初心者のための登山とキャンプ入門

ミルフォードトラック・トレッキング4日目

ミルフォードサウンドの港にて

2011年1月16日日曜日。ミルフォードトラック最終日である今日は大雨だ。
朝になって雨はいくらか落ち着いたが、昨晩はすごかった。台風の様な激しい雨が降り続いていた。そのせいもあり、朝起きて外に出ると、山は見事に滝だらけになっている。切り立った山に降り注いだ雨は合流し一つとなり、ものすごい勢いで落下している。そのような滝が何箇所もできていた。

6時に起きダイニングで朝食を食べる。いつもどおり食パンをコーヒーに浸したものだ。食後はしばらくそこに待機、そしてDOCスタッフによるミーティングがあった。早朝ミーティングの理由はこの大雨だ。この大雨のせいで、通過できない道があるかも、とのことだ。
悲惨な状況かもしれないけど、僕は少しドキドキとしていた。学生の時の緊急時のミーティングのような、超大型の台風が家の上を通過する時の気持ちのような、そんな感じ。
いつも通りDOCスタッフが何を言ってるかわからなかったけれど、集合して、みんな一緒に出発しましょう、とのことだったと思う。

ハットの前にみな集合し、出発した。
みんなで列を作ってザッザッザッと音を立てながら歩くのは楽しい。先頭がDOCのスタッフなので足並みが恐ろしく早く、軍隊に入ったような気分になれた。しかし、集合してみな一斉に出発したにもかかわらず、結局数分でちりぢりになってしまった。あたりまえだ。

みんなで列を作って歩く

歩き始めると、道が川で遮られ靴を濡らさなければならない箇所に出くわした。大半の人は諦めて靴をじゃぶじゃぶ浸かりながら歩いていたが、僕はなるべく登山靴を濡らす事を避けたかったので、できるだけぴょんぴょんと石を伝いながら川を渡った。腰までつかる川に直面するまで濡らさないつもりでいたのだ。(しかし結局そんなものは最後までなかった。少し残念。)

樹林帯を歩くので雨は大したことはない。僕はハーフパンツにゲーターとTシャツで傘をさして歩いた。蒸れなくてとても快適。みんな暑そうだな~、なんて思いながら楽しく歩いた。ジェームスははじめ、靴が濡れない様がんばってぴょんぴょんしていたが、一度ミスって川に落ちるとその後は諦めジャバジャバと豪快に歩いていた。

道が川になった

昨日までは小川やきれいなグリーンをしていた川は、それは激しい濁流へと変貌をとげている。ゴウゴウと激しい音を立ててどこかに向かって急いでいるかのような感じだ。テレビのニュースでみるような光景。山を見上げると、山の稜線から幾筋もの白い線が垂れている。滝だ。滝だらけだ。爽やかなミルフォードにはこんな一面があるのだな、と驚いた。

山はたくさんの滝
滝はものすごい勢いだ

しかし歩き続けるうちに、これがミルフォードトラックだ、と思う様になった。川も山も緑も、昨日までとは違いイキイキとしてそして力強い。山が元気である。なんだか楽しくなってきた。

今は川だけれど、昨日まではどんな姿だったのだろう

しかし相変わらず樹林帯歩きである。たまに風景もかわって、おお、とか思う事もあるが、ほとんどは同じような樹林帯の登山道が続いている。あれ、ここ通らなかったっけ、って何度思ったことだろうか。平地歩きが続いているので足の裏も痛くなってきた。しかしみんなハイキングシューズでもかなりのスピードで歩いている。僕には考えられない。
しかし思うとトレッカーの皆が戦友のようでもある。人数制限のあるミルフォードトラックでは、ほとんど知っている人間としか顔をあわさない。1日にトレッキングを開始した人はもれなく4日にトレッキングを終える。2日にトレッキングを開始した人と会うような事はまずない。なので知らない人もいないし(たまにガイドトレッキングの人とは会う)、顔をあわせれば毎回笑顔を交わす。何かの体験スクールのような感じもして不思議な気分になる。なかなかこういうのも面白いものだ。

時間は過ぎ、いいかげん似たような登山道を歩くのにも飽きてきた。もうただただ足の裏が痛いだけである。ジェームスのスピードは従来の半分以下になった。水ぶくれが4つもできているそうだ。しかし僕も彼にあわせてゆっくりと歩く事なんてできない。ゆっくりはゆっくりで疲れるのだ。なので彼に悪いなと思いながらも、マイペースでとことこと歩いた。適当に歩いたところで振り返ると、毎度の様にジェームスが僕の視界にはいない。そして待つ。そんなことをを繰り返しながら進んだ。またあまりにも暇なので指笛?の練習をした。指を口に入れて笛を鳴らす、サッカー日本代表の岡田監督がたまにやっているやつだ。今まで両手を使う指笛はできたのだが、片手バージョンはできなかった。なのでそれをピーピーと練習しながら歩いた。そしてしばらくすると、片手の指笛が綺麗に鳴るようになった。まあ何を言いたいのか、というと、それくらい退屈で同じ様な道をひたすら歩かなければならない、ということだ。

そしてとうとうゴール地点である、「サンドフライポイント」に到着した。僕の足も重く、ジェームスの足もぼろぼろだ。
そしてこのサンドフライポイントから船に乗り、ミルフォードサウンドを少しかすり、最終目的地の港へと到着するのだ。

ジェームスの足
サンドフライポイント sandfly point

サンドフライポイントの小屋に到着すると、僕とジェームスはハイタッチして「We made it!」と叫んだ。
「クイーンズタウンに行ったら、でかくてうまいハンバーガーを食うんだ、そして1時間はシャワーを浴びたいよ、あとはできるならシングルルームをゲットして一日中寝ていたいな、あはは」、とジェームスは嬉しそうにはしゃいでいた。でも僕も一緒。カツ丼定食かカツカレーが食べたい。

サンドフライポイントからの船
船上からの写真 ミルフォードサウンドがきれい

サンドフライポイントから船に乗りミルフォードサウンドの入り口に到着した。乗船時間は10分ほどだろうか。僕はサウンドフライポイントの小屋に大事なレインジャケットを忘れてしまったが、ジェームスが手配をしてくれたので問題なく済んだ。とてもありがたい。しかしこの時、これから一人で過ごす事を考え不安になった。
ミルフォードサウンドのフェリーの待合室には、先に到着していたオーストラリアのみんながくつろいでいた。きれいなフェリーの待合室なのだけれど、みな気にもせず座り込んでくつろいでいる。みんな疲れているのだ。しかし満足気な表情を浮かべている。やりきったぞ、という空気が辺りにはあった。僕も彼らの顔を見ると嬉しくなった。ジェームスはそこに到着するやいなや、荷物を投げ出し寝転んでいた。

ミルフォードの港にて

その後彼らのバスが来るまで、僕はジェームスと一緒に少し離れたカフェに歩いて向かった。彼は裸足であった。何か色々と裸足について語っていたが、恐らく濡れた靴が気持ち悪くて履けないのだろう。
カフェではジェームスがコーラをおごってくれた。彼はチョコレートのアイスを食べつつ、コーラとコーヒーを飲んでいた。よほどこのようなものに飢えていたと思われる。恐ろしく真剣な顔をしてアイスに喰らいついている。まず外側のチョコのコーティングを食べ尽くし、その後なかみのバニラだけを食べている。なかなか面白い食べ方だった。
ジェームスに、オーストラリアに行くよと約束した。メルボルンを案内してくれるようだ。ちなみに他のオーストラリア人もみなメルボルンから来ている。 彼は僕に早くメルボルンに来て欲しいようだ。僕がメルボルンに行けば、僕がジェームスに日本語を教えて、ジェームスが僕に英語を教えることができるからだ。彼は本気で日本語を習得したいようであった。もちろん僕もメルボルンに行きたい。オーストラリアの3人組みもそうだし、会う人会う人フレンドリーな人たちがオーストラリア人なのだ。すぐにでも行きたいくらいだ。

ミルフォードサウンドの風景
ミルフォードサウンドの風景2

ジェームスを含むオーストラリア組はクイーンズタウンへとバスで向かった。僕はここミルフォードサウンドで一泊する。ミルフォードサウンドロッジ、というバックパッカーだ。港から歩いて近い、というようなことがサイトに書いてあったような気がするが、結局僕は港から30分は寂しい道路をとぼとぼと歩いた気がする。ミルフォードトラックでトレッキングをした後の30分はなかなかつらいものがあった。(のちにシャトルバスがあると知る)
ミルフォードサウンドロッジは、山中にあって静かなロケーション、なかなか規模が大きいバックパッカーだ。キャンパーバンも多く、全国から旅人たちが集まっているようである。大きなラウンジもあり居心地が良い。しかし相変わらず、恐ろしい量のサンドフライだ。ここまで来ればいなくなるかも、なんて期待は裏切られた。気持ちのいいところだが、外でゆっくりすることなど考えられない。

ミルフォードサウンドロッジ milford sound lodge
ミルフォードサウンドロッジのドミトリー

キッチンで食事の用意をしていると、日本人らしきおばさんがいて、思わず声をかけた。彼女はオーストラリア在住で家族と共にキャンパーバンでニュージーランドを旅しているらしい。家族は合計で6人はいただろうか。そしておばさんは、貴重な夜飯のカレーをわけてくれた。その上家族全員を紹介して頂き、かなり恐縮してしまった。カレーはとても美味しく、ニュージーランドに来てからはじめてうまいものを食べたと思った。ご馳走さまでした。

食後はシャトルバスに乗り、港近くのバーにタバコを買いに行った。トレッキング用に巻いてきた巻きタバコが昨日で終わってしまっていたので、とてもとても吸いたかったのだ。それとタバコの値段にも興味があった。
バーに着いてタバコはあるかと尋ねる、あるけど何にするか、と聞かれる、わからないと答える、jfodjaoijfaマルボロdojfoa、とマルボロだけ聞き取れたのでマルボロにした。そしたらなんと14ドルとびっくりの価格である。14ドルあればどんな素敵なご飯が食べられるだろうか、ランチを何回食べられるだろうか、とか考えてしまう。ここで暮らすにはタバコをやめなければならないなあ。
そうそうあと、忘れない様に自分の思い出として書く。このミルフォードサウンドロッジに、一緒の期間トレッキングをしたカップルが泊まっていた。会話は今まで一度もしなかったけれど、ここで偶然会い話をする機会があった。少し難しそうな雰囲気を持った二人だったが、話してみるとなかなかフレンドリーな人達だった。トレッキング中ももっと会話しておけば良かったなあなんて思った。

部屋に戻るとドイツ人のカップルと仲良くなった。男性の方は僕と同じ様に英語が話せないので、その分コミュニケーションがうまくとれる。彼らはニュージーランドを3ヶ月間車で旅しており、普段はテントで泊まり、たまにバックパッカーに泊まっているらしかった。ニュージーランドのあとはオーストラリアに2ヶ月行き、その後は東南アジアをまわるようだ。そんな会話をそのドイツ人の男性と適当な英語で話していたのだが、とても楽しかった。お互いの会話に文法はなく、ほとんどが単語とリアクション大会である。それでも会話は完璧ですぐうちとけた。去り際に彼は僕に連絡先を教えてくれた。世の中は素敵な人だらけである。早く英語をおぼえて色々な人ともっと話したい。(1/16 end)