初心者のための登山とキャンプ入門

登山計画書・登山届とは?
書き方と提出先。書くことのメリット

登山届けを出す人

「登山計画書」とは、日時やメンバーや登山のルート、持っていく装備など、自分たちの登山計画のすべてをまとめた書類で、自分たちのために作成します。それを警察など第三者に知らせるため、「登山届」「入山届」「登山者カード」などとも呼ばれます。

このページでは登山計画書をまとめるメリットから、毎回出さないとだめなのか?というあたりの疑問まで踏み込んで書いています。

なぜ登山届を出すのか

登山届の提出ポスト
登山口手前にある登山届の提出場所の一例。中央の白いポストに投函する

登山をするために山に入る時、「登山届」というものをその地域の県警に提出します。万が一の遭難があったときに迅速な救助活動をするために利用されます。

自分たち用に作った登山計画書を提出すればそれが「届け」になります。
ここ数年の流れでは、自治体によって条例となって登山届の提出が義務化されているエリアが出始めました。2017年3月には全国で初めて登山届を出さずに山岳事故にあった登山者に対して罰金が課されました(岐阜県警、北アルプスの西穂高岳)。

しかし義務化されていない地域においても、提出することは昔から登山者の一般的なマナーとなっています。

「提出すべき!」とするいちばん説得力のある考え方は、やはり責任感でしょう。

たとえばテレビで、「食料も水もレインコートも持たないでサンダルで富士山に登った人が遭難して捜索依頼をして、無事救出されました」というニュースを見たとします。「なんて無責任な!」「自分でいいかげんなことをしておいて”助けてください”だなんて都合良すぎ」「税金のムダ使いだ」なんてあきれると思います。

こういう人はまれにしろ、でも、どんな簡単な登山でも日常よりリスクがある場所に自分からあえて出向くということは確かです。
なので、想定外で万が一、人の手を借りて助けてもらわなければならないことになった時のために少しでも周りに迷惑をかけないために届けを出しておくという考え方だと思います。

事故は天候の急変や地震など、自分がどんなに入念に準備してもカバーしきれない原因によることもあるし、常に想定外で、必ず人に迷惑をかけてしまいます。自分の命の大切さももちろんですが、その迷惑を少しでも減らそうと考えたら、多少面倒でも登山届をいつでも提出する習慣を付けてしまったほうが良いと思います。

登山届の書き方と提出先

登山計画書
登山計画書(登山届)のフォーマット

登山届のフォーマットは自由

基本的に、登山届のフォーマットは自由です。記載する内容は主に下記の内容になりますが、自分たちが見やすいように取りまとめた登山計画書を、登山届として兼ねてしまうことが一番効率的だと思います。

登山届に書く主な内容

  • 登山日
  • 登山者の氏名、住所と電話番号、緊急連絡先
  • 登山をする山の名前
  • 行動予定
  • 装備の内容、食料の量
  • 緊急時の避難コース(エスケープルート)

などです。

※緊急時の避難コース(エスケープルート)とは、登山中に天候や怪我等のトラブルが発生して、計画が遂行できな場合に使用する下山ルートです。登ってきた道をそのまま下山するのが一番安全で確実ではありますが、「この道から下りた方が町に近い」というシチュエーションもあるでしょう。

予めエスケープルートを決め計画書に記載しておくことで登山者が現場で迷うこともなくなり、また遭難をした場合には捜索隊が早期に発見できる可能性も高くなります。

フォーマットあれこれ

有名な山域を有する県警や自治体では、無料でフォーマットを提供しているところもあります。PDFファイルやワードやエクセルなどの書式をHP上からダウンロードして使います。

自宅にプリンタがない場合はコンビニから印刷するのも良いでしょう。インターネットでの提出についても後述していますが、紙に書き込んでいくスタイルがとっつきやすいです。

登山届の提出先

登山届を山小屋で記入
北アルプス、白馬の猿倉荘では登山届を記入する場所を用意してくれている。

1 警察に

登山届の提出先は警察になり、利用目的は救助活動です。提出先は警察ならどこでも良いわけではなく、その山域を管理する警察署が窓口になります。
郵送、FAX、最近ではデータをメールで送信する、専用ウェブサイトで登録など、各種の方法が用意されています。

ただメールの場合、受け取った係から各警察署に振り分ける作業があるので「1週間前までに送ってください」、などと期日の制限がある県警もあります。後述しますが県や県警によってバラバラですのでそれぞれに合わせた対応になります。

ちょっとハードな登山の場合は事前に郵送やFAXしたりすることもあると思いますが、伝統的かつ、良くあるスタイルは、登山届のポストに入れる、というやり方です。自分たちの計画をまとめるために作った登山計画書を一枚余分にコピーして当日の登山に持参し、最寄りの駅や登山口にある登山届のポストに入れます。

ちなみに、長野県が2019年8月に発表した最新年度の統計によると、登山ポストで提出した人76.5%、インターネットで提出した人22.5%、郵送・持参・FAXは1%となっています。

2 家族や職場に

家族と一緒に暮らしている場合は、家族用に一部、登山届を置いていきましょう。家族よりも職場で良く自分のことを理解してくれている上司などに一部渡しておくという登山者も居ます。
一人暮らしならスマホで登山計画書の写真を撮って家族に送っておく、などでも良いでしょう。

もし自分が経験者で初心者のメンバーを連れて行く場合は、はじめのうちはメンバーにもプリントしたものを2部配布し、メンバー本人用と、家族用とを渡してあげると良いでしょう。

一般的に救助要請は、登山に行った家族や仲間が予定までに帰ってこない場合に家族などが警察に連絡することから始まります。

オンラインで登山届を出す

オンラインで登山計画書を提出したい人は、「コンパス」の利用が便利です。

こちらは2013年に始まった公益社団法人日本山岳ガイド協会が運営する登山に関する総合サイトで、一番の特徴はウェブ上から登山届を出せることです。

コンパスと提携している自治体や県警は多いので、インターネットを活用するのが好きな人には便利です。
例えば長野県では、2016年にコンパスと提携し、「みなし提出先」としています。長野県の専用サイトから登山届を出してもいいし、コンパスのサイトを活用しても良いということです。

コンパスでは登山計画書を提出するだけでなく、登山情報を収集し、計画を立て、メンバーや家族と計画をシェアし、行動の記録を残し、下山したら通知する、などができます。
一番のメリットは、万が一の遭難のときに対象者の情報に素早くリーチできる点です。また手軽に出せて役に立つことからの提出率向上も期待されています。

コンパスには無料機能と有料の部分があります。また、同じくインターネットを活用したヤマレコでも登山届を提出する機能があります。
ヤマレコは登山届の提出をメイン目的としたサイトではありませんが、両者は連携している部分や似ている機能もあるので、登山で色々とネット活用をしたい人は、ガッチリ使い始めてしまう前に両方チェックすると良いかもしれません。

登山届を出したくないという意見

最近では山岳事故が増えてきていることから、「登山届を出さないなんて非常識」という世間の風潮があります。
しかし、実際に登山をしてみるとわかりますが、たしかに徹底的に「提出」のルールを守るにはスッキリしない部分もあります。反対派の意見にも、なるほど、と唸ってしまう部分もあります。

  • 救助依頼は、登山者が予定日を過ぎても下山しなかった場合に家族から警察に連絡が行く場合がほとんどなのだから、家族や友人に知らせておけば十分では。(届けは、いわば”出しっぱなし”であり、警察がチェックしているわけではない)
  • 低山から3000m級の山、高山であってもロープウェイで観光ついでに登れる山、週末のたびにしょっちゅう登る山まであり、届けを出す山の線引が難しい。
  • マイナーな山だと、登山届けを出すポストが無かったり、見つかりにくかったりする。
  • 個人情報を書くのに他人がかんたんに持ち去れるような箱になっており、情報漏洩が心配。
  • 計画を知らせる家族が居ない場合など、出したい人だけが、自己責任で出せば良いのでは。
  • 「今日は天気が良いから登ろう」とか「こっちの道に変更しよう」とか流動的なので、現実に合わない。
  • 釣り人が「入海届け」を出さないように、個々人の自由な活動に縛りをかけられたくない。

当然昔から登山届の制度はありましたが、少し前から登山ブームが起こり、山岳事故も増えたことから”行政による義務化”という動きが進んだことから、存在意義や効率性を疑う声も多いように思います。
個人情報だけが気になる人はインターネット経由の提出などでクリアできる部分はありそうですが、なかなか難しい部分もありそうです。

各地ごとの取り組み

このように、登山届の提出については全国一律で統一して義務化するにはむずかしい面があります。

なので、たとえば人気の山岳地帯と多くの登山者を有する長野県では、「長野県登山安全条例」を定めて独自に取り組みを進めています。
そのうちの一つが、県内の登山ルートをレベル分けして、登山届が必要なルートと、不必要なルートを決めて義務化する、などです。

県独自の取り組みということはつまり行く山ごとにルールがバラバラ、ということなので、登山者にとってはややこしい一面もあります。
しかし山の性質も登山者や観光客の数もそれぞれにまったく性質が異なるので、どうしてもそれぞれの地域に合わせた取り組になってしまうのでしょう。海外旅行に行く際に、国に合わせてビザや通貨を用意する様なイメージでしょうか。

特に最近では各自治体がそれぞれに試行錯誤をしている段階なので特に分かりづらい面もあるかと思いますが、将来的に良い仕組みができていくように登山者としても協力していきたいところです。

登山計画書はどんな登山でも必要?

これまでに述べたように様々なレベルの登山があったりスッキリしない部分もありますが、結論から言うと「どんなときでも登山計画書を作って提出するクセ」を付けてしまったほうが良いと思います。それは、たとえば以下のような理由からです。

登山計画書をいつでも書くと良い理由

安全登山につながる

登山計画書の作成は、自分の登山計画のモレを確認するためにも役立ちます。特に登山を初めたばかりの初心者にとっては、こまごました持ち物や調べものの多さに混乱することもあると思いますが、紙面に整理して書いてみるとスッキリ理解できます。

計画書を書いていく中で、計画を整理して自分の中に落とし込んでいくことにも役立ちます。事前に情報収集して登山に望むことは、即、無事故に繋がります。

一発で情報共有できる

また、登山ではメンバーと計画や装備についての情報共有がとても大切です。

参加メンバーはもらった計画書をみて、全体の見通しを立てることが出来ます。「初日は歩く時間が長くてお昼ごはんの大休止は無いようだから、手軽な行動食をメインで持っていこう」などと準備をするのに役立ちます。
またリーダー以外のメンバーが「この計画では時間が厳しいのでは?」と計画の甘さなどを指摘してくれることもあるかもしれませんし、ベテランにアドバイスを求めるときもどこまで準備や下調べが出来ているかがひと目で分かります。

自立した登山者であるため

登山者の心構えとして「精神的に自立している」ということが、とても大切です。「何も知らずにお任せで連れて行ってもらう」ということも実際にはあるかもしれませんが、おカタく言えば、「一人一人のメンバーが登山計画を把握し、自己責任で参加し、自分の足で帰ってくる」ということが基本です。

全員が「自分は、○○登山口を○○時にスタートして、○○ルートを通って、○○mの○○山まで○○m登って、○○時ごろ到着して、〇〇下山口まで○○ルートを通って○○m下って、〇〇時に到着する」ということをきちんと把握して、自分ひとりでも行って帰ってこれるぞ、と思えていることが理想的です。

最高の参考資料になる

また、登山道は無数にあるわけではないので、違う季節に同じルートを歩いたりすることなどもしょっちゅうあります。なので「あのコースまた行ってみようかな」と思い立ったときなど、以前もらった登山計画書がとても役に立ちます。
初心者のうちは、仲間が作ってくれた登山計画書を捨てないで取っておくと良いでしょう。そのときに、実際の行動時間などの記録などをメモしておくと、自分が計画を立てるときの参考になったりします。

このように「このメンバーで、この役割で、全体としてこんな装備をもって、このコースを通って、こんなスケジュールで行きます」という計画の全体像を一つにまとめて知らせておくことは、リーダーの役割です。
リーダーからもらった登山計画書をもとに、メンバーがきちんと各自で予習してくるかどうかまではめんどうみきれないかもしれませんが「伝える」まではリーダーの仕事と思いましょう。

めんどうなことになってしまった例

「登山」というと、やたら危険を連想する人も多いので、きちんと計画を示して周囲の理解を得ておくことは重要です。

たとえば、あなたが言い出しっぺになって、「高尾山ハイキング行かない?」と友人を誘ったと仮定してイメージしてみましょう。

あなたと友人はおしゃべりに花が咲き、予定よりも山頂の茶屋でゆっくりしてしまいました。城山経由で街に下ったらすでに最終バスは終わっており、歩いて電車の駅まで行くことになりました。

当の本人たちはちょっとした冒険気分でとても楽しんでいましたが、4時ごろ、自宅のテレビでふと山の遭難ニュースを見た友人のお母さんが「あの子、大丈夫かしら。たしか、誰かとどこかの山に行くって言ってたわ」と不安になり、携帯電話に掛けました。
山では電池の節約のために機内モードにしていたので電話は繋がらず、不安になり始めた友人のお母さんは、万が一何かあったときに日が暮れてからの捜索でも間に合うのか、と考え始めました。

悩みつつも2時間待って6時に再度電話を掛けたけれども、彼女は機内モードから戻すのを忘れていて電波は繋がらず。8時に自宅に帰宅すると、家では警察に捜索依頼を出すかどうか、というところまで話が進んでいました。
「お母さん、あそこの山に行くって伝えたじゃない!」と友人が言っても、そんなこと聞いていない、と言います。それどころか、「山のことは何も知らない我が子をこんな遅くまで連れ回すなんて。なんて非常識な人なんだ」、と悪い印象を持たれてしまう結果となりました。

こんなつまらない事になってしまうと、家族の方にいらぬ心配をかけてしまうだけでなく「もうあの人と山に行くのは禁止」なんて残念なことにもなりかねません。

山に行く人は、そういう周囲への配慮をいつでも忘れないようにしたいところです。

まとめ

このように考えていくと「登山届はめんどくさい」を超えて、登山計画書を作るメリットはたくさんあります。せっかく作ったのならキッチリ提出まで済ませて、スッキリした気持ちで登山しましょう。