初心者のための登山とキャンプ入門

ベビーメタルとわたし #3
スーメタル・中元すず香の声をついに発見

babymetal スーメタル作

ベビメタのミュージックビデオをあらかた見終えると、こんどは製品化されたライブ映像を見る様になった。
僕は特にロンドンのライブ映像を見るのが好きだった。日本人がロンドンで演奏し、ロンドンっ子を盛り上げている姿を見るのは本当に嬉しかった。少年の夢がかなった様な気分だった。

そして、その中でも特に藤岡さんの弾くギターソロが好きだった。変てこなソロフレーズを弾いてるのが好きだったし、異常なくらいうまいし、そのプレイで欧米の客を沸かしていることに日本人として純粋に嬉しかった。

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ベビーメタルの魅力とはなんだろうか

思い返してみると、ギターテクで観客を沸かすバンドなんてしばらく聴いてなかった。それこそある時期からそういうのは「ださい」くらいに思っていた。
でもベビメタで、久しぶりにそういうプレイを見てすごくかっこいいと思った。ギターを始めた頃の中学生の気分に返った。自分が日々、若い頃の純粋なロック好き少年に戻っているのを感じた。

そして、そんな映像を見ながらロンドンの観客の彼ら、また自分がベビーメタルに惹かれる理由は何なのか、と考える日々が続いた。演奏の技術や楽曲の面白さだろうか。フロントの女の子やダンスだろうか。日本人がロックで、欧米で勝負しているということが単純に誇らしいだけなのだろうか。

もちろんそれら全部があわさって一つのショーで最高のエンターテイメントなんだろうけど、どこか釈然としなかった。だいたい自分は年を取りメタルを聴きたいと思わなくなってしまったし、ダンスをするガールズグループに興味があるわけでもない。歌詞や曲が泣けるくらい良いかと言えばそうでもないと思う。
でも泣けてしまうし、ベビーメタルから離れられない。ベビーメタルとは何なのだろうか。

そうやって考えていく中で、ベビメタは映像ありきではなかろうか、と思うようになった。映像と音の差異がありはじめて面白いのではないかと。音楽だけでは特に魅力はないのかもしれない。

そして、これは確認しなければならない、と思いツタヤに走った。ベビメタがアイドルコーナーか、JPopか、もしくはメタルコーナーなのか、どこにあるのか見つけるのに手間取った。そしてファーストアルバムと武道館のライブのCDを借りた。

スーメタルの声を発見

CDを借りてからはそれらを聴くように努めたが、キツかった。10年以上激しい音楽を聴いてなかったし、特にファーストアルバムはカチカチの音で、音圧上げまくりで隙間のない音の印象で、聴いているのが自分にはきつかった。僕にあわないマスタリングだった。
武道館のライブの方はファーストに比べ聴いていられたけれど、それでも聴きたいなあと思う曲は限られていた。

なんだかなあ、俺がベビメタに惹かれるのは若い女の子が激しい音楽にあわせて歌って踊って、そして欧米人が熱狂しているさまを見て優越感を感じているだけなのかなあ。楽曲やそのコンセプトやアイデアが面白いだけで、音楽としての純粋な魅力はないのかなあ、と残念に思った。
小学生の時にウォークマンでブルーハーツを延々と聴いていたけれど、そんな感じの、純粋な音楽としての楽しみはないのだろうか。いや、何かあるはずだ。といった感じで、暇を見つけてはベビーメタルのCDを聴く様にしていた。

そしてある晩、寝ながらベビメタを聴いていて、ハッと気がついた。

僕は知らずしらずののうちに歌の歌いだしを楽しみに待っていて、そしてボーカルのメロディを頭の中で一緒に歌っている。しかもよくよく考えてみれば「アカツキ」や「イジメダメゼッタイ」みたいな歌ものばかり選んで聴いている。しかもライブ盤の。

この2曲はなんとなく聴きたくなるような曲だった。特別好きなメロディではないのになと思いつつも、ベビメタを聴く時はこの2曲を選んで聴いていた。でも理由を考えたことはなかった。割とうるさくないし、歌ものだし聴こうかなくらいの感じだった。

けどその時わかった。僕はこの子の歌声を、一生懸命聴いていたのだと。

ベビーメタルの核

ベビーメタルのフロントで歌って踊る女の子3人に、それまでほとんど関心を持っていなかった。持たなかったのか、持とうとしなかったのか、または拒否していたのかもしれないけれど、僕は常に裏方の方ばかりを意識していた。コンセプトだったり楽曲だったり演奏だったり、もしくは振り付けだったり。なので3人に関してあれこれ考えることはなかった。

ボーカルの子に関してはなんか迫力あるよね、くらいは思っていたけど歌声に関してはよくわからなかった。今まで自分が聴いてこなかったタイプの歌い方だったし、ものすごい爆音の上にその声があるし、正直よくわからなかった、というか気に留まらなかった。ボーカルは楽曲全体の中の一部みたいな感じというか。ツェッペリンのロバート・プラント的な感じというか。そんな感じでベビーメタルのボーカルを聴いていたと思う。
もしくはボーカルにあまり期待をしていなかったのかもしれない。僕は大人達の作る「ベビーメタル」という作品を面白がっていただけなのかもしれない。

それでその夜、ハッと気付き、ベビメタを発見して以来はじめてヴォーカルの声に注目した。

思い返してみると、ベビメタを聴けばこの子の声はいつも頭の中心にあって、僕は意識していないところでずっと追っていた。得意ではなくなったメタルサウンドも、この子の声があるから聴いていられるのかもしれない、とさえ思った。

「この子、もしやすごいんじゃなかろうか」とここに来てようやく思った。
歌がうまいとかわかりやすいものではなくて、声に別の何かがあるんじゃないだろうか。川のせせらぎみたいな、なんとなく聴いていたいみたいな。

そして「まさかこの声がベビーメタルの核なのでは?」と思った瞬間、全ての霧が晴れた様な気がした。今まで掴みどころのなかったヌエのようなベビーメタルの正体を垣間見た気がした。
ベビーメタルの中心はメタルでもアイドルでもなく、左右で踊る女の子でもコンセプトでも楽曲でもない。ヴォーカルだ。この子が中心にいて全てここから始まっているのでは、と思った。

大人が作った「ベビーメタル」というアイデアに、どこかで選ばれた3人の女性を入れたんだろうって考えていたけど、そうじゃないかもしれない。まずこのヴォーカルがいて、そこからベビーメタルが出来上がったのではなかろうか、と思った。なぜだかわからないけれど、そう考えると色々な曖昧だったものが全て形になる様な気がした。

スーメタル・中元すず香の声マニアになる

しかしなぜ、僕は散々ベビメタを聴いてきたにも関わらず、歌声に何も感じなかったのだろうか。僕の歌声に関する感度が低いこともあるだろうし、心の深層では若い女の子たちに抵抗があったのかもしれない。
またベビメタのトッピングが多すぎるのも理由の一つだと思う。ゴスロリファッションの3人の若い女の子、白塗りのバンドマン、不思議で激しいダンス、メタルなサウンド、ジャンルの混ざった楽曲、変な歌詞の歌。そういった要素があってわかりづらかったのかもしれない。

でもたぶん、僕がヴォーカルに関心を持てなかった一番の理由は「声の加工」だ。CDにしろライブ映像にしろ、商品として出される前にヴォーカルの声は必ず加工されるけれど、それが一番の原因だったのではないだろうか。
でも武道館のライブはその度合いが少ない。だから気づけたのだと思う。

それからと言うもの、僕はユーチューブのファンカムを見漁る様になった。ファンカムは音も映像も悪いけれど臨場感があるし、リアルなスーメタルの声やバンドの音を聴くことができた。そして製品化されたライブ映像を見ることはほとんどなくなった。

ファンカムでスーメタルの歌声を聴けば聴くほどはまっていった。スーメタルのハイトーンが自分の頭蓋骨を鳴らしているようで気持ちがいい。 声に何かやばい成分が入っているのではないか、と思うくらい聴いていると抜け出せなくなった。
もちろんヴォーカルだけでなくベビーメタルも最高だった。欧米でのライブやフェスで盛り上がっている映像をみると嬉しくてなんども泣いた。

そうやってファンカムを見漁るうちに、僕は次第に彼女のことを怪物なんだな、と思うようになった。特に海外のフェスでの佇まい、そしてねじ伏せる感じは常人には到底できないだろう。こんな人が世の中にいたんだな、と驚いた。

また、この声の秘密はなんだろうかと思い、ベビーメタル以前のスーメタル、中元すず香の過去にさかのぼって音源を聴きはじめた。そして小学生時代の歌を聴き、あらためて、圧倒的な天才って存在するんだな、と猛烈に感動した。だいぶ遅いとは思うけれど、その才能を発見し、それに触れられたことが嬉しかったし幸せに感じた。

それからは完全にスーメタルの声マニアとなり、ファンカムで気に入ったものはせっせとMP3にしたり、ワッチ音源やライブ録音がサウンドクラウドにアップされれば速攻でダウンロードして聴いた。過去のものも集めた。
最初のほうで「ベビーメタルの音楽としての楽しみはないのだろうか?」と書いたけれど、スーメタルの声が好きになることで耳だけで十分に楽しめる様になった。それと同時にバンドの演奏の違いも聴くのが楽しくなった。

さてしかし、これだけスーメタルスーメタルと言っているが僕はまだベビメタのライブに行ったことがなく、もちろん彼女の生の歌声も聴いたことがなかった。行ってみたいけれど、実際ファンカムだけで十分に満足しているし、ライブなんて面倒で嫌だし、そこまでベビメタにはまってしまうのも嫌だった。
それでもやはり、ベビメタ好きの先輩たちが「生歌を聴きなさい」と言うように、僕も生で聴いて確かめなければならない。

そしてとうとう初ライブに行くこととなった。2015年、年末のカウントダウンジャパンだ。