初心者のための登山とキャンプ入門

登山の寝袋の選び方。初心者は3シーズン用がおすすめ

登山で寝袋で朝日を見る人

寝袋は「シュラフ」または「スリーピングバッグ」とも呼ばれます。

登山用の寝袋は「夏の低山に適したモデル」「夏山から冬の低山まで」「夏の縦走や秋冬のキャンプに適した…」など、寝袋を使用する季節・気温にあわせて作られています。
そのため種類が多く、また同じ暖かさなのに数万円の価格差があったりして、選ぶのに迷ってしまうかもしれません。

そこで、このページでは寝袋の価格の違い、また初心者の方がその中から最適な寝袋が選べるよう書いてみたいと思います。

寝袋の素材と価格の差

モンベルの寝袋一覧
モンベル製品の例。ここから保温力ごとに商品を展開(19年12月)

モンベルの寝袋製品を見てみると、何十種類もあることがわかります。 夏の低山に適したモデルだったり厳冬期に適したものだったり、使用する気温にあわせた保温力の異なるモデルが細かく展開されています。

ぱっと見何がどんな商品だかわかりづらいですが、中綿が化繊かダウンか、ダウンの品質はどれくらいか、で商品が大きく分かれています。
この中に1万円強の寝袋から70,000円を超す寝袋まであります。その違いはなんでしょうか?

中綿の素材による価格の違い

寝袋の価格の差は使用する素材と量によって生まれます。

中綿が化繊のモデルは価格が安く、ダウンは高くなります。
そしてダウンには品質がありますので、ダウンの品質が良ければ良いほど値は上がり、それを使用する量が多くなるにつれ価格も合わせて上がります。
つまり、軽くて温かい寝袋の価格が高くなります。

※化繊の寝袋について

モンベルだけではなく、イスカ、ノースフェイスなども化繊の寝袋を販売していますが、寝袋の主流はダウンです。
化繊は水に強く、濡れてもある程度の暖かさを保つ等のメリットがありますが、ダウンと同等の暖かさにするためには量が必要になります。そのため化繊の寝袋は重く、かさばります。

モンベルの寝袋にみる、価格と重量の差

再びモンベルの製品を参考にみてみます。
「国内2,000m級のほとんどの冬山で幅広く使用できる」と同じ条件が記載された商品を、4つピックアップしてみました。

商品名 素材 重量 価格
バロウバッグ #1 化繊 1,680g ¥19,500
ダウンハガー650 #1 650フィルパワーダウン 1,273g ¥29,500
ダウンハガー800 #1 800フィルパワー・EXダウン 984g ¥40,000
ダウンハガー900 #1 900フィルパワー・EXダウン 821g ¥70,200

(※ ダウンの暖かさはフィルパワー(FP)で表されます。一般的には550~700フィルパワーのものが良質なダウン、700フィルパワー以上のものが高品質ダウンとされます。 )

表の一番上の行が化繊の寝袋になります。2行目から下はダウンで、下に行くにつれダウンの品質が高くなります。
重量は化繊から比べると半分近くになり、また価格は3.5倍も高くなっていることがわかります(19年12月の税抜き価格)。

このように、同じ条件下で使用できる同等の保温力を持つ寝袋ですが、重量が軽ければ軽いほど価格は上がります。 上記の例の場合、一番重い寝袋と一番軽い寝袋で、その差は約5万円にもなります。

5万円多く払っても軽量化する価値はある

体力がありいくらでも重たい物を持てる人なら、化繊で重量のある寝袋を選ぶのはありかもしれませんが、しかし「2,000m級の冬山」というテーマで寝袋を選ぶと難しくなります。
雪山登山だと夏山よりも体力を使うことが多いですし、必要な装備も多くなります。場合によってはより大きなザックが必要になるかもしれません。

また雪山だけでなく、2泊、3泊するような夏の縦走登山でも同じです。
テント泊の場合、その他にテント、マット、料理道具等も必要になり、2、3泊となると食料も増えます。疲労も日々溜まっていくので少しでも荷物を軽くしたくなります。「もっと軽いものを買っておくべきだった」と後悔する場面もでてくるでしょう。

なので余分に5万円払っても800グラム軽量化する価値は十分にあります。

予算が許す限り軽いものを

寝袋だけに限りませんが、登山の装備選びは「極力軽くする」がテーマになります。荷物が軽ければ軽いほど体力の消耗は抑えられるので、より安全な登山ができます。

登山の装備では「軽いものは高い」ので、たくさん予算をかければ楽な登山ができるのは間違いありません。
ですがたいていの登山者は「そこまでは出せない」と言う感覚ですので、予算と機能を天秤にかけ、適当なものを選んでいる様に思います。
なので自分の体力と今後やりたい登山を考え、予算の許す限りのダウンの軽い寝袋を選ぶことをおすすめします。

はじめての寝袋は3シーズン用がおすすめ

ナンガのオーロラライト
ナンガ / オーロラライト450DX

高品質で軽量なナンガの3シーズン用の寝袋。3サイズから選べる

ダウンの軽い寝袋がおすすめと書きましたが、その中でも幅広い季節で使える「3シーズン用」の寝袋が初心者の方におすすめです。

3シーズン用の寝袋とは?

メーカーは夏の低山キャンプ用、厳冬期用、3シーズン用など登山をする季節にあわせた保温力の寝袋を販売しています。その中でおすすめなのが3シーズン用ですが、メーカーの説明書きによると、

  • 夏の高山から冬の低山キャンプ 「モンベル」
  • 春から秋、冬の低山にも対応する 「イスカ」
  • 夏の高所から冬の低所登山まで可能 「ナンガ」
  • 3シーズンの低山や夏の高山に活用できる 「ザ・ノースフェイス」

ということになります。

上記の様に、夏季は高山、寒い季節は低山に対応するのが3シーズン用の寝袋と考えてよいと思います。
なお「高山」「低山」と表現がアバウトですが、低山はおよそ標高1000メートルまで、高山は3000メートルほどの北アルプスの山々のイメージでいいと思います。

夏季は北アルプスの様な3000メートル級の山々で使え、寒い時期には標高1000メートルくらいまで使えるのが3シーズン用の寝袋となります。

快適使用温度、最低使用温度とは?

メーカーのサイトには「夏の高山から冬の低山キャンプに対応」等の記述がありますが、それ以外にも「快適使用温度」「最低使用温度」等の温度表示も必ずあります。(モンベルの場合はコンフォート温度、リミット温度)

モンベルの例
モンベルの快適使用温度(コンフォート温度)最低使用温度(リミット温度)の例

快適使用温度とは暖かく快適に眠れる温度、最低使用温度は、工夫すればその温度でも使えないことはないよ、というイメージです。

温度表示は、寒がりな人も暑がりな人もいるのであくまで目安になりますが、寒い地方で登山をされる方は「夏の高山に対応」等の記述を見るより、行く予定の山の最低気温を調べ、それに対応した寝袋を選ぶのが適切かもしれません。

快適使用温度を見て選ぶ

なおその際は「快適使用温度」をみて選ぶ様にしましょう。

最低使用温度は「工夫すればその温度でも使用可能」という目安なので、最低使用温度がー5度の寝袋をー5度の場所で使用すると寒い思いをします。
また極端に寒くなる日もあるでしょうし、体調が悪くなることも大いに考えられます。なので「ギリギリいけるかも」という寝袋より、使用予定の温度よりも暖かい寝袋を選ぶ方が安全です。

快適使用温度が0度前後、最低使用温度が-5度前後が3シーズン用

ちなみに、この最低使用温度が-5度前後、快適使用温度が0度前後あたりに設定されているのが3シーズン用の寝袋になります。

※最低使用温度、快適使用温度の定義には保温力表示規格うんぬんがありますが、ここでは省きます。

体のサイズにあった寝袋を

3シーズン用の寝袋にも種類はたくさんありますが、その中でもサイズが選べるものがおすすめです。
必要以上に大きい寝袋は足元に保温のロスとなる無駄なスペースが生まれるので、小柄な男性や女性は選ぶ際に注目したいポイントです。(ロングサイズもあります)

モンベルとイスカのサイズ例

メーカー / 商品名 適応身長 重量 価格(税抜)
モンベル / ダウンハガー800 #3 ~183cmまで 600g ¥27,500
モンベル / ダウンハガー800 #3 ロング ~190cmまで 620g ¥29,500
モンベル / ダウンハガー800 Women's #3 ~173cmまで 578g ¥26,500
イスカ / エア 280X 適応身長の記載なし 570g ¥29,000
イスカ / エア 280X ショ-ト ~172cmまで 540g ¥28,500

モンベルとイスカを例にあげてみました。
モンベルは同じ保温力の商品でノーマル、ロング、女性用と3サイズあり、イスカはノーマルとショートの2サイズあります。

表の通り、ショートサイズや女性サイズは重量が軽くなるほか価格も多少安くなり、そして体にフィットして暖かいと良い事尽くめです。

3シーズン用の寝袋の使用例

イスカのエア450X ショートサイズ
イスカ / エア450X ショート

私はイスカの「エア450X」のショートサイズ、3シーズン用を使用しています。
厳冬期の登山はしないので、それ以外の全ての登山とキャンプでこの寝袋を使用しています。

  • 重量:800グラム(羽毛量430g)
  • 収納サイズ:φ16×32cm
  • ダウン:800フィルパワー
  • 快適使用温度:0度~5度(メーカーに記載なし)
  • 最低使用温度:-6度

寒いところでの使用例(テント泊の場合)

使用場所 時期 標高 感想
槍ヶ岳山荘(北アルプス) 7月 3,080m Tシャツ一枚でぬくぬく
仙水小屋(南アルプス) 7月 2,130m Tシャツ一枚でぬくぬく
剣沢(北アルプス) 9月 2,400m Tシャツ一枚でぬくぬく
穂高岳山荘(北アルプス) 9月 2,996m Tシャツ一枚でぬくぬく
大弛峠 10月 2,360m Tシャツ一枚でぬくぬく

上の表は、イスカのエア450Xを標高の高い場所で使用した際の、寒がりな人間の個人的な感想です。
その時の気温がどれほどだったのかを記録してはいませんが、上記の場所と季節ではTシャツ1枚でとても暖かく眠れました。

夏に使用した場合

真夏のビーチや公園等ではテント泊はしていませんが、標高が低めのキャンプ場を利用することが多く、その時もエア450Xを使用しています。チャックを全開にして掛け布団の様にすれば暑い時でも問題ありません。

寒くてだめだった場所

赤岳の行者小屋テント場

ネパールの3000メートル以上の場所

ネパールのナムチェバザール以降の標高の高い場所。体調の悪さが原因だと思いますが、ロッジ内で寝ていたにも関わらず寒くて大変でした。

1月の赤岳

1月の赤岳の行者小屋でテント泊、標高2,350メートルで最低気温が-16度という状況で使用。もちろんエア450Xのみでは耐えられないのでダウンジャケット、ダウンパンツを履いて対応しました。
その組み合わせで全く問題はありませんでしたが、地面からの冷気がとても寒かったので、もっとテント内の隙間を埋める努力をしたり、マットに気を使えばより快適に過ごせたと思います。