初心者のための登山とキャンプ入門

静岡県 富士山ガイダンス参加レポ

静岡県 富士山ガイダンス in名古屋

富士山の静岡県3ルートの山開きまであと1ヶ月となった2016年6月10日、静岡県による富士山ガイダンスが名古屋で行われました。富士登山を安全に行ってもらい、富士山をみんなで適切に利用していこうという流れの一環です。許可をもらって参加してきましたのでその様子と最新情報をお届けします。

今回のガイダンスは、富士山ツアーを主催するツアー会社や登山用品店、山岳関係者などに向けて行われたもので、参加は無料です。開山直前の有益な情報を発信します、ということですが、目的としては“実際に富士登山する人たちが無事故で登れるように関係機関のみなさんも協力して下さい”というものだと思います。

静岡県 富士山ガイダンスin名古屋レジメ

場所は名古屋駅そばの安保ホール。14時開催で2時間。本日の内容はこんな感じです。長いと思われた2時間はあっという間でした。

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2016年夏の登山情報全般について

はじめにお話されたのは、静岡県富士山世界遺産課の女性です。富士山は2ヶ月間という短期間に多数の登山者が来て、そして初心者がとても多いという2つの特徴を挙げた上で、この理由により安全への啓発が大変重要なのだと確認がありました。

話された内容は、今夏の開山期間、富士山の登山者数の推移、平日と土日の人数の差など、当サイトでも紹介している一般的な情報に加え、以下の様な事が参考になりました。

●弾丸登山を阻止するために、シャトルバスを運行する富士急に協力してもらい、今夏の最終便をすべて20時としてもらった(富士吉田口・須走口)。この時間ならいくつかの山小屋が開いていて、ギリギリ泊まることも出来るかもしれない。昨年までは夜22時までとかやっていたが、新たな試みとなる。

●2016年の救護所の開設期間が決まった。

  • 吉田ルート(五合目)7/1~9/11(73日間)
  • 吉田ルート(七合目)7/16~7/18、7/23~25、7/27~8/28(39日間)
  • 吉田ルート(八合目)7/16~7/18、7/21~8/28(42日間)
  • 富士宮ルート(八合目)7/22~8/22、9/1~9/6(38日間)

●富士山山頂郵便局の2016年の開設期間は、7/10~8/21の朝6時~14時の予定。御殿場山頂の銀明館内に開設。時間などは例年これよりも延長されたりしているとのこと。

●吉田ルートの開山は7/1だが、お鉢巡りのルートは7/10である。山頂の登山道にはロープを張って通れないようにしてある。よって、7/10までは、吉田ルートから登山して富士宮ルートに下山などは不可能で、吉田ルートからしか下山できない。

●7/1~7/9は山頂のトイレは使えない。山小屋のトイレも基本使えないと思っておいたほうが良い。→八合目まででトイレを済ますか、携帯トイレを持参して欲しい。また、荒天候の時に山頂山小屋が閉まっていれば避難できる場所がないので、荒天時のムリな登山は辞めるように。

富士山保全協力金について

次に、両県を代表して山梨県の”山梨県世界遺産富士山課”の方がお話されました。静岡県では”静岡県富士山世界遺産課”となっており、「世界遺産」と「富士山」の位置が逆なわけですが、この、国民の多数を占めるであろう「山梨だとか静岡だとか、ややこしい!」という感情を担当者の方々も皮肉ってお話されていました。

ここでは保全協力金についての一般的な説明がありましたが、要点としては以下のとおりです。

  • 2015年度にあつまった保全金の額は、全体(両県合計)で114,497,000円。
  • お金は五合目より上の事業に限って使う。
  • 使い途は両県のHPなどで紹介はされているもののの、一般の人にはわかりづらくマスコミなどでそのように報道された影響もあって協力者はまだまだ不十分。そこで、協力金が使われているもの(ヘルメットや看板など)に次のようなシールを貼るなどして、登山者に「協力金を払いたいな」と思ってもらうように務めることにした。
富士山保全協力金 シール

協力金の中で私が一番印象に残った話題は、実は次の写真についてです。

これまで協力金を払った人には記念の缶バッチやブックレットが配布されていましたが、2016年は山梨県が静岡県を裏切って(山梨県の方が面白おかしく言っていました)吉田ルートだけ品物を変更したということです。それがこちらの写真。

2016年 山梨県 富士山協力金 記念品 木札

このデザインは「富士山牛玉(ごおう)」と言われる図柄で、江戸時代の富士講の修行者が着る服に印刷したりした歴史あるデザインだそうです。約5センチ四方と結構大きいので裏面にはスタンプとかも押せるらしい。これは外国人の登山者は嬉しいだろうなあと思いました。

これまでは、記念品はすべて缶バッチと統一されており、それぞれの登ってきたルートの色に分かれて居ました。今回山梨県だけ別にしたことについて、「なんでまたそういうバラバラなことするのだろう」と思った反面、「バッチよりこっちが欲しいかも」、「ますます吉田ルートに人が集まるのでは」と思ったのでした。

この後に話した県警の人によると、この入山ルートを色で示してくれる記念バッチは道迷いを指摘するのに大いに役立つそうです。具体的には、レンジャーや山岳警備隊の人が、入山口と違うルートを下っていこうとする登山者に対して確認の意味で気軽に声を掛けられるとういうことです。なので、もらったらザックの中にしまわずにすぐに目立つところに付けて欲しいということでした。吉田口のこの木札も、ヒモの色はちゃんと吉田ルートを示す黄色で作られています。ルート別の色を使っていこう、という流れはかなり守られているようです。

富士山レンジャーより登山者の傾向

次に、実際に多くの登山者と接する富士山レンジャーの方より、”レンジャーが感じた最近の登山者の特徴”と題して、具体的な写真を用いた説明がありました。昨年度では5000人の軽装備の登山者に(巡回の人は他に800人に)声を掛けたそうです。

富士山レンジャー 最近の登山者の特徴

このコーナーでは全面的にツアー会社への要望を打ち出しているように感じました。というのは、富士登山の渋滞に2つ(細かくは3つ)のピークがあることは有名ですが、ツアー会社などでも「八合目で宿泊して山頂で御来光を!」と勧めるものが多いのです。直接的にはおっしゃいませんでしたが、これを辞めてほしいのだろうと感じました。まずは渋滞に関する内容では次のような説明がありました。

  • ご来光の時間に山頂周辺で渋滞が起きてしまうことは安全上問題である。
  • 吉田ルートは登山道上のどこでもご来光を見ることが出来る。
  • 山頂に着いた人がそこで留まるため、先がつっかえてご来光の時間に山頂にたどり着かない人も多い

次は、レンジャーの方が感じた問題登山者が次々と紹介されました。

  • イベント感覚でコスプレ衣装で登る人
  • コンビニ袋一つ持って登る人
  • 体力を過信してしまい道端でぐったりしている人
  • 谷側に足を放り出して今にも落石をしそうな体制で寝転ぶ登山知識不足の人
  • 富士山は強風なのにビニール傘で登ろうとする知識不足の人
  • 限られた数時間の日本観光の中でムリに登頂しようとする外国人

これらの紹介を通じて、ツアー会社はただ連れてくるのではなく、参加当日までにツアー参加者に対して装備や情報の提供などきめ細やかな配慮をし、当日万が一軽装で来てしまった参加者には五合目で購入することを勧めるなどのケアをすることによって、登頂率も上げれば集客に繋がるのでは、との提案がありました。

他には、

  • 靴底が剥がれてしまう登山者が意外にも多いので、添乗員はガムテープを持参したら良い
  • 持病を隠して登り、登山中に発症してしまう人が多いので事前にヒアリングできたら良い
  • マイカー規制中にバスが登山客を五合目で下ろすのに時間がかかりバス渋滞が起こるため、五合目に着くまでに余計に時間がかかることを承知しておいた方がいい

などのアドバイスが有りました。写真で見る登山者の姿は、どんな言葉よりも説得力があるなと感じました。

噴火について

次に、富士山についての噴火対策の取り組みが紹介されました。多くは当サイトの噴火ページで紹介している内容と同じでしたが、他に気になった情報をご紹介します。

富士山が噴火する時、”火口は山頂とは限らない”という特徴があります。そこで過去の噴火データを元に、静岡県側での6パターンの噴火を想定して避難パターンを決めています。こちらが配布された”富士山噴火時避難ルートマップ(静岡県)”です。

富士山噴火時避難ルートマップ

例えばこれは、パターン4南斜面の火口が噴火した場合。

富士山噴火時避難ルートマップ 避難パターンⅣ

円中央の赤い丸が想定する火口。紫の実線が火口列。富士山では単体の火口ではなく幾つもの火口が繋がって列になる事が多いのだそうです。赤い点線は大きな噴石が飛んで来る範囲。グレーの点線は火山灰が2時間で1cm以上積もる範囲。茶色のエリアは溶岩流が流れる範囲。矢印は逃げるべき方向。OHはお鉢巡り中の人。Sは須走ルート、Gは御殿場ルート、Fは富士宮ルート。

この場合、富士宮ルートを歩いている人が問題となるわけですが、案内にはこのように書かれています。

「富士宮ルート七合目より上部にいる登山者は、山頂を経由し須走か吉田ルートへ避難、七合目以下にいる登山者は遊歩道を経由し御殿場ルート方向へ避難、五合目付近にいる観光客は、噴火の状況に留意して、富士山スカイラインを南方向に避難」

「なるほど!」と納得できるようなできないような微妙なところもありますが、噴火について過去の事例を参考にして予測することは大切なようです。

ちなみにこの、”富士山噴火時避難ルートマップ(静岡県)”を入手したい場合は下記に問い合わせていただくと良いと思います。 

  • 静岡県危機管理部危機情報課 電話:054-221-3366

他に得た情報としては次のような事がありました。

●富士山に仮に噴火の前兆があったとしても火口が判定しづらいため、噴火警戒レベルの“レベル2(火口周辺規制)”は出しにくい。よって、現在はどの活火山でもなるレベル1(活火山であることに留意)だが、出るとしたらレベル3(入山規制)以上となるだろう。すると登山者は「即下山」となる。

●Webで登山届を出せる”コンパスアプリ”を静岡県で改修しており、この6月より緊急情報も受け取れるよになっている。活用して欲しい。

●普通の登山装備に加え、ヘルメット、ゴーグル、マスクを噴火対策として加えて欲しい。御岳の噴火時にヘルメットが有用だったのは有名だが、粉塵の中で何も見えなかったという声や、何かで口元を押さえていないと息ができなかったという状況があった。

●登山前には必ず気象庁のHPの”火山登山者向けの情報提供ページ”などを確認をしてほしい。

静岡県警より遭難について

次は,レンジャーからの話と内容的には少しかぶりますが、県警で扱う「遭難」は具体的に110番などで救助要請があったものということで、よりピリっとした気分で聞いてしまいます。だれもが警察の世話にはなっちゃいけない、という思いがあるのではないでしょうか。

静岡県警 ルート別遭難様態 

特に気になった情報は次のとおりです。

●遭難の内容として、全国の山で一番多いのは道迷いの41%だが、富士山では14%と少ない。では一番多い内容はといえば、“病気“の31%で、全国では6%となっている。これは高山病ということだが、富士山に限ったことではなく3000m級の山をもつ県では、病気による遭難が10%と高い。

●五合目に着いてすぐに歩き出すと、間違いなく高山病なる。体慣らしの休憩と共に必要なのは、水分補給とトイレである。高山病を発症するときは、高山病単独ではなくて、だいたい脱水症を併発している。県警からも、協力金を取るならトイレを無料にしてくれと要望を出しているが、未だ実現していない。水分をどんどん摂って排泄すれば、高山病は減らすことが出来る。

●御殿場ルートでの遭難の2割は道迷いだ。駿河湾で温まった水蒸気がガスになって山肌を下りてくる。このため視界が遮られる。富士宮ルートにはガスはないが、御殿場ルートと須走ルートでガスによる道迷いが生じやすい。

●”病気”というと高齢者を想像するだろうが、20代が一番多い。体力と若さがあるため、なんとかなると過信し、弾丸登山をしたり軽装で登ったり、体力に任せてペース配分せずに高山病になる。これはどのルートでも同じ。

●最近の新しい傾向で、山ガールに付いてきた彼氏の遭難が多い。山ガールはしっかりした速乾性の下着やレインウェアを着ているので弾丸登山でも大丈夫だったけど、付いてきた彼氏は普段着にビニールカッパで低体温症を発症。昨年は3件救助した。いざというとき、装備がモノを言う。

●ルート別遭難者数では、1万人あたり、御殿場ルートでは7人、富士宮ルートでは5人、須走ルートでは3.5人。静岡県3ルートの中で遭難という意味では、須走ルートがしにくいというデータが出ている。

●山岳遭難の救助というとヘリコプターのイメージが強いが、富士山の場合気候の関係でヘリコプターは難しい。よって人力で救助者を下ろすか、ブルドーザーを使うことになる。世界遺産になってブルドーザーも道を荒らすので使用が制限されており(環境省の基準では1日に1回)あまり使えない。なので待つ事になるし、ブルドーザーは有料なのでそれなりにお金も必要。

●富士登山中に持病が発症するという話がレンジャーからあったが、脳梗塞や心筋梗塞など血管が詰まる病気の人は特に注意をした方がいい。お菓子の袋を山に持ってくるとパンパンに膨らむが、これと同じことが体内で起こっていると考えてもらいたい。血管が破裂して亡くなる方もいる。

●ツアーを催行する旅行会社にお願いしたいことは、登山者が遭難しないようリードしてもらいたい。装備に加え、休憩も重要。休憩がやたら長いのが、救助隊が見ていて気になることだ。普通の登山だと30分歩いて5分休憩とかリズムを持って休む。体が冷えきってしまうとエンジンがかかるまでにエネルギーが要って体力が奪われるし、冷えすぎて低体温症になる。休憩前に「5分休みます」と声掛けをするのが良い。

●静岡県警のHPでは中国語など多言語で登山情報を出しているので、ツアー客に紹介してもらいたい。

ふもとを楽しむハイキングのすすめ

最後に、富士山山頂を目指さずにふもとを楽しむという提案として、”富士山自然休養林”と”ぐるり富士山トレイル”の紹介がありました。これらの素晴らしいところは、楽しめる期間も長く、レベルも様々選べるということです。

富士山自然休養林

こちらが配布されたハイキングマップで、富士山自然休養林保護管理協議会というところが作っています。

富士山自然休養林 ハイキングマップ

須走口から富士宮ルートに続く富士山スカイラインまでの範囲を、AからMまでのコースで案内しています。

富士山自然休養林 ハイキングマップ

この中で、担当の方の個人的好みによるオススメのコースとして4つが写真で紹介されました。

オススメその1「I コース」

富士山自然休養林 Iコース

こちらは二ツ塚と幕岩という1万年前の溶岩跡とされる、景色がウリのコース。森林限界より上に出て富士山に登らなくとも砂走りを楽しめるというコース。

オススメその2「B コース」

富士山自然休養林 Bコース

高鉢駐車場と御殿庭下を結ぶコースで、新緑の開山前がオススメ。ブナやコケが大変美しくみどりのトンネルになる。秋は紅葉もいい。

オススメその3「E コース」

富士山自然休養林 Eコース

水ヶ塚から須山御胎内を周遊するコースで、世界構成遺産をめぐる歴史をテーマとしたコース。須山口登山道を歩ける。御胎内とは昔修行でくぐった穴らしい。

オススメその4「G コース」

富士山自然休養林 Gコース

富士宮口五合目から宝永火口縁を周遊するコースです。壮大な景色と、特に秋にはカラマツが素晴らしく黄金色の山を見ることができる。特にこのコースは、五合目まで行ったけど山頂はムリ、という人におすすめ。

注意点は以下のとおりです。

  • 山小屋やトイレがどこにでもあるわけではないので、地図の場所をチェックすること。
  • 最低限の看板しか無いので、ある程度のルートファインディングが必要なこと。
  • 標高が高いルートもあるので、装備の備えをきちんとすること。
  • 国有林なので、ルート以外は入らないとか植物は持って行かないとかのマナーを守ること。

たくさんのコースがある中で、この4つを厳選して紹介してくれたということはきっと間違いないんだろう、と思えました。テーマもバラエテティに富んでいてナイスチョイス!と思いました。

ちなみにこちらのマップはパソコンの画面で見るよりも印刷されたものが大変見やすいですが、下記に電話してお願いすると郵送してくださるそうです。

  • 静岡県 富士山世界遺産課 054-221-3747

ぐるり富士山トレイル

こちらのトレイルは富士山自然休養林とは別で、、歩きながら世界構成遺産をめぐるというのがテーマになっているものです。”トレイル”といっても、舗装道路や林道も多いとのことです。ホームページに20種類ほどコースが紹介されています。

メインコース、サブコース、サテライトコースの3種類に別れ、メインコースは富士山を1周することを主目的としているそうです。標準11日間で歩けるようになっているそうです。

コースについては下記のHPでも案内しているそうですが情報は多くなく、それよりも、昨年静岡新聞社より両県のトレイルを網羅したガイドブックが出版されたものが情報満載でとても良いのだそうです。

ぐるり富士山トレイルコースガイド

富士登山について、「子どもと登りたいけど、登れるかな?」と悩んでいる方などには、「だったらまずここで、試し歩きを!」と声を大にしてオススメしたいと思います。歴史を学んだり地形を学んだりしながら、来年の登頂を目指して足慣らしすることは、不安を取り除き登山の楽しみを倍増させることまちがいなしだと思います。

まとめ

富士山のことはよく勉強しているつもりでいましたが、このようなガイダンスで直に話を聞いたり写真を見せてもらうと、より”安全に登ろう”と身が引き締まるものだな、と感じました。今回は主に富士山登山を主催するツアー会社へのお願いという面が強かったように思いますが、たしかに、申し込みがあった時に服装や事前のウォーキングとかの準備について丁寧な説明が直接あったら、準備不足による遭難はもっと減るだろうと思いました。

なので、今回使ったようなパワーポイントデータをHPを通じてどんどん配信し、旅行会社が登山者に向けた無料勉強会を自社で開催出来るようにバックアップしたら良いのではと感じました。特にレンジャーの撮影した問題登山者の具体的な姿は効果的だと思います。講習会スタイルの方が頭に入ってくるかと思いますが、下記リンクでは無償で安全登山啓発DVDを入手できる方法が紹介されています。

今回は役所の課長クラスと思われる上役の方が7-8人で開催に当たられていたように思いましたが、1-2人で開催できるような体制にして、ショッピングモールの一画など集まりやすい場所で休日の昼や夜にも多く開催し、たくさんの登山者が参加できる機会をもったら良いのではと思いました。