初心者のための登山とキャンプ入門

DAY7:パイヤのばあさんと悲しきロバ

エベレストトレッキング ジョンとウォーリー

2014年10月15日。

パイヤの村(正しい呼び方がわからないけれど)はまた少し、他の村と雰囲気が違う。家々の外壁には練りものや塗装はなく、石を積み上げただけでフィニッシュされていることが多い。そのうえ屋根も板葺きなので村全体がシックな印象だ。
そのパイヤでは「アップルパイロッジ」というステキな名前の宿をとった。ばあさんが一人でやっている。毎晩思うことだけれど、この宿を選んでよかったなと思う。

山深くなるにつれ道は厳しく

今日は歩きすぎた。

昨晩は喉が痛くて、そして体は寒いのに汗をかいて目が覚めた。軽い熱だとは思うけれど心配になった。そんな体調にも関わらず、今日は今までで一番ハードに歩いた日となった。ほとんどが急な登りで体が全然前に進まない。体調のせいかも知れない。体がめちゃくちゃ重く感じた。
日々山深いところに向かっているせいか道は険しくなっている。道幅も狭いし、石も多く歩きづらい。樹林帯をトラバースしているだけなのだがアップダウンが厳しい。最初の頃の、爽やかで歩きやすい道が嘘の様だ。ジョンは宿につくなり寝込んでしまったくらいだ。夜飯もほとんど食べていない。

エベレストトレッキング ネパールの山々
エベレスト街道の様子
エベレストトレッキング パイヤ1
エベレストトレッキング パイヤ2

そんな感じの道でも人通りは多い。運び屋が多い。逆三角形の形状をした網カゴにたっぷりと荷を積み、ジーパンサンダルで山を下り登る。裸足も一人見た。積み荷の中身は主にフルーツや野菜が多い。コメやニワトリを運んでいることもある。若い人は積み荷が少なく、大人は多い。
また多くの人がT字型の杖をつきながら歩き、休憩の際はそれで背中の荷を支える。「一本立てる」という山用語があった様に思うが、まさにこれのことだろう。日本の山で一本立てている人はもういないだろう。リアルに見ることができて嬉しい。

ロバの話し

エベレストトレッキングのロバ

そして相変わらずロバが多い。20頭ばかりの隊になったロバが、ロバ使いに追われ狭い道を行ったり来たりしている。ロバの積み荷はガスボンベか灯油サイズのポリタンク、または米などの大物ばかり。
荷物はロバの体の左右にバランス良く積まれているが、一方だけが極端に重ければ簡単に崖から落ちてしまうだろう。荷をバランス良く積むというのもロバ使いの大切な仕事なのである。

ロバは「ゴツ、ゴツ」と大きな足音をたてながら荷を運んでいる。けなげに運んでいる。でも立ち止まったりすると「ヴォウ!」とロバ使いに怒鳴られる。この怒鳴り方、聞いていると犬の吠え方に似ている気がする。
そしてロバは進む。しかしきつそうな登りになるとロバは束の間ためらう。そして勢いをつけて一気に駆け上る。中には頑なにためらっているロバもいる。そいつは木の枝で尻をひっぱたかれる。フルスイング。そしてロバは登る。

ここまでたくさんの働く動物たちを見てきたが、ロバが一番きつそうだ。見ていてかわいそうになる。特に「待て」の命令をうけている時、彼らからは哀愁が漂っている。待ての命令を受けている時、本当にみなそのままの姿勢で動かない。だるまさんがころんだの様にみなピタッと止まり動くことはない。よっぽどきびしくしごかれたのだろう、と想像する。そんな彼らの姿を見ていると悲しくなる。彼らの瞳はウルウルとしている。ロバには生まれたくないと思う。

脱走することもできただろう。今でもできるだろう。けれど逃げたところで数十キロの荷物を背中にくくりつけられたままだし、首にシャンシャンとなる鈴なんかもつけられている。なのでそう長いこと逃げてはいられないだろう。ヒヅメの代わりに指でもあれば少しは人間に反抗できたかもしれない。お互いの鈴やロープを解きあうこともできただろう。
こうなったらもう諦めて、死ぬまで働くしかないだろう。僕なら適当に歩いて、適当に叩かれない程度にサボって、そうやってロバとしての人生を終えるだろうか。でも、これがロバたちの基本的な仕事の取り組み方の様に思える。適当に歩き、叩かれない程度にちょいちょい休む。そして一日の仕事が終われば信じられないくらいハッピーなんだ。

そんな怠け者のロバたちをコントロールしなければならないので、ロバ使いの表情は常に険しい。ロン毛でメッシュの入ったサーファーの様なロバ使いが、今日は厳しくロバを叱っていた。

エベレスト街道 パイヤのアップルパイロッジ

アップルパイロッジのばあさんは、ハウルの動く城のばあさんみたいでステキだった。ばあさんらしいばあさんで、「ベストばあさん賞」でもあれば確実にとっていると思う。僕が食事中に「ミトゥツァ(美味しい)」と言うと、彼女はすごく嬉しそうに「ミトゥツァ?」と聞き返してくれた。流しで手についたアップルパイのシロップを落としている時も、「ミトゥツァ?」と笑顔でこっそりと聞いてきた。なんだかその仕草がばあさんが孫に話しかけるようで暖かい気持ちになれた。彼女の写真を撮らなかったことが残念だ。

DAY7:今夜の居場所マップ

ネパール・エベレストトレッキングマップ