初心者のための登山とキャンプ入門

富士山登頂、成功のための10のポイント

富士山の山頂で喜ぶ人

このページでは富士山の頂上にたどり着くために大切な10個のポイントを紹介します。
といっても特別なことはなにもなく、歩き方に注意する、装備をしっかり、といった基本的なお話ですが、富士山の登頂を「途中で断念(リタイア)」する人の多くは、ここに書かれているようなことが十分にケアできていなかったのでは、と思うことがよくあります。
出発の前に、今一度、確認してみてください。

意識してゆっくり歩く

ふだんジョギングなどをしていて自分の体についてよくわかっている人なら別ですが、あまり運動をしていないので自分にどれくらい体力があるのか見当もつかない、という人には特に意識してほしい点です。

富士登山は12時間を超す長い戦いです。特に初めにムリをしてしまうと、後々に体の疲れや体調不良となって出てきます。
息は可能なら鼻呼吸が出来るくらいにゆっくり歩きます。たとえるなら、無くなりそうなスマホのバッテリーを大事に使うように、省エネを意識しつつ前に足を出すイメージです。動的にガシガシと力いっぱい歩くというよりは、上半身を前傾したり左右に動かしたりしないで、まるで頭のうえに何か大事な物を載せているかのように静的に歩きます。

こうして歩くと、気づかぬうちに体もムリなくウォームアップされ、同時に高度にも体が順応していきます。体に大きな疲労を感じること無く、「黙々と歩いていたら、いつの間にかもうすぐだ!」となります。

逆に歩きやすい六合目や、元気のあるうちにと七合目辺りまでを急いでしまうと、高度の面でも体に負担が掛かりますし後半が非常にツラくなります。ガシガシ歩いては座り込み、ガシガシ歩いては座り込み、を延々と繰り返しながら登るのはまさに苦行です。

小股で歩く

斜面に傾斜が出てきたら、また岩場になったら、もしくは疲れてきたなと思ったら、特に小股で歩くことを意識してみてください。

普段山を歩き慣れていない人は、段差や傾斜が出てくるとついつい「エイ!」と一気に登りたくなってしまうものです。
しかし富士登山に関してはこの坂や段差が延々と続くのです。こうして大股で登るとき、ふくらはぎや太ももの筋肉には一気に負荷が掛かり、体は前傾してしまいます。これの繰り返しは全身運動となってとても体を疲れさせます。疲れる割には「あれ、あんまり進んでないな」と実感すると思います。

段差では、なるべく小さな段差を探して、かつ、自分の進むペースを一定に保つように着々と進みます。止まったり進んだりせず、上手に次の段差を見つけ続けていくことはまるでゲームのようです。

ざらついた斜面でも小股作戦は効果大です。ズリズリと滑って歩きにくいと、ついつい大股で急いでしまって早く終わらせたくなりますが、ここでこそ、小股が重要です。小股で足の裏全体でハンコを押すようにジワっと体重をかけると、滑りにくくなります。直進が歩きづらければ道幅いっぱいにジグザグに進みながら小股前進を黙々と続けます。
もしうまく歩けていればそれほど疲労を感じず、「あれ~あんなにゆっくり歩いたのにけっこう登ったじゃん!」となるはずです。

「いよいよ疲れた、もう歩きたくない」となったら、その時こそ小股作戦です。どれくらい小股かというと、靴の先に反対側の足のカカトがくっつくくらい小股で歩きます。
止まったり座ったりせずにそのペースで1時間、歩いてみましょう。気づくとさっきまで走っていた若者を抜いていたりして、かなり進んでいたことに驚くことでしょう。

休憩のリズムを決める

 休憩を取るリズムを決めてしまうことは運動上効果的なことですが、意外にも精神的な健康上にも効果が大きいと思います。登山の休憩の取り方の一例としてですが、私が決めているのはこうです。

1時間歩いて10分休むを繰り返す

1回目の休憩は、30分歩いたら10分休む。次からは、1時間歩いて10分休む。歩くペースは先にも書いたとおり、ゆっくり小股。でも止まらない。
そうすると何が良いかというと、まず「いつ休もうか、もうちょっと頑張ろうか」という心の葛藤が無いことです。「時計の針がココを指すまで、ただただ黙々と歩くのみだ!」そう決めると、スッキリします。
あとは「まだ着かないのかな~」「どこまで頑張れるかな~」とか、遥か遠い山頂を見上げて無駄な不安や気苦労を抱くことは無くなります。空気も薄くなって体もだるくなってくると、「自分だけは頂上に辿り着けないんじゃないだろうか」と弱気になります。多くの登山者は折れそうな自分の心との戦いだと言います。

でも不思議なことですが、「歩いた時間」って裏切らないんですよ。どんなにゆっくりでも1時間止まらずに歩けば、1時間分ちゃんと進んでいるんです。
吉田ルートの例で考えてみましょう。

歩き始めは30分で休憩すると書きましたが、ここのように平らで景色を見ながら歩くような所は、写真でも撮りながらウォームアップを兼ねてキリのいい六合目まで行ってしまいます。靴ひもを結び直したり服を調整したりして、ここから本格的な上りが始まります。
ここからのコースタイムは5時間20分。1時間に10分休憩を取って行けば、どんなにゆっくり歩いたって5回目の休憩が終わった次は頂上に居るはずです。遠く先を見上げると「今日中に着くってことが信じられない」という気持ちになりますが、「1時間歩いて10分、を5回繰り返せば頂上」って思うと、そんなに難しく無いことのような気持ちになりませんか。

1時間歩き続けられるペースで歩くことが重要

逆に考えると「1時間歩き続けられるペースで歩くことが重要」という事にもなってきます。 もしムリなくできたなら、それは体に極端な負荷がかからない自分にとってちょうど良いペースで歩けていると言えます。
それはつまり「1時間歩き続けられないペースはダメ」ということにもなります。初めからそんなにがんばったペースで歩くことは、体を疲弊させ下山までもたせるのが難しいという結果になってしまいます。

とは言っても、やはり八合目に近づいてくると高度の影響もあって「しんどい~体が重い~」と感じるのが普通です。
しかしこの時も、休むリズムを決めていることが助けになります。「しんどいからもっとゆっくり歩こう」「しんどいけど、ここは頑張りどき、あと◯分はとにかく歩こう」と足を前に出し続けることで、いつの間にかしんどいピークを超えていたり、自分でも思わぬほど歩けていたりします。

もしここで10分ダッシュして座りこんで……を繰り返していると、それこそ苦行で精神的にも肉体的にも非常に苦痛です。

チョコチョコと、かつ積極的に食べる

登山中 チョコチョコと行動食を食べる人イラスト

お腹が空く前に食べて燃料補給

登山は意外にもお腹が減るスポーツです。なので「減った!」と思う前に食べることが大事です。 「減った」と感じる頃には、明らかに体の重さのようなものを感じます。そこでまだ食べてエネルギーをチャージできれば良いのですが、疲れと空腹が合体すると「シャリバテ(※)」を起こします。完全にエネルギー不足でバテてしまった状態です。こうなってしまうと、食べることが辛くなってしまうのです。

※気がつかないうちにおなかが減ってしまい、フラフラするなと気づいた頃には気持ち悪くて食べられないでバテてしまう、というものです。

ゼリー飲料などの食べやすいものも行動食に入れておく

そうなってしまったらまずはゼリー飲料とかグミとか食べやすいもの、なんとか食べられるものから始めます。そして「あ、気持ち悪くない、今なら食べられそう」と感じた隙に、たとえお腹が空いていないと思っていても積極的に食べ物を食べるようにします。
一度に多く食べると胃にも負担が掛かります。小休止の度に、チョコチョコと食べ、渋滞時にはポケットに入れて歩きながら食べたりすることも有効です。

体を冷やさない、大汗をかかない、紫外線に当たらない

服を着たり脱いだりして体温調節をする

山の天気が変わりやすいことは知られていますが、独立峰である富士山の気象条件は、変化が大きくて特に厳しいのです。それでも太平洋高気圧のおかげで、比較的夏期だけは天気が安定しているので登山シーズンと定めてオープンしているわけです。
冬なんかは富士山独特の突風が吹いて、海外の有名な8,000m峰にも匹敵する難しさだと言われています。まずそれを頭の片隅に置いておくと良いと思います。

夏場は日が当たればジリジリと暑いですし、日が陰ると急に寒くなります。山頂は風が出れば真冬のように感じることもあります。特に御来光待ち時間は真冬と考えて間違いありません。
ですので衣服をレイヤード(重ね着)にして、脱いだり着たりを繰り返しながらの体温調節を「意識して」行う必要があります。特に体が冷えてしまうと、お腹を壊したりという体調不良だけでなく、筋肉の運動能力も低下します。

かと言って、着込みすぎて大汗をかくのも避けたいところです。速乾保温性の下着を着ていればまだよいのですが、大汗をかいて水分を大量にとって……という繰り返しは体を疲れさせます。
特に小雨が降っていてレインウェアを着ているときなどは大汗をかきやすいので、胸元のジッパーを開けたり頭や首の周りのフード部分に空間を作ったり、脇下にベンチレーターがあれば開放して熱気がこもらないように気を配りましょう。

薄手のウインドブレーカーが紫外線対策におすすめ

また、肌を露出して紫外線に当たりすぎは体を疲れさせると言われています。詳しい仕組みは研究中らしいですが、大量の紫外線を浴びると体が疲れたと感じる物質が皮膚細胞から放出され、血液に乗って体内を回り、やがて倦怠感や発熱、体調不良などを感じるとのことです。富士山の紫外線は強いですから、もちろん疲労だけでなく肌にも悪影響です。露出の少ない服や日焼け止めを利用してなるべく当たらない工夫をしましょう。

私が個人的に富士登山の時に愛用しているのが、しまうと手のひらサイズになる薄手のウィンドブレーカーです。以前は装備を減らす観点からも、涼しい時にレインウェアを羽織るのが常でした。でも、レインウェアって歩きながら着るには生地が厚いんですよね。それに防寒着として着るには高価でもったいない。やっぱり摩耗して傷みますから。でもファストファッションなどで比較的安価に手に入るウィンドブレーカーなら傷んでも気にならないし、生地が薄いので着て歩くのにじゃまになりません。富士山のように天気のコロコロかわる環境では大活躍です。

人に抜かれても気にしない

富士登山をした多くの人は「自分との戦いだった」と言いますが、それは諦めや体力的辛さであったろうと思います。しかし、多くの登山者と一緒に登る中で「焦らない」「自分のペースを乱されずにキープする」という、自制心を試される戦いもまた大切です。

「焦ってはいけない」と頭では分かっていたとしても、自分の横をスタスタと追い抜いていくグループが居ると「私、遅すぎるかな?」「これで着くのかな?」とだんだんと気になってしまうものです。
富士山には本当にいろんな人が居て、ものすごい軽装備の人とかトレイルランニングの人とか、図書館帰り?って思うようなカバンを持った人とか、本当にさまざまです。そしてそういった多くの人が、かなり速いペースで歩いていきます。

ゆっくり歩いていると、たくさんの人に抜かされると思います。でも不思議と、登頂する時間ってそんなに差が出ないものです。
そしてもしゆっくりとリズム良い休憩で歩き続けたなら、急いで行った人たちを八合目とか九合目とかで抜かすことになると思います。そもそも、抜かれるとか抜くとか、全く意味のないことです。そんなことにペースを乱されたり不安になったりして自分を疲れさせないことが大切です。

頂上での御来光は(状況次第では)あきらめる

これは特に週末に登る場合です。頂上で御来光を見ようと思うと、必ず混雑にぶつかります。混雑にぶつかることは、自分の歩くペースを乱され、渋滞になれば通常よりも倍くらいの時間を掛けて歩かないといけないこともあります。
人酔いという余計な疲れを増やし、御来光待ちのための防寒服も余計に必要です。それに、暗い中を歩くことは明るい中を歩くよりもよっぽど疲れます。山小屋もゴッタ返して睡眠どころの騒ぎでは無いかもしれません。これだけのデメリットがあるのです。

もし御来光が見たいなら、朝までしっかり寝て小屋の前で御来光を見てから出発するのがおすすめです。「どうしても頂上で」とこだわるなら、せめて平日にしましょう。
もちろん、混雑も待ち時間も含めてお祭りのような「イベント」として楽しみたいなら、良いと思います。もし「山頂に立ちたい」ということを最優先するなら、こういった避けられるリスクは極力避けるのが良いかと思います。

お鉢めぐりは(状況次第では)あきらめる

お鉢めぐりはダイナミックな火口を楽しむことができるとても楽しいイベントです。その魅力については、後述する「吉田ルート体験記」で写真入りで紹介していますが、もし登頂を最優先するのなら、初めから諦めるのも手だと思います。

お鉢めぐりは、コースタイムだけで1時間半かかります。なかなかの距離です。アップダウンはそれほど無いのですが、なんせ高所なのでちょっとした傾斜で呼吸がしんどくなります。斜面がザラついて歩きにくい箇所もあります。

たしかに貴重な体験ではありますが、でも一周歩かなくったって雄大な景色は楽しめます。なので、もし計画していたとしても、山頂にたどり着く前にキツイなーと感じていたなら、サラッと諦めてまたの機会に回しましょう。予定していたならその分時間と気分的な余裕ができます。

お鉢めぐりを確実にしたい場合は、七合目や八合目に宿泊をしている場合でないとキツイかな、と個人的には思います。日帰りや五合目泊などの場合は初めから予定しないか、途中で諦める前提でいるのが良いかと思います。

レインウェアと靴はしっかりと

とにかく無事に登頂するために気をつけたい装備は、やはり基本に返ってレインウェアと靴だということを忘れないで頂きたいと思います。これは、私が登山を始めた二十数年前ですら言われていた大原則です。

同行の友人たちがみんな流行りのハットやスカート、スパッツやトレッキングポールに気を取られていても、惑わされることはありません。大事なのはきちんとしたレインウェアと靴を用意することです。見た目のファッションに気にしすぎてこの2つをないがしろにしないようにしたいものです。

逆に、富士登山にはいろんな人がいますから「ジーパンで登れたよ」「100円ショップのカッパでダイジウョブだったよ」「サンダルの人を見かけたよ」という人の声を聞くことがあるかもしれません。
でも、あなたが富士山に登る日が、初めから終わりまで晴天に恵まれるか、カッパが破れるような風が吹かないのか、それはわからないし、そんな天気の中でも無事に登れる人はきちんとした装備の人なのです。基本は、何があっても対応できる装備で臨むのが登山者の心得です。

あいさつをたのしむ

登山特有の習慣の中でも大切にしたいのが「すれ違いの時の挨拶です」。
知らない人と挨拶するって、日本ではもうあまりありませんよね。もしあなたが今回計画している富士登山が初めての山登りならば、驚かれるかもしれません。「富士山では知らない人と挨拶するんだ!?」と。

富士山でなくても登山では人とすれ違う際に挨拶したりひと言交わす習慣があります。 人が多すぎる観光地化した山だと、逆にしなかったりしますが。富士山でもきっと人がゴッタ返している山小屋の前などではいちいち挨拶しないかもしれませんが、すれ違うときとか、ゆっくり歩いていて目が合った時、道を譲ってもらった時などは積極的に挨拶をすることをおすすめしたいです。

私の経験ですが、ある日の下りで長く続いたどんよりとした雲がやっと去り、光が差しました。行き交う人の顔も明るくなって、そのときの「やっと晴れたね、うれしいね」っていう気持ちが伝わってきそうな挨拶はずいぶんと疲れを吹き飛ばしてくれました。
また、外国人の方たちが「コンニチハ!」とスマイルと共に元気よく掛けてくれた挨拶は、彼らの富士登山を楽しんでいる感じが伝わってきてこちらも嬉しくなったことをよく覚えています。

登山だと、隣で休憩しているおばちゃんに玉子焼きを分けてもらったり疲れている人に励ましの声を掛けたりということを普通にしたりします。富士登山は長く単調な道のりですから、そうやって挨拶したりひとこと言葉を交わしたりすることで気分転換になったりすることもあります。もちろん人との関わりが面倒くさい人はムリをすることは無いですが、心が元気になると登るパワーにもなりますし、より豊かな富士登山の思い出につながることは間違いありません