初心者のための登山とキャンプ入門

キナバル登山 -星空の下、山頂へ-

満点の星空に吸い込まれるようにランプの点々が登ってゆく

8/14(金)

2時ちょっと前に起床した。結局相部屋に人は来なかったようだ。寒いので防寒着やカッパ、帽子をかぶり、手袋をポケットに準備し、ヘッドランプをはめ、小さいリュック一つに1Lの飲み物とアメと地図、デジカメ、トイレットペーパー、貴重品くらいを持ち、レストハウスへ向かう。全部着込んでいるから荷物は少ない。

キナバル山頂に向けて深夜2時に出発!

部屋には鍵があるから余分な荷物は置いていく。外では昨夜よりもさらに星空が美しく輝いていて、遠くの雲の下の雷もまだ光っていた。レストハウスで軽食(サパー)を食べる。内容はスクランブルエッグとかお粥とか、パンとか、コーンフレークとかソーセージとか・・・。もちろん特別おいしいこともないし、早朝ってこともありお腹には入らない。私はおかゆと白いドロドロの甘いやつとコーンフレークをちょっとづつ食べた。よく考えれば、この後6時間行動するんだと思えば無理にでももう少し食べておくべきだった。「また後で朝ごはん食べるし」それくらいに思って腹4分目くらいにしたのが間違いだった。登山者はなんと、アジア人が半分くらいだった。日本人は昨日の3グループ、合計7人以外みなかったが、多くは韓国人だった。ツアーで来ているらしきその一団には山岳ガイド以外のガイドが付いていて、席を確保したりといろいろ世話を焼いていた。彼らはカップめんを持ってきていた。表紙には辛そうな赤い文字が書いてある。あぁ、朝でもああいうキムチ風味の麺だったら食べたいかもってうらやましくなった。ガイドさんにしっかりアドバイスをもらっていたんだろう。カップ麺なんて重くない。定番のカップヌードルじゃなくっても、スープでおこげ、パスタ、春雨ヌードル…日本には数知れずインスタント食品がある。今度来る人は、マレーシアで買おうと思わないで、とびっきりお気に入りの1品を日本から持ってくることをおススメします。山でも「バテた時に元気になれる一品を持っておこう」ってあったけど、予備用に食べ慣れたものを少しでも持っていると安心するし。

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即座に食事が終って、トイレを済ませて外に出るとたくさんの山岳ガイドが自分の客が出てくるのを待っていた。仲間がいっぱいいて楽しそうだ。そしてみんな昨日とは比べ物にならないくらい厚着をしていた。多くの人は帽子をかぶって眼だけ出していたりするから暗闇で顔をよく見ながらサバを探した。「サバァー」と呼ぶと笑顔で近づいてきた。一晩ぶりに会うサバはとても懐かしく感じ急に親近感が沸いた。時間通りに来て待っててくれること、中には入らずに謙虚に待っていてくれること、また今日も自分たちのために一緒に行動してくれること。

サバはニット帽をかぶり、マフラーをし、フリースの上に風を通さないジャンバーみたいなものと厚めのズボンをはいていた。スキーウェアのようなものを着ている人もいた。それだけ上が寒いってことなのか、温かい土地で暮らす彼らが特に寒さに弱いのか。山登りに慣れているから汗をかかないからそんなに厚着をしていても大丈夫だんだろうか。とにかく彼らはこれから登るとは思えないくらい厚着をしていた。私だったら歩いてすぐに1枚は脱ぎそうだ。私の感覚としては、その日は3000m級の夏山の朝4時くらいと同くらいの寒さ具合だった。

予定通り2:30にレストハウスを出発。出てすぐに渋滞だ。めちゃめちゃゆっくり歩く。寝起きだからちょうどいい。どうせ寒いから歩き続けていた方がいいし。階段もあるからたぶん普通の速さで登ると汗をかいてしまう。今日はなぜかサバが先頭を行った。キタオくん、私の順番だ。

キナバル山頂へ渋滞気味の登山道

いくつかの山小屋を通り過ぎる。最後の小屋あたりで南京錠のついた門をくぐる。それにしてもラバンラタよりものだいぶ上の宿もある。「泊まれればどこでもいい」って思っていたけど近めの小屋に泊れて良かったな。グンティン・ラガタン小屋はラバンラタと標高で50mの差があるけど、2時の軽食時も食べに戻るんだろうか。だれかのブログでは「ガイドさんが持ってきてくれた」なんて記述もあったな。

道はよく整備された階段と石畳で、石は濡れていても全然滑らない。階段の手すりはすごくしっかりした木でトゲが刺さる心配もないし、よく日本の登山道で見かけるように触ったら朽ち果てる様子もない。みんな無言で登るけど何も危ないことはない。洋服や荷物の動く音、靴音やストックが岩にぶつかる音がただしている。ガイドたちはヘッドランプをつけていない。聞くと「Natural Light」と言って月を指さした。確かに今夜は月も星も出ていて明るい。試しにランプを消してみた。空の暗さと星の明るさ、下に見える夜景や昨日からまだ続いている雷が良く見えた。頭にランプをつけていたから見えなかったんだ。それから私はランプを手に巻いて、明かりの色を「赤」にして歩いた。赤はなぜか目に優しく感じた。足を置く場所を照らすには十分で、なるべく星を見ながら歩くようにした。先に歩いていたキタオくんが私に話しかけるときキタオくんの頭のライトが私の顔を照らすから、折角慣れた目が眩んで超ムカついた。交差点の向かいでライトをアッパーにしている車に対して、ベテランのドライバーはこういう感情を持つんだろうか。私は運転に慣れていないから人の運転に対して怒る経験はまだないけど。キタオくんにも赤色ランプにすることをおススメしたけど採用されなかった。。

1時間くらい歩いただろうか。いよいよ一枚岩の下部に取りついたらしい。これまでとは全く違い、岩の上を歩くのだ。急にペースが順調になったと思ったら、岩の手前で韓国人団体が休憩に入るのに抜けたんだとキタオくんが言っていた。あの団体はみんなストックを持っていたから、確かに岩が始まる前に休んで荷物を整えるのはいいと思った。

岩には新しいめのロープが固定されており足場に迷うようなことはない。濡れているところがところどころあったけどガイドさんが指摘してくれる。岩自体は花崗岩だけどポロポロしていないから滑らないけど、結構な角度のところを登って行くから足首にも負担を感じるかもしれない。岩が始まるとすぐに自分のガイドが自分の客を見るっていうんじゃなくて、近くのガイドがみんなで自分の近くの登山客を注意深く見ている、そんな気がした。

キナバル山頂へ ロープを掴んで岩場を登る人

登り始めて1時間40分。4:10だからまだ夜だけど、とりあえずサヤッサヤ小屋に着いた。最後のトイレだ。私は念のため入った。これまでのトイレとはちょっと違う水洗だった気がする。あんまり水を流さないような。ここはチェックポイントで、IDを見せる。受付は小さな部屋になっていて机の上にはすでに名簿が並べてある。係りの人は深夜なのにすごく陽気で、「4:10」と私たちの名簿に通過時刻を記入した。

キナバル山頂へ サヤサヤチェックポイント

ゲートを抜けると道の両脇がちょっと広なっていて、5分間の休憩をすることにした。サバは相変わらず休憩の申し出には大歓迎で「OKOK!」といってさっそくタバコを吸いに行く。

サヤッサヤ小屋まではちょっと登りづらいところもあったかもしれないけど、ここから頂上までがいよいよキナバル山登山のハイライトだ。私はライトを完全に消して月明かりで登ることにした。そうすると星の輝きがはっきりと見えてきてとてもきれいだ。ここからの道は広い平らな岩の上をゆっくりとゆっくりと歩いて行く。頂上までの最短ルートにはロープが張られていて目印になる。坂がゆるやかに続いていて、目の高さには星が見える。星と同じ高さかそれより上に来たんじゃないかと錯覚するかんじ。星と月で明るい空の手前に、いくつかの真っ黒な岩峰が見える。初めはすごくとんがった峰が目の前に見える。サウスピーク(3921m)だ。てっきりあれが頂上なんじゃないかってくらい、それを目指して登っていく。右手にはドンキーイヤーズ・ピーク(4054m)が見える。その奥のアグリーシスターズ・ピーク(4031m)も見えたかな。とにかく真っ黒な奇妙な形の岩峰を左右に見ながら、星空に向かって歩いて行くのはとっても幻想的だ。このすばらしい景色と空気感はどうしても写真に収めることはできないから、絵に描いてみた。行った人になら、伝わるかなぁ~。

なんていうか、日中に山を登るときでも、まあるっこい木も生えていない尾根を登っていると、空がすぐそばにあるからすぐそこが頂上に見えたりすることあるじゃないですか。ずっとああいう感じで星空はすぐ近くにあって、しかも尾根とかじゃなくて「坂道」っていうくらい広いからなんかみんなそれぞれが銀河に向かって旅立っていく感じなんだ。サヤッサヤ小屋からはただ広い岩が続いているから、1列に並ぶことなくみんな思い思いに歩く。座って星を眺めたり寝転んだりして楽しんでいる。私はふくらはぎが疲れないようにジグザグにコースをとりながらゆっくりゆっくり歩く。キタオくんはだいぶ先に行ってなんとかこのきれいな星空を撮れないもんかと試みている。私はmp3を聴きながらなるべく星空を見て、なんとかこのハイライトの時間をより深く楽しもうと試みている。最近お気に入りのアーティストの声がこの静かな暗闇に合って最高だ。私たち3人はバラバラに歩いていたけど歩き続けてる限りそんなに差は開かないだろうと何にも心配はしていなかった。気がつくとサバは近くにいて私たち二人がどこにいるかちゃんと見張っていてくれたようだ。私は上下紺色の、まるで新聞配達員か漁師みたいなカッパを着て特徴がないのによくわかるなあとちょっと感心した。サバたちガイドは地元のDusun(ドゥスン)の言葉でガイドたちと肩を組んだり笑ったりしながら歩いている。サヤッサヤを過ぎてからはすっかりお役御免でガイド仲間とふざけて登っていると思ったのにちゃんと仕事してたんだなぁ。それにしても彼らは本当に仲がいい。見つけるたびに肩を組んだり手を握ったり頭を触ったりしてスキンシップしている。なかでもサバはかなりの人気モノなんじゃないかって気がしてきた。みんな見るたびに寄ってくるような。そういえば24歳のくせに親方っぽい貫禄があるんだなー。

さっきまで頂上だと思っていた真正面のトンガリはだんだん左手になってきてやがて通り越し、かわりにもっと遠くに別のピークが見えてきた。まだ真っ暗だけど早い人はその登りにさしかかってそのライトが点々としている。やがて空は少しづつ明るくなって、太陽の手前の雲は真っ黒に見えた。その雲の形がまるで原爆のようだった。

キナバル山頂手前からみた真っ黒い雲

だんだんと周りの景色も見えてきた。まわりはすごくひろーい、石でできた広場みたいだ。一番高いロウズ・ピーク(Low's Peak 4095m)は近づいてみると、上の方はそこだけ割れた岩が積みあがっているように見えた。そこに差し掛かってもゆっくりゆっくり登っていると、なぜかサバが私の手を引っ張って登ってくれた。キタオくんはすでに頂上のちょっと下で座って休んでいた。私がとってもくたびれているように見えたのか、日の出のきれいな時間に間に合わせてあげたいと思ってくれたのか分からなかったけど。サバはめちゃめちゃ早くぐんぐんと登って行った。早く歩くのは苦手だから、息が切れたらやだなとちょっとだけ考えなかったわけではないけど、おかげであっという間に頂上についた。私は高校山岳部から長いこと登山を続けていることもあって、今では人のお世話になって登ることは皆無だからこうやって親切に助けてもらいながらいっしょに登るのが新鮮でなんだかとってもうれしかった。サバは頂上につくと「Congratulation!」と言ってみんなで握手をした。

着いたのは5:30過ぎだった。まだ薄暗くて写真もぼけるくらいだったけど、東の赤かった空がもっと赤くなったと思ったらすぐに朝になった。雲海がきれいだ。周りがはっきりと見えてくるとサバはピークの名前を教えてくれた。これはセント・ジョンズ・ピーク(4090m)。「ゴリラフェイス」とサバが言った。たしかにそっくりだ。右を向いているゴリラだ。

キナバル山頂よりセント・ジョンズ・ピークをのぞむ

これはオヤユビイウ・ピーク(3975m)といって親指を立てた。なんで日本語なんだろう。

キナバル山頂よりオヤユビイウ・ピークをのぞむ

そしてこの岩を指して手の指をそろえて見せた。たしかに。

キナバル山頂より、反対側の崖をのぞむ

今登ってきた方と反対側の斜面は、崖になっていてすごい迫力だった。

キナバル山頂より雲海をのぞむ

ほとんど待つこともなく看板の前で写真を取って、たくさんムービーを取って最後にまたまた景色を見て、6時には下り始めた。風も強くて寒かったし、なによりお腹が減っていた。登る途中かなりもかなり空腹を感じていて唯一もっていた「俺の梅」のアメをおいしく食べたんだった。今度来るとしたら絶対羊羹とかこんにゃくゼリーとかを持ってこようと強く思った。

サバときたおくん キナバル山山頂で記念撮影