初心者のための登山とキャンプ入門

キナバル登山 -あっという間の下山-

キナバル山 サウスピーク

暗闇の中の一枚岩の上を、輝く星と黒い岩峰を目指して歩いて行くのがキナバル登山のハイライトなら、ここからサヤッサヤ小屋までの帰り道もまた、もう一つのハイライトだ。夜が明けてだんだんと見えてくるこれまで歩いてきた道と、それから今初めてみる山の下に広がる景色を悠々と見下ろしながら歩けるのだ。どんな道なのか目隠しをして歩いてきて、いきなり素晴らしい景色を見せられるかんじ。うまく表現できないけど「こんなところ歩いてきたんだ?!」っていう感動は予想以上だった。

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朝日の光も素晴らしくてね。みんなしょっちゅう立ち止って景色を味わっていたよ。

キナバル山頂から下山

これは、今登ってきた頂上。たくさんの人がいるように見えるけど、山腹の宿にベッドが130しかないってことは、最大で130人の登山客とガイドさんだけってことになるのかな。富士山に比べると信じられないほど少ないよね。

キナバル山頂上

こんなところ歩いてきたんだー、と思うわけです。
右手のとんがりは、キナバルで一番画になるサウスピークです。

キナバル山下山

登るときに月明かりをバックにした岩峰が、今度は太陽をバックに黒々としています。右手のふたつがドンキーイヤーズピーク(ロバの耳)だと思います。

ドンキーイヤーズピーク

ガイドのサバリヌスくん。帽子でおでこがかゆいんでしょうね。 完全防備です。

山岳ガイドのサバリヌス

こういう道を、真っ暗な中登ってきたわけです。ロープは掴むためじゃなくて目印です。最短ルートらしい。

キナバル山下山

ずっと下には町が見えます。海が見えることもあるらしい。

キナバル山からの眺め

これが、サヤッサヤ小屋の名前の由来となったサヤッサヤという植物だと、サバは言っていた気がする。

キナバル山 サヤッサヤの植物?

そしてこれが、氷河が滑り落ちていくときに岩に付いた跡らしい。日本でも宝剣岳なんかが似たような過程で出来たと聞いたことがあるけど、こちらはかなりはっきり後が見えました。氷河で削られた後に、キナバル山は隆起のかな。それとも、もっともっと高い位置まで氷河で埋まっていたのかな。いつか勉強した地生態学をもう一度やりたいと思いました。

キナバル山 氷河の跡

こんな風に、どんなにゆっくりとかみしめながら大事に下ってきても、下山はあっという間。

8:10にはサヤッサヤのチェックポイントに到着。雄大な景色はここで終わり。

キナバル山 サヤッサヤ小屋

小屋の中ではおじさんが、IDを見て名簿をチェックする。こうやって誰が登って誰が降りてきたがチェックしている。また、登頂証明書を買うか買わないかをここで注文する。ちなみにここで注文すると公園本部に着くころにはきれいに名前入りの登頂証明書が準備されている。ここから「テレックス」で送ると言っていた気がする。これには、ガイドさんの名前も入っているからうれしい。

キナバル山 サヤッサヤ小で下山をチェック

私たちは当初登頂証明書は「要らない」って思ってたんだけど、この段になって急に欲しくなった。かわいくてカラフルですてきなデザインだったし。証明書の料金は安いんだけど、現金がほとんどないからこれを買ってしまうと帰りの公園本部までのバス代が足りなくなる。そこで急遽サバに「一緒に歩いてくれる?」と頼んだ。たしか40分くらいの道だったっけ。サバは笑いながらOKしてくれたので、証明書を注文した。柄も選べるんだけど、鳥とかウツボカズラが書いてあるセンスの良い証明書だったよ。

まぁ結局、その後ラバンラタで両替ができたから無事バスにも乗れたんだけどね。

登りでは暗くてわからなかったけど、樹林の中の道はこんなだった。岩やはしごもあったけど少しも歩きづらくなかったのは、ゆっくりだったことと道や階段・手すりなんかがかなりしっかりしているからなんだろう。

キナバル下山道 樹林帯の中
キナバル下山道 樹林帯の中

そして8:00には、パナールラバン小屋に着いた。2時半から約5時間半の頂上ピストンだった。さらにこれから1400mも下るんだから、本当にハードなコースだ。たまに山を登る私たちでも疲れちゃうんだから、この行程を普段登らない人がやるとなると、ちょっとしたマラソン大会っぽい印象だろうなあ。もう、力を出し切って歩く、みたいな。普段の登山だと、そんな風に余力の無くなるまでは歩かないもんね。

だから、膝が不安な人などはラバンラタに2泊取っておいた方が確実ですね。それに、天気が悪かったりしたらガイドさんの判断でゲートが封鎖されてしまうので、そういう時でも2回登頂のチャンスがあるわけだから。

キナバル山のパナールラバン小屋から

小屋からは、昨日ガスっていて見えなかった岩も見えた。あの岩のどの辺を、さっきあるいてきたんだろうか。

その後パナールラバン小屋で仮眠して、9時から朝食を食べて、9時半から下山を開始しようと約束してサバと別れた。私たちは昨日のベットへ、サバはラバンラタのガイドの部屋へ行った。ここでの仮眠はとにかく寒かった。

ラバンラタレストハウスで朝食をとり、9:35に下山を開始した。ついついいつもの癖で走ってごぼう抜きでガンガン下ってしまった。傾斜もちょうどよく、道も広いから抜かすにも都合よかった。サバは上でガイド仲間と話していたりして離れがちになった。途中サバを待ちつつ小休止して、また下っていたらサバが追いついてきた。出発して1時間弱のことだった。

サバが言うには、上でコリアの女性が膝を痛めて下山が大変だという。友達のガイドだけでは大変なので、自分も交代でおんぶする、だからここでお別れだというのだ。わぁ、えらいなあ、という感想と、「私たちだけで帰っちゃうのもアリなんだ?!」っていう驚きと、ずっと一緒に歩いてすごく親しみの湧いていたサバとの急なお別れで唖然とした。とりあえずもうお別れなら写真だけ撮ろうと言って、最後に記念撮影した。サバは上に登って行った。

サバとお別れ

私たちはその後2回休憩をとりつつ走り続け、12時にゲートに着こうとしたその時、サバが後ろからまた追いついた。一度上まで登って戻ったけど、コリアの女性が大丈夫のようなので下りてきたという。私たちも走ったのによく追いついたなとびっくりした。サバもめちゃめちゃ走ったと言っていた。長い長い山道の中で、二度と会えないと思っていた人にこんな風にまた会えてすごくうれしかった。サバは、ガイドの決まりとなっている、一人一袋ゴミを持参するっていうルールのとおりゴミ袋をひとつ持っていた。

キナバル山 ゴール

12:05にちょうど来たバスに乗って、12:18には公園本部に到着した。サバは気がつけばすっかり夏の服に着替えていたんだな。さすがにこれだけずっといっしょにいると、なんとなくどんな人なのか勝手にイメージが出来てきた。私の中では、あばれはっちゃくみたいな人、と定着した。

サバリヌス

サバとも本当にお別れの時間となり、写真を送りたいからと住所をもらった。意外にもとてもきれいな字で丁寧に書いてくれた。

今回のキナバル山登山はあまり何も考えずに勢いで来たけど、今回の旅に彩を添えてくれたのは間違いなくサバリヌスだ。第一印象は適当そうな若い人という感じで思わず年を聞いてしまった。24歳だという。ガイドを始めて3年目で1週間に2回くらい登るらしい。サバ州最大民族のDusun族で、人との出会いがあったり外国語も勉強できるからこの仕事が好きだと言っていた。このへんは前にも書いたかな。始めはあまり興味がなかったが、何か質問をすると単語が出てこなくて「うーん」と長いことうなりながら悩んでいるところとか出会うガイドさんたち全員に慕われて楽しそうにしているところとかをみていて、あばれはっちゃくみたいなキャラのすごく良い人なんじゃないかってだんだん親しみがわいてきた。 「追いつくから先に行ってて」 と仲間とおしゃべりしながらタバコをすってゆっくりしてたり、とても自由な感じで仕事をしていた。24歳の若者って言うより「アニキ」とか「親方」とかっていわれるイメージだ。そうそう、あと自分からは余計なことは言わない控えめなところとか、あたりまえだけど待ち合わせ時間とかをきっちり守ってしっかりしているところとかも良くて、頂上から降りてくるころにはもう友達みたいな感覚をもっていた。そうそう、彼らはライトをつけないで月明かりで夜道の登山道を歩いていた。私は上下紺のカッパで目立たない格好だったし頂上への登りは北尾君とも離れて好き勝手に休んだり、列から離れて歩きやすそうなところを好きに歩いたりしていたけど、友達とおしゃべりしてどっかいったと思っていたサバリヌスは暗闇の中でもちゃんと私たち2人を見張ってくれていて、ガイドだから当たり前と言えばそれまでなんだけど、若い子にこんなにしっかりお世話になるってことはまだあんまりないから、どうもどうもありがとうすみませんってかんじでなんか恐縮しちゃう部分もあったね。

まぁ、ガイドさんの多くは若い子でみんな誠実そうなよい人たちだった。たった二日間だけど何度か顔を見たりすると親しみが沸いてきた。彼らは仲間同士ではDusunの言葉で話しているらしい。たまに歌を歌ったり陽気ですれ違うたびに仲間と肩を組んだり手を握ったりしていた。いろいろ質問したり様子を見ていたりするとだんだん生活の様子が目に浮かんでくる。旅行中に現地の人とこれだけ接することはなかなか無いから、山で現地の人とずっといっしょに過ごすっていうのはその土地のくらしがすこし身近になってすごくいいかもしれない。私は山を降りる頃には「サバ州」や「Dusun族」のことに大変興味を持っていた。サバとはお互いの英単語不足であまりたくさんの意思疎通ができなかったけど、私と北尾くんの中ではもう二度と会えないのはすごく残念と思っているたし友達な気がしているので、サバにとってはたくさんのお客さんのうちの一組であったかもしれないけど、何度かハガキを送ってみよう。一緒に登れたおかげでキナバル山登山もとても思い出深いものとなったと感謝を伝えよう。それなのに、「写真は数枚になるより1枚にしてハガキの方が保管に良いだろうか」…そんな風に考えているうちにもう3年が経ってしまった。申し訳ないことをした。彼は元気でやっているだろうか。今からでも送っていいだろうか。

公園本部からコタキナバルまでは、日本の旅行会社を通じて15時に予約していた。だから昼食を食べてもまだまだ時間があって、トイレで着替えたりして時間を潰した。思えば頂上に居たのは今日の朝である。なんて中身の濃い1日なんだ。そして濃すぎる2日間なんだろう。こういう濃い1日もあれば、濃くない1日もある。同じ時間なのにこの内容の違いはどう考えたらいいんだろう。山に来ると、一日が濃い。これは登山をする人はみんな思うと思う。こういう機会がたびたび訪れて考えさせられるのも、登山のいいところじゃないだろうか。