初心者のための登山とキャンプ入門

祖母山登山① 停滞で藤井さんと出会う。そして山頂目指し熊笹を掻き分け登る。

尾平から見る祖母山

あらすじ:九州の百名山、阿蘇山・祖母山・九重山・霧島山・開聞岳を一気に巡る旅に出ました。阿蘇山を登り終えると夜道を祖母山に向け走り、そして登山口の”尾平”駐車場に到着。そこでテントを張り一晩過ごしました。そして翌朝。

石井スポーツ 2016冬季 岳人祭

雨で尾平の駐車場に停滞

2013年の4月17日水曜日。九州の百名山を巡る旅2日目。
ー 祖母山の登山口 ”尾平” の駐車場 ー

6時頃だろうか、雨がパラパラとテントの屋根にあたる音で起きた。天気予報の通り。昨晩はめずらしくすぐに眠れたように思う。恐怖で眠れないかと心配していたが、どんな風に眠りについたのかも覚えていない。疲れていたのだろうか。

今日祖母山に登るかどうか。こんな雨の中、きついと思われる祖母山に登るのは嫌だし寝袋から出たくもない。でも九州登山の日程もカツカツだから無理をしなければならないか、とも思う。
登るのは嫌だ、登らなければならない、のやりとりを繰り返すが答えは出ず寝袋の中から動けない。決断をするために車に移動した。

車の中に移動をしてもそのやりとりはしばらく続いた。よし登るぞ、とテンションが上ったかと思えば5分後にはやっぱりやめようと思っている。いや、やっぱり登って防水カメラを試そうか。とか、そんなやりとりを何度も繰り返した。空は真っ白で細かい雨が絶え間なく降っている。車の中は冷えきって息が白い。

選んだ答えは停滞だった。
そこに辿り着くまでに色々な言い訳を作ったと思うけど、雨の中登るのが嫌だ、ってのが98%くらいの理由。天気予報は”雨のち曇”だと言う。けれどどのタイミングで雨がやむかなんてわからない。明日は晴れなんだから明日登ることにする。今日は何もしない。そしてテントに戻り眠った。

13時過ぎ、雨がやんだ音で起きた。車のエンジン音がやんで目を覚ます、そんな感覚だった。かなりぐっすりと眠れた様で気持ちがいい。しかも雨がやんだだけではなく空が明るくなっている。そして暑い。外に出て空を見る。雲に覆われているが空の色は明るい。

昼飯を作る事にした。やることもないので米が炊けるのをひたすらじっと見守った。ふと車を見るとワイパーとフロントガラスの間に封筒が差し込まれている。どうやらここに駐車場の料金を入れ料金箱に投函する、と言うシステムの様だ。
それにしてもいつ人がきたのだろう。まったく気づかなかった。そしてその封筒に二日分の駐車料金1000円を入れ投函。テント場代も払わなければならないか、としばらく悩んだ。

昼食はカレー。レトルトのカレー。米と水の分量をいい加減にやったからだろうか、それとも水につけておかなかったからだろうか、ごはんの出来は15点くらい。そしてマックスバリューのカレーも美味しくない。泣きそうになりながら米1号ぶんを食べきった。
しかし昨晩は恐怖で震えていた駐車場だったけれど、明るいとなんてことないし、むしろ親近感が湧いて居心地がいい。いい駐車場だなあ~ここ、なんて思ったりする。暇なんだろう。

尾平の駐車場からトイレまでは歩いて1分くらいあった。そしてそこでコッヘルを洗った。水も少ないので飲みたかったけれど、どれだけ待っても米のとぎ汁の様な色の水で怖い。けれどここ以外水を入手する場所は近くにない。節約しなければならない。ちなみにトイレ内はウッディでえらく綺麗で、桧の様な新鮮な木の良い香りがする。最高。

暖かくなってきたので頭も洗った。MSRの地球に優しいシャンプーは思ったよりよい。どうせ僕の超オイリーな頭じゃ泡なんか立ちやしないだろう、と思っていたけれど、かなり泡立って数日分のあぶらを洗い流してくれた。スッキリ。最高。

登山道の向かう方向、山深い方に背の高い山がちらりと見えた。祖母山だろうか。

祖母山 尾平の駐車場の様子
尾平の居心地のよい駐車場
尾平駐車場のトイレ

藤井さんとの出会い

濡れた髪をひなたぼっこで乾かしていると、駐車場の方から男性が歩いてきて僕に声をかけてくれた。背が高くてスラリとした人。ここいらを管理している人かなと思ったが、話すと彼も祖母山を登るためにここに来た様だ。

そして彼は「ルンペンやってます」と自己紹介をした。まじでルンペンか、変なのきちゃったなあ~、とまじめな僕はウワアって思ったけど、よくよく考えればこんな山奥にやってくる物好きな浮浪者はいない。ギャグだと理解できた。
しかも彼の目はとても涼しくて爽やか。どちらかと言うと、ルンペンよりはジェントルマンと言った方が相応しい様に思えた。そしてどちらかと言うと僕の方がルンペンに近い。濡れた長髪をお日様で乾かしている最中なのだ。

そんな彼のツカミも効いて、警戒心の強い僕も心を許した。

藤井さん

名前は藤井さん。石川県の人。年は60代の前半だろう。仕事を引退すると車で各地を旅したり、登山をして楽しんでいる様だ。今回は九州を旅行しながら百名山を登る旅に来ている様で、道の駅で車中泊をしながら点々としているという話し。僕と同じ様な旅をしている人がいて嬉しくなった。

僕はまだ阿蘇山しか登っていないが、藤井さんは開聞岳も霧島山も登ってきたらしい。また僕が旅の帰りがけに登ろうとしていた四国の石鎚山や剣山もすでに登っていた様で、そんな山の話なんかをして盛り上がった。
藤井さんは本当に良く笑う人でその笑顔がすごく素敵。そして話しているとこの人は若いなあと関心した。僕の様な若造と話していても年寄り臭い感じが一切ない。人生はこんなもんです、みたいな決めつけも諦め感もない。目が少年の様にキラキラと輝いて、その目線の先には色鮮やかな未来が見えている様な気がする。だから僕も年が近い人の様に楽しく冗談まじりに話せた。こんなオヤジになりたいと思った。

夜メシは各自で食べた。僕は昼のリベンジでもう一度ご飯を炊き、おかずにスパムを焼いた。

ご飯は先ほどよりはうまく炊けたけれど、それでも30点くらいの出来だ。察するに外で作っているからだろうと思う。気温が低いのでじゅうぶんな熱でお米を炊けていないのだ。またスパムも重すぎた。小型のものを買ったけれど、まるまるひと缶食べるのはきつい。泣きそうになりながら食べ、明日の朝食分に少し残した。

食後は藤井さんの車のキャンプスペースに遊びに行った。藤井さんが杖を作っていると言うので、僕も彼のナタを使い木の表面を整える作業を手伝った。彼のキャンピングチェアに座りナタを振るい、人生や山の事、自分がしてきた旅の話しなんかをしていると旅らしくてとても良い気分になれた。明日は一緒に登りましょうと約束をした。

日が完全に落ちるとテントに戻った。19時くらいだったろうか。そして僕は即効寝袋に潜り込んだ。一日中頭が重くて横になりたかった。

もうこのまま寝てしまうおうと決めたけれど、昼過ぎに起きたので眠れるわけがなかった。また藤井さんと早朝に出発する約束もしたのでそれもプレッシャーになっていた。ひたすら数時間、寝袋の中でじっとして過ごした。沢の音がザワザワと聴こえやむことを知らない。耳をすませば虫の鳴き声や獣の息遣いをその中に感じとる事ができる。

祖母山、宮原コースの急登と熊笹

4月18日木曜日。ペルー人の奥様方と談笑をしているところで目が覚めた。意味がわからないが悪くない夢だ。眠りは浅くあまり寝ていない様にも思うが、寝袋でじっとする作戦が功を奏した様で体が軽い。眠れない時は寝たふりをして朝まで過ごすのが良い。

時計をみると5時前。希望通りの時間。ヘッドランプをつけ外に飛び出すとテントを撤収、昨晩残した冷えきったご飯とスパムを泣きそうになりながら食べた。その後は鍋を洗い歯を磨き、下山後すぐに発てる様に荷物を整理した。すごく活発でエネルギッシュな朝だ。東京にいる僕に見せてやりたい。

そして6時、藤井さんとともに出発。祖母山の山頂を目指して。

林道を歩く。もう十分に辺りは明るい。この時期は5時半頃からヘッドランプなしで歩けるようだ。進行方向にはギザギザと尖った山の稜線が壁を作っている。両神山の様な、縦走したらアップダウンで苦労しそうな感じだ。このとんがりの中のどれか1つが祖母山のピークなのだろうか。

沢沿いをしばらく歩くと”黒金山尾根”と”宮原コース”の分岐に辿り着く。そこには宮原コースは一般向き、黒金コースはハード、と書いてあった。僕らは予定通り、登りに宮原コース、下りに黒金コースを選択、そして吊橋を渡り山中に突入。

祖母山
祖母山、宮原コースと黒金山尾根の分岐
宮原コースは黄色の吊橋で沢を渡る

藤井さんが速い。
彼の伸長やストライドからこの人は速そうだな、と予想をしていたが予想以上の速さだ。平地でもかなりの差がある。なので彼についていくことをすぐに諦めた。けれど、それでも自分のペースはついつい上がってしまう。山頂が晴れているのは朝のうちだけだ、と予想も立てていたのもある。

そして登山道もかなり急勾配。踏み跡もバリエーションの様に少ない。百名山はどれも整備されて登りやすいと思っていたが、祖母山はどうやら違う様だ。汗を吹き出しながら顔を真赤にして登った。落ち着け。ゆっくりいけ。

ポイントポイントで藤井さんは僕の到着を待ってくれていて、その都度僕にナッツや塩飴をくれた。そしてきつい山の腹を登り終えると予定通り林道歩きになった。短い間だけれど幸せだ。しかしこれからなのだ。

林道の執着点あたりで水場があるはずだったが、それらしきものを見つけることができなかった。沢に一度下りたけれどそこで汲めという事なのだろうか。祖母山に来てから水を入手することができなかったし、この急登で水をがぶ飲みしてもう残り1リットルも持っていない。なので沢の水を汲むことにした。腹が痛くならないといい。

祖母山 宮原コースの沢
一度沢に下りる。そして水を汲んだ。

ようやっと宮原に向かう尾根に入ったが、そこでも変わらず急登が続いた。ひたすら樹林帯で地味で激しい道だ。尾根が細い。分岐でひと休憩。藤井さんも大変だねえと言っていたが、彼の顔には余裕がある。マラソンをやっているからなのだろうか。去年山を始めた人間とは思えない。

そこからなおも地味できつい樹林帯を登り続け、1時間後くらいに宮原の分岐に到着。やっと祖母山の山頂に続くメインの尾根に辿り着いた。地図には”馬の背”とある。細い尾根なんだろうか。

歩きはじめてわかったが、細い尾根かどうかなんてわからない。と言うのも登山道の左右は背の高い熊笹で完全に覆われていて尾根の様子を把握することができない。それとクマが怖い。登山口にはクマに注意という看板がいくつかあったし、クマザサという響きはどうもクマを連想させる。無駄に口笛を吹いたり、足音を大きく鳴らしたり、そんなことで気を紛らわしながら熊笹ロードを突き進んだ。

突然視界が開けると、冷たくて気持ちのよい風が尾根を抜けた。左手は鋭い崖になりストーンと落ち、その向こうにはM字型をした祖母山の山頂。青空。どうやらここらが馬の背と呼ばれるところだろう。確かに細い尾根だ。
この宮原コース、これまでに眺望は全くなかったと言っていい。前半は濃い樹林帯歩きでその後は熊笹に視界を奪われ続けた。けれどここに来てこの景色。ためた分だけ開放感がすごい。叫びたくなる。

でもそんな素敵な景色を楽しめるのもわずかで、その後も変わらず熊笹ロードは続いた。何回か小山を越えては下りた。細い尾根にありがちな感じで登っては下る。そして尾根の行き先に小屋が見えた。

祖母山 宮原コースの熊笹
祖母山とアケボノツツジ
奥のM字の山がたぶん祖母山