山頂までが一番厳しいと思いきや、ここからの2時間が一番しんどかった。
眺めの良い稜線道はすぐ終わり、また森の中へ。
同じ様な変わり映えの無い道を登ったり降りたり登ったり降りたり・・・。
鉄山の山頂とか、朝日岳の山頂とか、眺望が悪いので達成感もない。
膝もきつくなり、「これは修行だ!」と自分に言い聞かせ進む。
そして16:20分、とうとう大弛峠の大弛小屋に到着。
行動時間は9時間。寄り道しまくりのハードな登山だった。