初心者のための登山とキャンプ入門

初心者のマルチピッチクライミング in 二子山 中央陵

二子山中央陵 2ピッチ目を登るヤハケン

友人のヤハケンと二子山でクライミングをすることになった。ヤハケンとクライミングをするのはこれで3回目になるだろうか。日和田山、鷹取山に続いての二子山中央陵でのクライミング。しかも今回はマルチピッチクライミングという、遥かに長い長い道のりをクライミングする。
ちなみにマルチピッチとは、多分 ”Multiple の pitch の climbing”という事だろうと思う。複数のピッチ。つまり一回ロープを使い壁を登るのを1ピッチなんて言うから、それが複数回あるという事だろう。そして今回僕らが挑戦する二子山の中央陵は6ピッチ。長い時間をかけて高い壁を登って行くのだ。

ヤハケンと久々に山へ

2012年10月25日木曜日。4時半起床。久々の外岩でのクライミングがあまりにも楽しみ過ぎて、眠りについたのは2時間前。まあいいさ。2時間も眠れたんだ。
昨晩荷物は完璧に準備をしていたので、やることと言えばプラティパスに水を入れるだけ。そして家を出た。

車で中野へ。
実は車の運転が今回の核心。最近ちょくちょく車の運転をする様にはなったけれど、相変わらず得意ではない。クライミングよりバンジージャンプよりバク転するより車の運転の方が怖い。でも真夜中のドライブは交通量も少なく快適だった。ラジオから流れる ”サイレント サイレン” という名のバンドの女子のトークに耳を傾けながら、気持ちの良いドライブを楽しんだ。確か、人気のお茶漬けの一位は ”さけ” だったと記憶している。そうか。

そんなこんなで中野のヤハケンの自宅の前には予定の30分前に到着してしまった。夜中のドライブは日中より30分も早く到着するんだということがわかった。
そしてヤハケンと合流すると、僕らは奥秩父の二子山を目指して出発した。

ヤハケンとこうやって山に向かうのはいつぶりになるだろうか。日記を見てみると、どうやら今年の初めに登った赤岳以来、彼とは登山をしていないようだ。久しぶりですごく嬉しい。
その間お互い何をしていたかと言うと、ヤハケンはクライミングやボルダリングをしたりトレランをやったり、かなりアスリートな方向に走っていた。僕は旅行と、相変わらずいつも通りの山登りをしていた。そうそう、この日記のタイトルを「初心者」ってしたけども、初心者は僕だけでヤハケンはマルチピッチのクライミングは何度か経験している。

まあそんなわけで、僕らは約10ヶ月の間一緒に登山をすることはなかったんだけれど、最近僕がどうしてもクライミングをしたくなった。いつもの登山じゃ刺激が少なすぎたのかも知れない。そんな理由で「俺をマルチピッチに連れて行ってくれ」とヤハケンに声をかけたのだ。そして先日クライミングジムに2度ほど行き、ロープワークやらビレイの方法やら装備の事やら、マルチピッチに必要な知識と技術を教わった。道具も揃えた。そしてとうとう、今日この日を迎える事ができたのだ。

ちなみに10ヶ月前とお互い何が決定的に違うかというと、僕が運転してヤハケンが助手席に座っているということ。僕は今まで恐らく、500回くらいヤハケンの助手席に座ってきた。高校2年くらいからなんだかんだヤハケンカーの助手席に座り続けていた。その間僕は一度として運転をすることはなかった。しかし今日、初めて僕はヤハケンを横に乗せ車の運転をしている。記念すべき日だ。あと499回彼を助手席に乗せ、今までの恩を返せたらいい。

さて二子山。地図で調べてみると、二子山は両神山のほんの少し向かいに位置しているだけだった。今年の夏に両神山には二度ほど行っている。なのでドライブするコースはほとんど同じだったし、二子山の岩場の雰囲気も簡単に想像できた。

そして二子山の登山道入り口の駐車場には9時頃に到着。僕の運転でも中野から2時間半ほどで来れた。二子山への林道も広く運転しやすかった。今日の核心部分を終えて一安心。

二子山の駐車場

二子山の西岳・中央陵へのアプローチ

駐車場には既に車が1台停まっていた。平日だけれどクライミングをしに来る人はいるんだ。駐車場には10台くらい車を停めることができそうだった。
二子山の登山道へは駐車場から歩いて30秒くらい。近くて嬉しい。しかも中央陵のゲレンデまでは、ネットで見ると20分~30分ということだ。素晴らしい。

お互いの好きなクライミングポーズ
二子山の登山口

登山道の入り口から5分ばかしのぼると股峠に到着。ここは二子山の東岳と西岳、そして両神山方面の坂本への分岐となっている。
中央陵は西岳にある、と言うことで僕らは西岳の方に向かって登った。

股峠の分岐
股峠。西岳と東岳、坂本への分岐。

急な尾根をぐにょぐにょしながら登る。登山靴がいつもより片足500グラムほど軽いので非常に足が軽い。今日はいつものゴローではなくキャラバンの登山靴なんだ。でもやっぱりアプローチシューズなるものが欲しいと思う。ローカットで軽く岩場にも強いと聞く。低山やトレッキングなんかでも履けるものがあると嬉しいな。でも一度軽い靴に慣れてしまうと、ゴローなんて履いていられないかもしれない。

二子山西岳 初心者コースの様子

そんな事を考えながら、少し汗をかきながら尾根を登っていると巨大な壁にぶつかった。そしてその岩を巻きながら北へと登って行くと、ヤハケンが「こんなに登ってないんだよなあ」と言った。確かに、僕らは既に登山口から20分ほど登り続けているし、このまま登り続ければ山頂にたどり着いてしまう気配すら感じた。
ヤハケンは以前に二子山の中央陵でクライミングをしており、その時の記憶を頼りに今回中央陵を目指していたけれど、どうやら前回こんなには登ってはいないようだ。
携帯の地図で調べてみたり話し合った結果、先ほどの股峠を坂本の方へ向かうんじゃなかろうか、という結論に至った。そして僕らはまた来た道を下った。

二子山西岳 初心者コースの様子2

いやいや、やっぱりなんとなくゲレンデを目指すのは難しい。ヤハケンも去年に一度来ただけだし、僕もiPhoneに地形図を入れて来たくらいだから、ちゃんと事前に準備をしなきゃならんなと思った。

昨晩はネットでゲレンデ情報を探したけれど見つけられなかったし、地形図を見てもそんな事は書いていない。山と高原地図を買おうと思ったけれど間に合わなかった。果たして山と高原地図にはゲレンデの記載があるだろうか。それも良くわからない。トポの地図もお絵かきみたいなもんで参考程度にしかならない。等高線の入った地形図でゲレンデを紹介してくれるものはないだろうか。道迷いをする人はいっぱいいるんじゃないだろうか。

(下山後に調べてみると、山と高原地図の「雲取山・両神山」の地図の範囲に二子山は入っておりローソク岩の記載はあった。持っていけば良かった、と後悔。)

二子山 中央陵への地図
画像の中央辺りにある赤い丸が中央陵のとりつきだと思います。少しの間携帯のGPSでログを取っていました。ちなみに黒色の太い線は登山道です。地形図になかったので追加しました。

股峠に戻ると今度は分岐を坂本方面にとった。「ニリンソウ群生地」と書いてあるほうだ。そしてその道をしばらく行くともう一度分岐があり、今度は「ローソク岩」と書かれている。やったぜ。
そこから右手に西岳の斜面を眺めつつ、ぐるーっと東へと巻いていくと「祠エリア」と呼ばれる壁に到着した。岩壁が大迫力でテンションがあがった。帰りに時間があれば登りたいなあなんて思った。

ローソク岩への分岐
ローソク岩と坂本への分岐
二子山 祠エリア
祠エリア

祠エリアを過ぎてもなお東へと巻き続ける。すると「ローソク岩に至る」と書かれた分岐に出合いその道をとる。ここからの道はもうバリエーションで踏み跡は大きくないし、西岳への斜面なので傾斜がきつい。
そんな道を汗ばみながら登るとローソク岩の麓に到着した。ローソク岩とは多分、ローソクみたいな形をした岩ということで名付けられたのだろう。ロケットみたいな大きな岩で、ここでもクライミングができるようだ。そしてそこから岩壁に沿って西に少し戻れば、僕らのお目当ての中央陵に到着した。
すでに2組のパーティがいるようだ。

二子山 ローソク岩への分岐2
ローソク岩と魚尾道峠への分岐
二子山 中央陵のとりつき
中央陵のとりつき

中央陵1ピッチ目・ヤハケンのリード

中央陵への取り付き場所はイメージしたよりも狭く日も当たらなく、少し肌寒い。僕らは適当な場所を見つけるとそこでタバコを吸い休憩し、先行パーティが登り終わるのを待った。

現在1ピッチ目を登ろうとしているのは年配3人のパーティ、それが登り終わるのを待っているのが男女のパーティ。こちらは会話からすると男性がガイドっぽい気がする。そしてその後に僕らが控えている。

彼らが登るのを待っている間、とにかく僕はドリンクボトルはどこにぶら下げようだとか、カラビナはどこにぶら下げようだとか、勝手がわからなかったので早めに準備をしていた。またその間、ヤハケンはヌンチャクの回収方法とか、ビレイ機をハーネスから外すときのコツなんかを教えてくれた。
この時、ふとヤハケンのザックを持ったんだけど、かなり重くてびっくりした。僕のザックは軽くてピクニック気分だったんだけど、ロープとガチャ類をあわせるとこんなにザックが重くなるんだなあ。昼飯用のストーブもヤハケンに持ってもらってるし、今度は装備を率先して持つ様にしよう。と反省。

中央陵の取り付きで準備をするヤハケン

そんなこんなで、気がつけば先行パーティは視界から消えてしまい、空からは彼らの声だけが聞こえてくる。そして僕らもザックを背負いヘルメットを被り、登る準備を整えた。

1ピッチ目はヤハケン。初っ端なんて怖すぎるのでヤハケンにお願いした。ちなみに、中央陵の核心と言われている3ピッチ目もヤハケンにリードをお願いした。僕なんかよりヤハケンの方が遥かに強いのだ。ということで、僕の都合によりヤハケンは1,3,5の奇数ピッチをリード、僕は2,4,6の偶数ピッチをリードする事になった。 そしてヤハケンと握手をすると、いざクライミング!行ってらっしゃい。

お互いの好きなクライミングポーズ

ヤハケンが1ピッチ目をスススっと登って行く。しかししばらくすると、「足が震えやがる~」と言いながら、彼はバシンバシンと右の太ももを叩いていた。ヤハケンは高所が苦手なんだ。けど、足を叩きながらもどんどんと登っていく。火事に怯えながらも突っ込んでいく消防士の様だ。男だ。

そして彼は僕の視界から消えた。すると「セルフを取った」というコール空から聞こえてきた。

僕はビレイを解除する。ヤハケンは返事をする。ロープが巻き上げられ張られる。全ては練習の通りだ。そしてヤハケンはビレイ機をセットする。
よし、とうとうこの時が来たのだ。夢のマルチピッチ。登ります。

二子山中央陵1ピッチ目を登るヤハケン
1ピッチ目

中央陵1ピッチ目・フォロー

ひょいひょい、と簡単に2、3メートルほど登る。すると壁は垂直になり体が壁にぴたりとくっつく状態になった。ホールドはガバ。足を置くスペースも充分にある。かなり安全な体勢と言える。
けども、あしが小刻みに震える。これが「ミシンを踏む」と言う奴か。まあ今どきミシンを踏んでいる人もいないだろうから、キックペダルを16ビートで踏む、というのはどうだろうか。まあなんにせよ、怖い。しかも体の核の核の部分が恐怖を感じているようで、どれだけ落ち着いても足の震えを止めることができない。ガッチリと壁を掴んだ両手を話すことができない。数分前のヤハケンの気持ちが良くわかった。

それにしても、ヤハケンはさらに上までクリップをしていない状態で登ったわけだからすごい。僕はビレイされている状態でも足がブルブルと震える。高所が得意だと言っていたけど、そうでもないみたいだ。怖い。

まあこんなところでブルブルし続けてもしょうがないので登る事に。
上等なガバを選んで体を持ち上げる。慎重に。もちろん1ピッチ目は簡単だからすんなりと登っていける。けど、自分がひどい登り方をしているのがよく分かる。腕がガチガチだ。ジムだったら指先だけをひっかけて登れる様なホールドも、ぐわしと握りこんでしまう。滑りそうで怖いんだ。すぐに腕がだめになってしまいそうだ。しかも手を入れようとしたポケットから、2匹のミミズが暴れながら落下してきた。怖い。びっくりして落ちたらどうするんだよ、もう。

そんな感じで不細工にも登り続け、1ピッチ目の核心らしき場所に到着した。先ほど先行パーティが登っている時、「足が上がりませ~ん!」と女性が嘆いていたポイントだ。
見上げると確かにやっかいそうなところだった。けどまあ行くしかなさそうなので、最上等のガバを選び力技で登り切った。

二子山中央陵1ピッチ目の核心部分はこんな感じ
1ピッチ目で一番ややこしいと思われる場所の様子。

そしてそこから少し登ると、ビレイをしてくれているヤハケンに再会した。最高に嬉しい瞬間だった。なんというか、今までのクライミングとは違いマルチピッチは相方が見えなくなるから、苦難を乗り越えて再び相まみえる事が出来るととても嬉しい。お互い無事に、恐怖を乗り越えて1ピッチ目を乗り切ったんだ。それを共有できる喜びがあった。

そして振り返れば両神山のギザギザの稜線が目の前に広がっていた。色づいた山の尾根々も見渡すことができる。素晴らしい眺め。ほんの1ピッチ登っただけで、こんなにも上等なマウンテンビューを楽しめるなんて。青空も綺麗だし、しかも樹林帯を抜けたから日差しが暖かい。やばいねクライミング。最高だ。

二子山中央陵1ピッチ目のセカンドビレイをするヤハケン

しかし無事に1ピッチ登ることができたけれど、ひどい登り方だった。体も温まらなかったし、岩の感じも何もつかめてない。ただ登ったというだけ、それだけだ。この調子で果たして僕は頂上まで登り切ることができるのだろうか。

2ピッチ目。リードの恐怖

テンションは上がっていたので早く2ピッチ目を登りたかったけれど、それは叶わなかった。2ピッチ目は空いているのだけれど、3ピッチ目で先行パーティが手こずっているようだ。もし僕らが2ピッチ目を登ってしまうと、恐ろしく居心地の悪そうな狭いところで彼らを待たなければならない。それは悲惨。ヤハケンがそう教えてくれたので、僕らはゆっくりと彼らが3ピッチ目を登り切るまで待つ事にした。

二子山中央陵2ピッチ目のテラスのヤハケン
遠くには両神山エリアの山々。

結局僕らが2ピッチ目を始めるまでに40分ほど待っただろうか。その間はヤハケンと、眠いねえとか言いながらひなたぼっこをしたり、トトロの歌を替え歌したり、遅いねえとか言いながら上を見上げたり、そんな感じでぼーっとして過ごした。

でも2ピッチ目のテラスが暖かったから良かったけれど、寒かったり風が強かったりしたら悲惨だろうと思う。それとこの間に緊張感もなくなってしまった。この先登れるのだろうか、とさらに不安になった。
そして彼らが視界から完全に消えると、僕らの番がやってきた。ドキドキの瞬間。僕がリードだ。

ヤハケンにアドバイスをもらいながら、ボルトが打ってある方を目指して登る。垂直ではないけれどのぺっとした壁。どうやって登ったらいいんだろうか。さっぱりわからない。とりあえず突っ込んで、ピンチになりながら考える事にしよう。

一個目のボルトにヌンチャクをかけるまではすごい緊張した。伸長何センチの人がボルトを設置したのだろう。手は届くけれど微妙に位置が高くてプルプル震えた。もうちょっと低くしてもいいじゃないか。いや、落下する事を考えるとこの高さが適切なのかも知れない。まあいいんだ。無事にかけられて良かった。これで落ちても死ぬことはないさ。
そこからはどうやって登ったかはわからないけど、相変わらず不細工な感じで登り、少し落ち着ける場所に出た。でもここからが参った。さて、僕はどうやって登ったら良いのだろうか。

二子山中央陵2ピッチ目のビレイをするヤハケン

恐怖でぷるぷるしながら狭い所を右に左にうろついた。そして色々な角度に手を伸ばしては攻略方法を考えた。しかしどうやっても上手に登る方法が見つからない。
狭い所に足を置き続けているからつま先が痛くなってきたし、左右の手もガバっと必死に握りこんでるもんだからだるくなってきた。なんだか急に冷たい風も吹いてきた。もうフォール覚悟で強引に登るしかないのだろうか。

下から見上げているヤハケンが言う様に、僕はクラック方面にトラバースをして、そこから登った方が良さそうだった。しかし先ほどから調査をしているんだけど、どうも上等なガバが見つからない。ヤハケン、困ったよ。

よしもう落ちよう、と覚悟を決めクラックに手を伸ばす。
すると今度はばっちり効きそうなガバがとれた。あれ?何でだろうと思って足元を見てみると、僕の足のポジションが先ほどよりは上にあった。
なるほど、こんな単純な事だったのか。右往左往している間に足のポジションが変わったのだな。しかしこんな簡単なことでこんなにも時間がかかるなんて、実践のクライミングは難しい。ジムでやる様には全く行かない。一つ登り方を間違えれば”簡単”が”難しい”に変わる。危うく、無理やり登って滑落するところだった。ヤハケンが「時間をかけてじっくり探して~」って言っていたけど、この事なんだなあ。

クラックのガバが取れてしまえばあとは非常に簡単だった。あとは丁寧に登ったら2ピッチ目の終了点に到着。ボルトにセルフをとったら僕のリードは終了。やれやれ。

二子山中央陵2ピッチ目
2ピッチ目

セカンドビレイ・へっぴり腰

さて、今度はセカンドビレイ。 ヤハケンにジムで教わった手順で事を進め、ヤハケンが登れる状態にする。そしてコールと共に彼は登りはじめた。

登り始めるとヤハケンはすぐに視界から消えた。ロープの行く先だけがヤハケンの居場所を教えてくれた。するとすぐにヤハケンの方から「はって~」と声が届く。うおう、意外にロープを手繰るのが大変だ。ヤハケンもいいペースで登っている様で、僕は一生懸命にロープを手繰った。しかも足元が不安定だから立っているだけでも大変だ。クライミングシューズをサンダル履きしてるけども足が痛くなってきた。あーリラックスしたい。

そうやって一生懸命ヤハケンのビレイをしていると、岩の下からヤハケンの頭がひょっこりと現れた。彼の顔はいつになく真剣で緊張感が伝わってきた。クライマーの顔だった。そして彼は僕が苦戦していたトラバースのところをなんなくクリアーすると、僕のいる2ピッチ目の終了点まで登ってきた。これで無事に二人とも2ピッチ目を登り切ることができた。やった。

二子山中央陵2ピッチ目を登るヤハケン

ゴクゴクと水を飲むヤハケンに、「セルフに寄りかかっていいものなの?どうも信じられなくて怖いんだけど。そのせいで足も疲れてきたよ。」的な事を言うと、「それはもう信じるしかないよ。そうしないと疲れちゃうよ」、と彼は言い、僕のセルフをもう一本のボルトにとり、より安全なものにしてくれた。

そしてヤハケンは「このままの勢いで行っちゃおう」と言うと、3ピッチ目を登りはじめた。中央陵の核心ピッチと言われているところだ。

中央陵3ピッチ目・核心

ヤハケンはスラブの壁を丁寧に登ると、クラックに入る。そしてレイバックで登っていく。3ピッチ目は核心という話しを聞いていたけれど問題はなさそうだった。しかし、クラックが終了したあたりになるとヤハケンの動きは止まった。どうやら、そこが核心だったらしい。

ヤハケンはいろんなところに手を伸ばしては調査をしている。しかし良いホールドが見つからないようだ。また足元を見ていると、どうやら体を持ち上げるに適したフットホールドも無さそうだった。「困ったなあ、ないなあ」とヤハケンは言った。苦戦している様だった。

二子山中央陵3ピッチ目を登るヤハケン
3ピッチ目

僕はと言えば、相変わらず足がプルプル震えてしょうがなかった。セルフを2箇所もとっているから安全なんだけど、どうしても全ての体重を預けることができない。60パーセントくらいだろうか。残りの40%は足で体を支えているから当然足も痛くなってくる。
しかも、落ちるかと思いビクッ!となることが数回はあった。セルフをとっているから安全なはずなのに、安全である習慣がないからすぐに忘れてしまう。一人で恥ずかしい。しまいには自分がかなりへっぴり腰になっている事に気がついた。体がきれいなくの字になってる。周りに人がいなくて良かった。情けない格好だ。

なんて事を考えながらぼんやりと青空を見ていると、ヤハケンに動きがありそうだった。どうやら落ちるのを覚悟で核心を攻めるらしい。ビレイをする手に力が入った。

ヤハケンは左手をカンテにかけると、左足で壁を蹴り体をぐいっと持ち上げた。 そして右手を伸ばし更に体を引き上げその壁を乗り越えた。「よっしゃ~」と太い声が聞こえる。どうやら核心のヤロウをやっつけたようだ。
よし、核心のやっつけ方がわかったぞ。ありがとうヤハケン。
そしてそこからしばらく登ると彼ははテラスに到着。そして僕の番になった。
クライミングシューズの紐をしっかりと締め、水をゴクッと一口飲んで喉を潤した。いざ出発。

核心フォロー・ギブアップ寸前

前半のスラブはスムーズに登った。しかしクラック部分に入ると、下から見る以上に壁の角度がきつくて驚いた。思ったよりきついじゃないか。これは無理をすると手がパンプしてしまいそうだ。
なので、とっととこのクラックから逃げようかな、なんて思ったんだけど、思ったよりも怖くて体はそんなにスムーズには動かなかった。大丈夫なんだろうけど、やっぱり手と足が滑ってしまうイメージを払拭できないし、岩がベリって剥がれてしまいそうで怖い。ポケットがボコっと取れてしまいそうで怖い。
なのでヤハケンがこのクラックをリードで登った事に関心した。クラックを登っている間はしばらくボルトがないから、さぞかし緊張した事だろうと思う。良かった、フォローで。
そして、僕も核心ポイントへと到着した。いっちょサクッとやっつけてやるか。

と意気込んで核心ポイントに辿り着いたのだけれど、最高に居心地が悪い。まず右足が確実に置ける場所がないし、良いハンドホールドもない。頭上には岩がボコンとせり出しているから頭がつっかえて窮屈だ。

こんなところには長い事いたくないなあ、と思い早速調査を開始。ありとあらゆる方面に手を伸ばしてみる。特にヤハケンが使った左のカンテは念入りにチェックした。クラックもひと通り探ってみた。しかしどれもこれも良いホールドがない。足もまともな置き場が無いから、重たい体を持ち上げるには労力が必要だ。というか、ジムだったらがんばって攻めちゃうかも知れないけど、こんな状況ではそんなチャレンジは無理だ。ずるっと滑って膝を強打して落下する姿が簡単に想像できる。

さて困った。とりあえずセルフをとってさらに思案をしてみる。しかし、解答は一向に見つからなかい。そして僕は素敵に登る事を諦め、玉砕覚悟で突っ込む事にした。日影で少し寒くなってきたし、ここは長くいるには寂しすぎた。

ヤハケンに「行きまーす」と告げると右足を不安定な岩に乗せて体を持ち上げ、ヤハケンの様に左のカンテをとる。そして左足を壁に押し付け、さあ行くぜ、と気合を入れた。しかし、全く体が持ち上がる気配がない。岩を抱きかかえちゃってるもんだから左手に力も入らない。足も蹴れない。困った。それでも行くか、やめるか。困った。足も一回あげちゃったもんだから、今更戻るのも面倒だ。左手も疲れてきた。まずいな。テンション!と叫ぼうか。

それにしてもヤハケンはすごいぜ。良くこの体勢から登っていったもんだ。しかも色々と試した後に、最終的にこの登り方を選んだんだ。すごいぜ。これがヤハケンの勝負強さなんだろうな。窮地から戦える強さ。ボルダリングで培ったのだろう。
しかし、どうやら僕にはそれがないぜ。すごいなヤハケン。と感心している場合じゃないぜ。やばい、ギブしようか。

しかし、先行する年配のパーティも、1ピッチ目で「足があがりませーん」と泣き言を言っていたおばちゃんも、この核心を乗り越えて行ったんだ。ヤハケンの友人の友人の女の子は、ここを1時間かけてやっつけたと聞く。でもだめだ。万策尽きた。

そんな事やこんな事を、超不安定な体勢でプルプルしながら頭にめぐらせていた。そして考えなしにクラックに右手を突っ込んでみる。すると、それはスポっと手のひらにおさまった。鬼の角の様な岩の突起だ。手にしっくりとおさまるサイズ。力をフルに込められるサイズ。全体重を預けても問題ない、片手だけでもしばらくぶら下がっていられそうな、ナイスなホールドが僕の右手に収まった。これだ。

あれ、こんなんあったか?と思ったけれど、考えてみれば高い位置のクラックは確認していなかった。なんだ、こんな簡単な事だったか。これじゃあまるで2ピッチ目と同じじゃないか。まあいい、これさえ掴めれば勝負ありだぜ。

そして僕は死にものぐるいで壁を蹴り体を持ち上げ、3ピッチ目の核心を乗り越えた。うおー。そして間髪入れずに手負いの獣の様に獰猛に這って登った。
そしてテラスに到着。ヤハケンは笑顔で僕を迎えてくれた。僕はヨロヨロと座り込んだ。もう息はゼエゼエししてるし、喉がカラカラだ。うおー。

残り3ピッチ・スズメバチ

二子山中央陵3ピッチ目のテラスの様子

テラスに到着してしばらく経っても僕の興奮は冷めなかった。弾丸の雨が降り注ぐ戦場を抜けて来た様な気分だった。足や手を上手くコントロールできない。体が自分のものじゃないみたいに重かった。

本当にしんどかった。クラックの中にあの最高のホールドを見つけられたからいいけど、あれが見つからなかったらきっと僕はギブアップしていただろう。ギリギリだった。まさに崖っぷちだった。
でも本当に良かった。またこうやってヤハケンと、あそこひどかったねー、なんて会話を楽しめる。戦友の様に、経験をシェアすることができる。
そんな事を話しているとようやっと興奮が収まってきた。そして更に体は重くなっていった。疲れた。

二子山中央陵3ピッチ目のテラスにて

さて昼飯の時間。メニューはカップラーメンとおにぎり。クライマーの中では定番だとヤハケンが教えてくれた、シーフードヌードルにツナマヨのおにぎりを入れて頂くというランチ。僕はそれを試す事に。ヤハケンも一緒のものを食べた。

味は、特別感動するほどのものではない。けど悪くない。おにぎりのマヨネーズがシーフードのスープをマイルドにするし、それに、おにぎりをスープに浸すことでツルッと頂ける。喉がカラカラでメシが喉を通るかなあ、なんて思っていたけど、さらっと食べきることができた。

いやー、もうゴールした様な気分。いっぱい運動もしたしご飯も食べたし、相変わらず空は青いし西日はポカポカと気持ちがいいし。最高の陽気だ。最高の気分だ。このままこの広いテラスにテントでも張って寝てしまいたいくらいだ。

とは思うんだけども、僕らはまだ半分登ったばかり。「ここからはいい感じのペースで登ろう」とヤハケンは言った。確かに、日もかなり傾いてきている。トントントーンと登って帰ろう。

4ピッチ目は僕がリード。リードの恐怖でプルプルとしながらもクリア。ヤハケンも問題なくクリア。

二子山中央陵4ピッチ目
4ピッチ目。小さいけど右の上の方に蜂の巣が見える。

5ピッチ目はヤハケンがリードで問題なくクリア。しかしここで問題だったのは、スズメバチ的なハチの攻撃だった。
4ピッチ目の壁に大きなハチの巣があったんだけど、恐らくそこからやってきたハチだろう。そのハチが僕を攻撃してきた。

1ピッチ目の時も同じ様な黄色で攻撃的なハチがいて怖いなあ、とは思って警戒していたんだけれど、とうとう5ピッチ目にして僕は襲われることとなった。襲われたというのが適切かわからないけど、僕の周りを旋回していた黄色くて大きなハチが顔面に突っ込んできて、バシッ!とほっぺたに突撃した。
ヤハケンをビレイしている最中である。ハチの攻撃から逃げようとしたけど、ガチっとセルフで岩に固定されているわけで動けないし、もちろん僕はヤハケンをビレイしている。
結局そのハチはどこかに行ってしまったんだけれど、ビレイ中にブスッとやられるんじゃないか、と気が気ではなかった。

二子山中央陵5ピッチ目
5ピッチ目

5ピッチ目を終えると最後の6ピッチ目。僕がリードで登る。
基本的にはそんなに苦労しなかったけれど、終了点がわからずに右往左往した。頂上の終了点と言ってもどこを頂上としたら良いのだろうか。頂上より少し下に終了点らしきボルトが2つあったけれど、それが頂上の終了点と言うには少しさみしすぎるなあ。頂上と言えばやっぱり上だろう。なんて事をやっていたら時間もどんどん過ぎていき焦り、結局せまっ苦しいところでビレイをやり、引き上げたロープはぐちゃぐちゃになった。まあ最後だしいいかなんて考えてはいたけれど、締りの悪いラストピッチとなってしまった。反省。

そして16時30分。フォローのヤハケンも無事に6ピッチ目を登りきり、僕らは怪我もなく二子山の中央陵6ピッチを登りきることができた。

いやいや、なんとか無事に初めてのマルチピッチのクライミングを終えることができた。勝手がよくわからずヤハケンに迷惑もかけたけれど、とりあえず二人とも元気に頂上を踏むことができて良かった。

二子山中央陵の頂上にて

課題はいくらでもでてきた。けどまずはやっぱり岩に慣れることだと思う。クライミングシューズを履いているのだからもっともっと足を信じていいんだろうけど、はっきり行ってまだ僕は登山靴の方が信頼できる。というのもやっぱり登山靴は履きなれていて、岩に対してどう扱うのかってのは良くわかっているつもりだ。なので岩場でもガンガンいけるけど、逆にクライミングシューズだと岩場を歩きなれていないからすごく怖い。

それと、やっぱりマルチピッチのクライミングは楽しかった。どんどん上へと登って行くから登山に近い感覚だし、登れば登るほど景色も変わる。先ほどまで目線の先にあった岩が気が付けば眼下にある。自分は登っているんだなあとわかるとすごく嬉しくなった。

いいなあマルチピッチ。
マルチピッチでしか登れない山に登ってみたいな。

二子山中央陵の頂上にて2

両神山からの夕日が辺りをオレンジ色に染めていた。
普通の登山とは一味違う達成感があり、何とも言えない綺麗な夕焼けだった。

下山は上級者コース。両神山の八丁尾根を思い出す様な、クサリの無いかなり急な岩場で汗をかいた。

そして17時20分、駐車場に下山。楽しい楽しい初めてのマルチピッチクライミングは終了した。