初心者のための登山とキャンプ入門

朝日連峰縦走日記 ③

朝日岳縦走登山の写真

ナゾの白きのこを採り採り、鳥原小屋めがけ登るよ

8:20。朝日鉱泉を出発。すぐに吊橋をわたった。下の川は小さなダムのようなもののすぐ手前で、澄んだ水が静かに溜まっていた。沢子はずいぶんと怖がっていた。コースタイムで2時間後の金山沢で待ち合わせをすることにして男子隊とは別々に行くことにした。私たちは車中朽木さんに聞いた「ブナの根元に生える真っ白のきのこは100%食べられる」という言葉を頼りにきのこを探しながらゆっくり登った。杉の植林を超えるとブナの林が始まって日差しはすごく強くなった。汗をダラダラかきながら登っていくと、やがてブナの木の根元にシメジのような形をした白いきのこが出てきた。そのうちに続々と出てきたのでビニール袋を出して持っていくことにした。家族で固まって生えているものなんかも出てきて大興奮しながら集めた。思いザックを背負ったまま座ったり立ったりするのは疲れたけどすぐにきのこはボールにいっぱいくらいになった。今回沢山のバターと塩コショウと醤油ベースのタレも2種類も持っているからきのこのソテーが出来ると言っていた。そのうち白いきのこで先がひび割れたようなものも出てきて、朽木さんが言っていたのはこっちなんじゃないかと迷った。きのこは赤や黄色や茶色いのや線が入ったのやいろいろ出てきて、そのたびに沢子は「どうします、採ってきます?」「黄色いのもありますよ」とありったけのきのこを持って行きたい様子だった。

沢の音が近づいてきて10:45金山沢についた。その10m位手前の登山道にクリアファイルと紙が落ちていた。紙は遠目にも私が作った計画書だと分かった。クリアファイルを見てみるとなんとクリケンの健康保険書が入っていた。あとは昨年の山溪に東北の特集があったからカラーコピーしておいたよ、と言っていたものが入っていた。まるでわざと置いていったように落ちていた。その代わりに待ち合わせの沢にはいないので、ここまで来たのは確かだけどどこかに落っこちてしまったのではと一瞬あたりを見回した。

眠いから先に小屋に行ったんだろうと考え私たちは休憩することにした。暑くてラーメンを作る感じでも無かったので、たくさん沢の水を飲んだ。冷たくてとてもおいしかった。もってきたオレンジジュースは本当においしかった。沢子が大きめの蛙を2匹みつけた。あと、すごく大きな、10cm以上あるトンボを2回ほど見た。お腹部分の厚さも1.5cmくらいあるように感じた。色は、黒地に水色か銀色っぽい線が入っていた。

11:20金山沢出発。30分以上休んだ。かかとが擦れたから早めにとテーピングを貼ったりしていたんだった。きのこはだいぶ減ってきた。1時間歩いたところでまた15分休憩をして13時ごろには木道が表れた。ここまでの樹林帯の道は夢中でおしゃべりをしていたせいか、あまり覚えていない。そうそう、沢子のおばあちゃんの荷物から満州に行っていたときの手紙なんかが見つかった話をしていたんだ。あと、このころにはもうアブにおびえていたっけ。誰かが今年はアブが多いと言っていた。アブは水がきれいなところにしか住まないそうだ。水場の近くにはたくさんいるみたい。木道が始まると巨大な水芭蕉も出てきた。湿原だ。すると左手から鐘の音が2つ聞こえてきた。木の間から小屋が見えて大きく手を振っている北尾君とクリケンが見えた。二人とも熟睡しているかと思ったけど起きていたようだ。クリケンが「木道あっちの方ぐるーっとまわってくるんだよ」と叫んだのが聞こえて、そんなに遠いのかとちょっとがっかりしたが、すぐに小屋に着いた。途中、木道の脇にきれいな水が流れていてそこにビールが3本冷やしてあった。水場を右手に過ぎて13:10、予定通りに小屋に着いた。

鳥原小屋ですごしたいろいろ

小屋に入ると、左手に管理人さんのスペースがあった。みんなの泊るスペースの一角で生活しているようだった。管理人さんは若い感じの人だった。後から聞いたところによるとこの方は朽木さんの3軒隣の人らしい。沢子がさっそくきのこについて質問したら、管理人さんは自分は食べれるかどうか分からないが、知らないものは食べないようにしていると言った。否定的な空気が流れてしまったのを感じたのか、でもきのこに詳しい人が現れるかも知れないからあきらめないでまた聞いてみたら、というような事を言った。私は絶対に合っていると思ったのでお腹が減っていれば食べたかも知れないけど食べ物もたくさんあったのでとりあえず放っておいた。

小屋には既に3名の「屈強な」若い男性たちがいた。管理人さんが場所を割り当てるのが慣わしのようで、ゴザ2枚分のスペースを私たち4人に割り当ててくれた。スペースはだいぶ余裕があった。クリケンがICIの紙袋を出して、丁寧に要約すると、間違って食べ物を持ってきてしまったからよかったら好きなものをいくつか差し上げますというようなことを言って、管理人さんの目の前で紙袋を逆さまにしてじゃらじゃらっとフリーズドライを床に落とした。管理人さんは「いただけるものなら何でも頂きますけど・・・」と少し面食らた様子で言って、たくさんある中からいくつかをあげるというクリケンの意図がイマイチ伝わらなかったのが2人はその後ごちゃごちゃやっていた。

沢子がトイレから戻ってきて「トイレ超きれい~」と言ったら、管理人さんはすかさず「綺麗なんじゃなくて綺麗にしているの」と言った。この時は何も言わなかったけど、竜門小屋で同じ事を言われた後はさすがにその話題で持ちきりだった。「トイレが勝手に綺麗になっているなんて思っていないよね!綺麗に掃除されているという意味で言っているのにね~」って。まぁ大部分は私が言っていたんだけど。でもトイレはすべての小屋においてとってもきれいだった。小屋の管理人さんの間ではライバル意識があるのか、積極的に管理されている感じだった。

小屋の「協力費」は1,500円だった。朝日連峰は避難小屋に管理人が常駐しており、協力費といって1,500円かかる。トイレはきれいだし水場は近くにあるし、これでは安いと思う。こういったシステムを維持するのはお金がかかると思うがどこから出ているのかが気になって管理人さんに尋ねた。この避難小屋は町や市で管理されているんですか、と。管理人さんは、町や市にそんなお金は無い、といった上でどこからかは言わなかったけど地元の山岳会に依頼が来て自分も山岳会から少し手当てを貰っているのだ、しかし半分はボランティアみたいなもんだと言った。掃除や集金だけでなく道の草刈や木道の整備、また登山者からも道のことなどいろいろ聞かれるから知っておかなければいけないし、事故があれば担いだりもする。何にもないときは遊んでいるみたいだけど、なんかあったときには大変なのよ~って。良くしゃべる管理人さんだった。あと鳥原小屋は大朝日小屋のように混むことは無いらしく、自分も大朝日小屋の管理人のように「混みすぎてるからよその小屋に行ってください」と一度でいいからいってみたい」と言っていた。協力費の1,500円はここ十数年値上がりしていない。トイレなんかも完全に分解するシステムがついている。3,000円くらいに値上げしてもいいですよね、と私がいったら管理人さんは、自分もそう思うが高くすると学生山岳部なんかが来なくなるって言っていた。じゃぁ学割を作ればいいとか、しばらくそんな話をした。
沢子は結構初期の段階で性格に合わないものを感じたらしく、社交的なのにめずらしく会話に関わらなくなっていた。次の日の朝からは管理人さんの話題が多く、どうやら自慢げなところと人に構ってほしいオーラの出ているところがイヤだったらしい。私も話の節々で意外と豪快そうに見えて神経の細かい人なんじゃないかと感じて、散らかっていた靴やザックを自分たちの敷地にまとめることに気を配った。

小屋のすぐ横は小さな広場みたいになっていてベンチが4つくらいおいてあった。ちょうど展望台のようになって目の前は明るく開けていて眺めも良かった。近くに鐘があって、樹林帯からは小屋がなかなか見えないけど鐘の音を聞くと、もう近い、と知って元気になるんだよ、と管理人さんが言っていた。私たちはお昼のラーメンを食べていなかったので、2袋の札幌一番を4人で分けて食べることにした。100円で買ったシイタケとシメジ、すき焼き用の白菜も入れて最後に卵を2つ落とした。すごく豪華なラーメンになってみんなでおいしいおいしいと連呼しながら食べた。そういえば沢子がナイフでちょっと手を切った。私がセロテープで留める?と聞いたらクリケンならバンドエイドを持っているかも、と小屋の中に聞きに行った。クリケンがバンドエイドはもちろんのことマキロンまで持っていた、と大笑いして帰ってきた。この頃にはクリケンはいろんなものを持っていると何かと話題になった。

クリケンは着ていた黒のTシャツを干して、赤い開襟のシャツに着替えていた。シャツのボタンをだいぶ外したクリケンは一昔前海沿いにいたキザな人のようだった。小屋の中にはハンガーがあって風通しも良かったから、私もサンバイザーと日除けのスカーフを干すことにした。

小屋の中で米を炊いている間、北尾君とクリケンはオセロをしていた。見事に1つのコマを残して全部北尾君の色になっていて笑えた。
炊き終ってから外に出てすき焼きを作ることになった。海浜幕張から発泡スチロールの箱に入れて持ってきた肉は程よく解凍されていた。腐りを心配することはまったくなかった。野菜はすべて沢子が切った。ラードを2つ鍋に溶かしてすぐに割り下をいれたらラードが全部浮いてしまった。とりあえず牛肉だけ入れて食べてみたら硬くって軽いショックを受けた。肉だけを食べるとか、こういった高級な食べ方をするようないい肉じゃなかったと思いなおし、白菜、シメジ、シイタケ、長ネギマロニーやふやかした車附をぐつぐつ煮て肉も一緒に入れて似ることにした。生卵を1人1づつ割って煮えたものを食べたところ、すっごくおいしかった。肉は800gあったから北尾君が遠慮なく食べても心配することは無かった。贅沢にも鍋を火に掛けながら食べ続けたので誰か1人が鍋が倒れないように押さえていようと決め順番に食べた。クリケンは積極的に鍋を押さえる係りをしようとし、北尾君は勇んで肉を食べようとしていて、さすがの温厚なクリケンにも指摘されて悪者になっていた。火を掛けながら食べたから最後まで温かくて、残りかけた汁も捨てることなく食べきった。私は汁を飲んだり余ったものを処理するために食べたりするのがすごく苦手だけど北尾君は得意なので本当に助かる。
時間があったので明日のコンソメスープを作った。また沢子が具を切って、北尾君とクリケンが私に注文を付けられながらたまねぎを丁寧に炒めていた。火を贅沢に使いながら長い時間煮込んだ。最後に、宅配ピザについていたミックスハーブを入れるべきか沢子に相談したところ、入れたほうがいいと思うと賛成を得られたので加えた。明日のフランスパンも切って、明日の朝は温めてスープを掛けるだけにしておいた。

外に管理人さんらも出てきて、今日は本当に若い人が多い、という話をしていた。おもむろに「平均年齢を出してみよう」と言って計算し始めた。私はかまわないけど、この情報にうるさいご時世にみんなの前で年齢を言わせるのかな・・・と思っていたら、どうやら宿泊台帳のようなものに書いていたらしい。みんなが口々に年齢を言い始めた。大体30台後半が多かった。2階にこもって外の広場に出てこない2人が結構高齢で平均年齢を上げているとやや悪口っぽく言われたりしていた。ひとしきりみんなが自分の回答を言ったあと管理人さんが携帯の電卓で計算をしたあと「さぁ、何歳?」とみんなに再び回答を求めた。すかさず沢子が「さっき言ったじゃないですか」的な突込みをしたけど、もう一度一人一人推測の数字を言った。管理人さんは1人正解者がいます、と言ってそれは39歳と答えたクリケンで、みんなから「おぉ~」って賞賛の声をあびた。夕焼けはとてもきれいだった。

暗くなり始めたので部屋に食器を移動させた。小屋の隣には神社用の建物があったが、管理人が灯りを点けたりとなにやら準備をしだした。24時間営業ですから飲み足りない方はどうぞ、と声を掛けてくれた。ハーイとみんな返事をしたが、なぜか初めから行く気は無かったらしい。何度か声を掛けられたのに生返事をしていた。

小屋に戻ってからは何かをして遊ぼうという話になって、だれが言い出したのか山手線ゲーム“山の名前”が始まった。これはつまらないだろうと思いながら気が進まずやっていたら、誰かが既に言った“北岳”を聞き漏らした沢子が2回目を言ってアッサリ終わった。みんなつまんないと思っていたらしく山手線ゲームを続けようと言う人はいなかった。また誰かが“すべらない話”大会をしようと提案し、別の誰かがそれは大変だから“すべる話”にしようといって、おもむろに始まった。先陣を切って私が、弟アラタのミスタードーナツの話をした。北尾君は自転車窃盗犯にされそうになった話をした。沢子は右折のスピードで始めて警察に捕まって悪態をついた話をしていた。悪態をついて逃れた先輩もいるのにと話したときにクリケンが、自分の知り合いで悪態をついたら違反になった上に公務執行妨害になった人がいたと話し、にわかに違反話が盛り上がった。クリケンの話の内容は忘れたけど「なんかそれって、ただの出来事の話だよね」って指摘を受けていた。

1階では、屈強な3人組のうち1人が既に寝ていた。何も掛けないで寝ていたが「さ、、、さぶいっ」って悲痛な声でうなされていてすごく面白かった。近くに寝袋があるなら掛けてあげようと思ったけど見当たらなかった。そのうちにもう1人が帰ってきて寝た。

トイレに行った私は別棟の神社で酒を飲んでいる管理人に「(神社での宴会には加わらずに)もう寝ます」と伝えに言った。行かなくて悪いかなと思ったんだけど、ドアを開けたら「ようこそようこそ」などと大歓迎され、まぁ座って、とか、とりあえず一杯とか猛烈に誘われて断るのに必死だった。お仲間の1人がさぶいってうなされていますよと3人組の1人に伝えたら、「そういえばあいつ寝袋を忘れて・・・」と話が変わった隙に逃げるように戻ってきた。戻るとみんなはトランプを始めていたが、今の話を伝えるとそれはまずいとトランプを早々に切り上げて寝る体制に入った。「トランプやってるなら来いって言われちゃうもんね」と沢子が言っていた。北尾君たち行ってくればいいじゃん、と勧めたけどいいやって言っていた。今改めてなぜ行かなかったのか聞いてみたら、「神社だから」って行っていた。そう言えばクリケンはなんで行く気がしなかったんだろう。私たちが寝てる間「本当は貸さないんだよ」と、例の寒がっていた人が管理人さんに掛けるものを貸してもらえていた。