初心者のための登山とキャンプ入門

DAY18:クムジュンとエベレストビューホテル。一人旅の洗礼

ナムチェの風景
ナムチェ

2014年10月26日

山を登れば下りなければならない。山を下れば登らなければならない。

昨晩は少し不思議だった。久々の一人の夜。宿のレストランにいけば顔見知りもいるし、話をするガイドもいる。けれどやはり時間を持て余してしまう。外には寒くて出ていられないし、どれだけ日記を書いて時間を潰しても、それでも暇な時間がたくさんある。これが一人旅なんだなと実感する。
なので早く寝る。雪がパラついている。

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続・宮本信子さん似のおばちゃん

6時過ぎに起きた。詳しいことはわからないが、テントスタイルでトレッキングをしている一団がいる。彼らは宿の前にあるテント場にテントを張り、そこで食事をとり、そこで寝る。宿の前で寝るなら宿で寝ろよ、と思ったりもする。この様なグループをヒマラヤトレッキング中にいくらか見た。
まあそんな大きなグループだから、その彼らのためにテントを運んだり料理を作ったりする現地の若者数名がグループに従事する。その彼らが朝6時頃から活動を開始し、ストーブで火を起こし、長ネギをタンタンタンタンタンタンと子気味良くまな板の上でキザみ(ネギじゃないと思うけど)、そしてメンバー同士で声をかけあったりする。その作業が僕が寝ている部屋の周囲で行われるもんだから起きざるをえない。
たまりに誰かが口ずさむネパールの歌も聴こえてくる。音楽は彼らの喜びの一つなのだ。

テント泊でエベレストトレッキング

昨日ロッジを仕切っていた宮本信子似のおばちゃんは、今朝もやっぱり宮本信子だった。昨日と同じく話しかける機会を伺っていたが、やはり彼女はキビキビと働いていたのでムリだった。
この宿は家族経営なのだろう。少ない人数で運営している様なので、彼女はオーダーを取ったり運んだり会計をしたり、表の仕事はほぼ一人でやっているので忙しそうだ。 宿は繁盛している様だから彼女は金を貯めこんでいるかも知れない。倹約家でしっかりものの宮本信子で、まさにあまちゃんの夏ばっぱのイメージだった。

チェックアウトの時、彼女は会話の中に日本語をちょいちょい挟んだ。お札を数える時の目の表情、目は仕事をしながら口だけ笑う仕草も宮元信子的だった。口ではサンキューと言いながら、目は違う物をみて違うことを考えている。客に対応しながらも頭の中では次の仕事を考えている。
写真を撮らせてもらいたかったが、相変わらずそんなことを言える雰囲気はなかった。

クムジュンへの分岐

ネパール クムジュン
クムジュン

晴れているが空には雲が多い。今日も天気が悪くなりそうだ。
ナムチェへ向うには、テンボチェの山を下りナムチェの山を登り返さなければならない。来たときと同じだ。沢を目指して急登を下り、またそこから急登を登った。
陽があたって暑い時はシャツ1枚になれて嬉しかったが、調子にのって登っていると息がすごいことになる。ずいぶんと標高の低いところに来たつもりだけれど、まだまだ富士山レベルの高さなのだ。ムリが全然できない。

天気がくずれ始める。
小さな村を抜ける。
ジャコウジカの看板があるところで、ヤギを見る。

クムジュンとナムチェの分岐にたどり着くとクムジュンへの道を進んだ。クムジュン経由でナムチェに向かうのだ。ここからきつい登りが続き、結局今日下りた分だけ登り返すことになった。
このルートは人気がないのだろうか、時間帯のせいだろうか、人っ子一人いなかった。ネパールに来てはじめての、人がみあたらない山歩きは少し緊張もあったが最高に気持が良かった。普段の、日本での登山を思い出した。

クムジュンは想像よりも遥かに大きい町だった。家々を密集させてみるとわからないが、ナムチェよりも遥かに大きいのではないだろうか。家々の屋根の色も緑で統一されていて小奇麗で、ナムチェのベッドタウン的な印象を持った。

クムジュンの町中をエベレストビューホテルを探し求めながらぷらぷらと歩いた。ヒラリーのメモリアルチョルテンがあると言うので小さな丘を登ってみたが、チョルテンはそこからはるか遠くにあったので諦めて下りてきた。
その後もクムジュンのメインストリートらしきところを歩くもエベレストビューホテルはみつからない。しまいには終点の学校辺りに着いてしまい、ザックからガイドブックをとりだし場所を調べた。また戻らなければならなければならなかった。

ガイドブックを眺めながら道をウロウロと歩いていると、道端のおじさんが声をかけてくれ、エベレストビューホテルの場所を教えてくれた。「アップ」と言う。どうやら先ほど登ったヒラリーチョルテンの丘を登らなければならない様だった。

エベレストビューホテルでかつ丼

エベレストビューホテルのカツ丼

ヒラリーチョルテンまで来てもホテルはなかった。そりゃそうだ。さっき来た時も建物なんて一つもなかったのだ。しかし山はまだまだ続いているのでうたぐりながらも先へ向かって登る。そして信じられないくらいの急登を登りきるとエベレストビューホテルはあった。
「クムジュンにエベレストビューホテルがある」と認識していたが、これは別の場所だ。エベレストビューホテルは高級だし名が売れているので案内板くらいはあるかと思ったが何もなかった。道すら、普通の山道だった。クムジュンからかなり登ったから、確かにここからならエベレストは見れるかも知れない。

エベレストビューホテルはたいそう立派だった。ネパール国内で見たどの建物よりも立派だった。それがこの高さにある。どの日本人がどんな気持ちで建てようと思ったのだろう。ロックだと思った。
建物内部も立派だった。どのようにこの建物が建てられたのか、を想像するだけで気が遠くなる思いだった。立ち寄っただけなので一部しか見ることができないが、値段に相応しい気がした。
ホテル内にはカフェがあり何組かの客が景色を眺めていた。でも残念ながら高い山はほとんど雲に隠れてしまい、もちろんエベレストをみることはできなかった。ホテル内からはたくさんの日本語が聞こえてきた。

ハラが減ったので昼食をとることにした。メニューを見ると安くても25ドルの、チキンカツ丼か親子丼?の様なメニューしかなかった。迷ったけれど、エベレストビューホテルに泊まらないぶん贅沢してやろうと思いカツ丼を注文した。税込みで30ドルになった。

30ドルのカツ丼は見た目は完全にかつ丼で、味噌汁と小鉢と飲み放題の緑茶、食後のデザートがついた。味は、うまかった。普通にうまくて普通にかつ丼だった。ボリュームもある。場所柄30ドルするのは仕方ないかもしれない。日本の観光地で食べても1200円から1500円はしても良さそうだった。
ちょっと不思議だったのは味噌汁のおかわりができることだった。ダルバートの「ダル」のおかわりのイメージだろうか。ダルも味噌汁も同じ汁物なのでなんとなくそう思った。

エベレストビューホテル内部
エベレストビューホテルのテラス
エベレストビューホテルのテラス

エベレストビューホテルを後にするとナムチェへ向け山をまきながら進んだ。歩きながら思ったことは、エベレストビューホテルは本当の山のてっぺんに、ぽつんとある。建てようと思った人と建てきった人々に恐怖すら感じてしまう。マチュピチュ的な印象だ。
またそこからほど近い場所に2つほどロッジがあって、エベレストビューホテルよりは安そうに思えた。そこからエベレストは見えないだろうが、場所もいいので次きたら泊まろうと思った。

ナムチェへの下り道は、木の少ないのペーっとして広々とした場所で、どこに向かって進んだら良いのかよくわからなかった。全体を見ながら下っているので迷うことはないけれど、登りだったら何にも見えなくて迷うだろうなと思った。
そんな広々とした荒れた大地の上にネパール人の女性がポツンと一人立っていた。彼女はすごく楽しそうに嬉しそうに、大自然をバックに電話をしていた。違和感のある風景だった。その女性にナムチェへの方向を尋ねた。

のぺっとした場所を終わればそこからはナムチェめがけ、かなりの急登を下る。ただでさえしんどいのに、そんな道を材木を担いで下る人たちがいた。日当はいくらか、材木はどれくらいの重さか、どこからどこへ持っていくのか、色々なことが知りたかった。

ネパール ナムチェ
クムジュンの急登から見下ろすナムチェ
ネパール 急登で材木をかつぐ人

一人旅の洗礼

ナムチェでは再び「プモリゲストハウス」に泊まった。少しは歓迎されるかと期待していたがそうでもなかった。前回は「よくぞまた来てくれた」という感じだったが、僕が一人と知ると宿のじいさんはがっかりした表情を見せた。宿には他の客はおらず、オーナーの若い兄さんもおらず、じいさんとばあさんとその孫だけでいやに静かだった。その孫は小学生かもう少し上か、前回は大人しかったが、今回は豹変したみたいに騒がしかった。オーナーがいないからだろう。ひっぱたいてやろうかと思った。

このように、空気の重い宿ではイヤなことが次々と起こる。

寒かったのでヒマラヤ初のホットシャワーを浴びる。するとお湯は1分で止まり水になった。想像を絶する寒さだった。真冬の湖に裸で投げ飛ばされた様な気分だった。ガクガク震えた。震え幅は2センチくらい、超高速でバイブレーションの様に震えた。あまりにも凍えて固まってしまい、しばらく動くことができなかった。けれどこのままじゃ死んじゃう!と思い、関節の壊れたロボットみたいに震えながら必死に服を着た。

夜飯も良くなかった。客が僕しかいないものだから、注文したダルバートはインスタントダルバートになった。ご飯は今日のものではなく、以前炊いたのを戻したもので水っぽく、おかずは昨日のものの様な気がした。まあこれは想像なんだけど。でもダルは確実にインスタントだと思った。いや、ダルジャなくてただのスープだ。コンソメ味が効いた現代的な味だった。
ご飯と野菜の炒めもの一品、それにインスタントスープ。これで即席ダルバートの完成である。

一人旅の大変さはメシにもあらわれるんだな、と妙に感心してしまう夜ご飯だった。
シバラヤからナムチェまで、家族経営で客のいない小さな宿に泊まってきたけれど、もし僕だけだったらどうなっていただろうか。僕一人だけでもみな喜んでダルバートを作ってくれただろうか。訪客を喜んでくれただろうか。あんな笑顔を見せてくれただろうか。少し怖くなった。

久々のナムチェで、色々なことを期待していただけに残念だった。

DAY18:今夜の居場所マップ

ネパール・エベレストトレッキングマップ